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EXPERIENCE

「逃れられない自分」を知ることが
クリエイティブへの第一歩――為末 大

2019.03.20 WED
「逃れられない自分」を知ることがクリエイティブへの第一歩――為末 大

長らくスプリント競技日本代表の顔として注目を集め、現役引退後は、スポーツを取り巻く社会的課題と向き合う実業家として活躍するようになった為末大氏。本記事では、彼を突き動かすエネルギーの源泉に迫る。

(読了時間:約4分)

Edit by Keisuke Tajiri
Text by Ryo Inao
Photographs by Isamu Ito

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スポーツ界の“異端”に世間が注目

近年、アスリートが自らの成功談をまとめた自叙伝や、自身の行動哲学をまとめた書籍が、ビジネスのカテゴリーでランキング上位に並ぶ光景をよく目にするようになった。こうした傾向が顕著になったのは、為末大氏が2012年の現役引退後に執筆したいくつかの書籍がベストセラーになったことが関係しているのかもしれない。

「今も若干そのイメージは残っていますが、はじめのころ私はスポーツ界では異端者扱いされていたと思います」と謙遜しながら、為末氏は“思考の発信者”としての自身の姿を振り返る。
当時は社会問題について語るアスリートがほとんどいなかった」と為末氏
当時は社会問題について語るアスリートがほとんどいなかった」と為末氏
「私ほどおしゃべりなアスリートは珍しかった。だから引退後、私にはスポーツ×言葉という居場所があったのです」。社会に問題が起きると、世間は解を与えてくれる発言者を求める。為末氏の洞察力の深さは、スポーツ界に限らずさまざまな局面でコメントを求められるようになり、引退後しばらくはテレビメディアを主戦場に活躍。元オリンピアンでありながら、アスリートとは異なる視点から率直な意見を述べることができる資質が社会に受け入れられたのだ。

個人と組織の両軸から社会課題を見極める

独自の視点からの舌鋒を武器に、自身を「メディア」と自認する為末氏はコメンテーターのほかに実業家としての顔ももっている。

「コメンテーターとして私が問題に対して論じても、それだけでは何も解決しなかったんです。そうした“言うは易し”という状態がもどかしいなと思い、「Athlete Society」という社団法人を立ち上げることにしました。論じるだけはなく、課題解決をする当事者になろうと思ったわけです」

そこから組織として成長し続け、2018年にはスポーツとテクノロジーをかけ合わせたプロジェクトを展開する会社「デポルターレパートナーズ」を立ち上げ、個人と組織の両面から、若手アスリートのサポートや義足開発など、さまざまなスポーツ関連事業を手がけている。
為末氏が館長を務める、義足開発ラボを備えた全天候型のランニングスタジアム
為末氏が館長を務める、義足開発ラボを備えた全天候型のランニングスタジアム
「社会が抱える歪みを敏感に感じ取り、テレビやSNSなどのメディアを使い個人として発信を続けながら、組織を活用して社会を充足させていきたいと考えています。たとえば義足をつくる活動もそのひとつ。ただ、私はアイデアがあっても特別なスキルを持ち合わせているわけではないので、自分でプロダクトアウトすることはできません。なので技術を持った社員のサポートや義足開発のベンチャーである「サイボーグ」さんのようなパートナーと一緒に課題解決に取り組んでいます」

理想を語る前に、己を知るということ

競技を通して培ったスキルと社会的に求められるスキルが噛み合わず、引退後に十分な収入を得ることができないといった、アスリートのセカンドキャリア問題がいま大きな課題になっている。では、為末氏がそうした壁を乗り越えて、世に受け入れられているのはなぜなのか。

「これは実体験に基づいた見解なのですが、今いいことが必ずしも未来永劫つづくとは限らないということです。かつては中田英寿さんのようにファッション誌に出たり、人気者になりたいと漠然と憧れている自分がいました。しかし、客観的に見ると誰もそんな役回りを私に求めていないわけです。それが分かったとき、自分はいったい何者であるのか、いまの社会で自分をどう活かすことができるのかを考えるようになりました」

現役引退間近、20代後半の約3年間、彼はアメリカを生活の拠点に据えた。日本では有名人の彼も、異国の地では誰でもない大多数の一人であることを肌身で感じ取った。「為末大」という人間をスポーツ界と外の世界をつなぐ「バランサー」としようと決心したのはその頃だという。
自身の立ち位置はどこにあるのか模索する日々が続いた時代も
自身の立ち位置はどこにあるのか模索する日々が続いた時代も
「誰しも他者からこう見られたいとか、憧れとなる像を抱いているでしょう。でも本当に重視すべきなのは、見せかけの姿よりも社会のために自分に何ができるかを知り、また自分という人間が“何から逃れられないのか”を理解することです。逃れられないというのはつまり、自分の興味や志向がどこにあるのかということです。それが僕の場合“好奇心”であり、すべての活動の源になっています。そう思うようになったきっかけを振り返ると、小学生のときに読んだ『シャーロック・ホームズ』にありました。些細な要素からものごとを関連付け、深い洞察力で事件を解決していく――まさに彼のような好奇心と洞察力をもって、スポーツと社会のあいだにある課題を解決していきたいですね」
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