ART / DESIGN

パネライの新作モデルに見る、
ラグジュアリーウォッチブランドの新たなる試み

2019.05.29 WED
ART / DESIGN

パネライの新作モデルに見る、
ラグジュアリーウォッチブランドの新たなる試み

2019.05.29 WED
パネライの新作モデルに見る、ラグジュアリーウォッチブランドの新たなる試み
パネライの新作モデルに見る、ラグジュアリーウォッチブランドの新たなる試み

「モノ消費よりコト消費」という言葉が、マーケティングの世界で使われるようになって久しい。高級時計の世界に目を向けると、今年、イタリアのダイバーズウォッチブランド「パネライ」から、特別な“エクスペリエンス”を提供する驚きの新作が登場した。

Text by Yasuhito Shibuya
Photographs by SIHH 2019、Panerai、Yaushito Shibuya

ひとつの「神話」が終わった

「モノより体験を」──そんな“コト消費”の価値観が、昨今、注目を集めているのはご存じの通り。こうした傾向は、消費者のモノに対する価値観に変化が生じたことの証左だろう。

かつて、多くの人々の消費の原動力は「モノを所有したい」という欲望だった。高価なものや他人からの評価が高いものが“良きモノ”であり、それを手に入れることで、幸福になれる。そのパワーでさらに魅力的な自分になれる。多くの人々がそう信じていた。それは、ある意味で消費社会における神話だったともいえるだろう。

しかし、消費社会が高度に成熟したことで、こうした神話は過去のものになりつつあり、“良きモノ”自体の定義も変化している。たとえ他人の評価が高くても、自分の価値観やライフスタイルにフィットしなければ意味がない。そんな認識が一般的になったのだ。必ずしも所有する必要はない、という新たな価値観も生まれた。

モノ自体よりも、モノによりもたらされる体験や時間に価値が置かれる昨今だが、そんな時代のニーズに呼応するのが、「特別な体験」自体を商品化した体験型サービスや、体験型サービスが付帯する製品だ。たとえば、制作工程の一部を自ら体験できたり、購入することで特別な体験がもたらされたり、といった類いのものである。そうした製品は、購入者にとって単なるモノであることを超え、かけがえのない価値をもたらしてくれる存在となるだろう。

世界を驚かせた、夢のエクスペリエンス

2019年1月中旬、高級時計のトレンドをリードする国際的な時計展示会「Salon International de la Haute Horlogerie(通称:ジュネーブサロン)」で、伝説のダイバーズウォッチブランド「パネライ」が発表した新作「サブマーシブル」の3つの限定モデルに、世界中から集まったジャーナリストやリテーラーがどよめいた。
新作の原点、1956年製の通称「エジツィアーノ」。初めて回転ベゼルを採用した
新作の原点、1956年製の通称「エジツィアーノ」。初めて回転ベゼルを採用した
その真偽を疑ってしまうほどの夢のようなエクスペリエンスが、購入者へのサービスとして用意されていたからだ。生産数が非常に限られていることもあり、残念ながらいずれのモデルも完売しているが、ラグジュアリーブランドの今後のあり方を示す一つの例として、それらニューモデルとともに、付帯する特別なエクスペリエンスを紹介したい。

世界的フリーダイバーとのダイビング体験 ──「パネライ サブマーシブル クロノ ギョーム・ネリー エディション- 47mm スペシャルバージョン」

世界15本限定で発売された「パネライ サブマーシブル クロノ ギョーム・ネリー エディション - 47mm スペシャルバージョン」は、ダイビングを愛する人にとって、まさに夢のようなエクスペリエンスが提供されるスペシャルモデルだ。
パネライのアンバサダーでもあるギョーム・ネリー氏と、シングルブレスで水深126mの世界記録を樹立したときのダイビング
パネライのアンバサダーでもあるギョーム・ネリー氏と、シングルブレスで水深126mの世界記録を樹立したときのダイビング
フリーダイビングの世界チャンピオンであり、シングルブレス(1回息を吸うだけで潜れる深さを競う)で水深126mの世界記録を持つフランス人フリーダイバー、ギョーム・ネリー氏。彼の名前を冠したこの新作モデルの購入者には、そんなダイビング界のスーパースターとの特別なエクスペリエンスが用意される。ネリー氏が住むフランス領ポリネシア諸島、モーレア島に招待され、直接フリーダイビングのレッスンを受けられるだけでなく、世界有数の美しさを誇り、クジラが現れることでも知られるモーレア島の海を彼とともに探検できるのだ。ダイバーにとって、これはまさに“夢のようなエクスペリエンス”といえるだろう。

サブマーシブル クロノ ギヨーム・ネリー エディション - 47mm スペシャルバージョン
Submersible Chrono Guillaume Nery Edition - 47mm Special Version
サブマーシブル クロノ ギヨーム・ネリー エディション - 47mm スペシャルバージョン
ポリネシアの海の色を思わせるターコイズブルーのアワーマーカーやクロノグラフ秒針が美しいスペシャルモデル。チタン製のケースバックには、ギョーム・ネリー氏のサインとモーレア島のイメージが刻印される。自動巻き。ブラックDLCコートチタンケース。ブラックセラミックベゼル。ケース径47mm。30気圧(300m)防水。世界限定15本。参考価格468万7,200円(税込)。完売。通常バージョンは世界限定500本。231万1,200円(税込)。2019年6月発売予定。

偉大な探検家との集中トレーニング体験 ──「パネライ サブマーシブル マイク・ホーン エディション - 47mm スペシャルバージョン」

一方、地上での冒険を愛する人が見逃せないのが、現代において最も偉大な探検家のひとりであるマイク・ホーン氏とのコラボレーションモデル「パネライ サブマーシブル マイク・ホーン エディション – 47mm スペシャルバージョン」だ。
探検家マイク・ホーン氏。地球上のあらゆるフィールドでさまざまな冒険を成功させてきた
探検家マイク・ホーン氏。地球上のあらゆるフィールドでさまざまな冒険を成功させてきた
モナコを出発点に南極と北極を通過して地球を縦断するプロジェクト「Pole 2 Pole」をはじめ、パネライを腕に人類史に残る数々の大冒険を成功させてきたマイク・ホーン氏。世界限定19本のこのコラボレーションモデルには、北極を舞台に彼が行う数日間の集中トレーニングに参加できるという、やはり唯一無二のエクスペリエンスが用意されている。

サブマーシブル マイク・ホーン エディション – 47mm スペシャルバージョン
Submersible Mike Horn Edition – 47mm Special Version
サブマーシブル マイク・ホーン エディション – 47mm スペシャルバージョン
役目を終えた航空機の機体を再利用した「ECO・チタン」素材を腕時計史上初めて、ケース、リュウズプロテクター、ベゼル、ケースバックに採用したサブマーシブルのスペシャルモデル。ケースバックにはマイク・ホーン氏のサインと海の生物のイメージを刻印。ストラップにはペットボトルをリサイクルしたPET素材を使用。自動巻き。ケース径47mm。30気圧(300m防水)。世界限定19本。参考価格488万1,600円(税込)。完売。通常バージョンは世界限定500本。247万3,200円(税込)。2019年11月発売予定。

ブランドの原点に関わる特別なエクスペリエンス ──「パネライ サブマーシブル マリーナミリターレ カーボテック™ - 47mm スペシャルエディション」

パネライの原点に関わる特別なエクスペリエンスが用意されているのが、世界33本限定でリリースされた「パネライ サブマーシブル マリーナミリターレ カーボテック™ - 47mm スペシャルエディション」だ。
海軍エリート部隊の訓練に参加するという特別なエクスペリエンスが贈られる
海軍エリート部隊の訓練に参加するという特別なエクスペリエンスが贈られる
そもそもパネライは、第二次世界大戦直前の1936年にイタリア海軍の第1潜水隊特殊部隊のために試作した10本の腕時計にルーツをもつブランドだ。現代のイタリア海軍特殊部隊「Comsubin(コムスビン)」とのコラボレーションにより誕生したこの新作モデルの購入者には、彼ら海軍のエリート部隊員と潜水訓練を含む特殊トレーニングを体験するチャンスが贈られるという。

サブマーシブル マリーナ ミリターレ カーボテック™ - 47mm
Submersible Marina Militare Carbotech™ - 47mm Special Edition
サブマーシブル マリーナ ミリターレ カーボテック™ - 47mm
薄い炭素繊維のシートを高分子ポリマーではさんで何層にも重ね高温高圧で圧縮した超軽量な特殊素材「カーボテック™」をケース、ベゼル、リュウズプロテクターに採用。チタンを超える軽さとステンレス以上の強度を実現した本格ダイバーズモデルのスペシャルバージョン。ベゼルやダイヤル上のアワーマーカー、針には優れた蓄光性を誇るスーパールミノバ®が塗布され、暗闇での視認性も抜群。ケースバックには特殊部隊のロゴが刻印される。自動巻き。ケース径47mm。30気圧(300m)防水。世界限定33本。参考価格488万1,600円(税込)。完売。通常バージョンは世界1000本限定で247万3,200円(税込)。2019年7月発売予定。

腕時計に秘められた“特別な物語”をオーナー自身が体験

今回紹介した3モデルは、その特別なエクスペリエンスを鑑みれば、価格以上の価値があるといえるだろう。また、他ブランドからも、同様のサービスを備えた高級時計が登場しているのも興味深い。

パネライに限らず、人々を魅了する腕時計には、 そのプロダクトの魅力を象徴する“特別な物語”が宿っているものだ。そんな物語を、ごく限られた人数ではあるが、オーナー自身が体験できるのは、画期的なサービスだといえるだろう。いずれにせよ、ラグジュアリーウォッチの世界にも、”コト消費”の波が確実に押し寄せているのである。

パネライ
www.panerai.com

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