VISIONARYMAGAZINE BY LEXUS

CRAFTSMANSHIP

西陣岡本──
金襴生地でつくるオートクチュール西陣織の魅力

2019.03.13 WED
西陣岡本──金襴生地でつくるオートクチュール西陣織の魅力

西陣岡本は京都で100年以上、美しい西陣織を追求し続けてきた。特に金襴(きんらん)は、織り込まれる金糸の放つ艶やかさが際立つ。彼らが新たに展開するのは、オリジナルデザインで織る金襴生地。海外からも注目を集める、オートクチュール西陣織の魅力に迫る。

(読了時間:約5分)

Text by Shigekazu Ohno(lefthands)
Photographs by Jun Miyashita

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伝統ある西陣織に新しい風を吹き込む

フランス・リヨン、イタリア・ミラノと並び、世界的な高級絹織物産地として知られる京都・西陣。室町時代の応仁の乱ののち、西側の陣地に戻ってきた職人たちが再び絹織物の生産を始め、一大産地となったことからその名前が付いた。

西陣岡本は、そうした西陣で100年以上の歴史をもつ。得意とするのは、神社仏閣で極楽浄土を表す宝物として丁重に扱われてきた、金糸を織り込んだ金襴。素材自体が非常に高価で、また織るのにも熟練の技を要することから、これまでは普通の着物ではなく、主に神社仏閣を飾る戸帳(とちょう)や打敷(うちしき)、あるいは高位の僧侶の袈裟、相撲取りの化粧回しなどに用途が限られてきた。
西陣岡本の玄関に掲げられた、西陣織工業組合の組合員証。歴史を物語る風合いがある
西陣岡本の玄関に掲げられた、西陣織工業組合の組合員証。歴史を物語る風合いがある
だが代々受け継いできた匠の技と、絢爛かつ深奥な美の伝統を次世代に承継していくためには、「いまの時代に求められる新しいジャンルの製品を世に出すことで、職人の手を動かし続けなければならない」ことを、西陣岡本の女将、岡本絵麻さんは悟っていた。実は彼女自身は北海道出身。よそから嫁いできた身だからこそ、伝統工芸を生業とする家業にはらむ問題を客観的に見ることができたという。
  • 明治時代から使っているという木製の手織り機を動かす職人。静かな工房内に、はた織りの音だけが響く
  • シャトルの中に緯糸(よこいと)を巻いたボビンを入れ、経糸(たていと)の上を走らせることで織っていく
東京の美大でデザインを学んできた彼女が取り組んだことは、感性面における現代性の付加。伝統の文様は柄のスケールを操作したり、配色をアレンジすることで新鮮味を得た。さらにはまったくの白紙の状態から、自身の創造力のみを頼ってオリジナルのデザインを起こす試みも。いつか行ってみたいと憧れるアフリカの大地や南米のジャングルを想像して描いた文様も、彼女を支える熟達した職人たちの手にかかれば不思議と美しい金襴生地として織り上がった。
岡本さんがデザインした金襴生地。モチーフは昆虫や南国の植物など、自在な発想を源とする
岡本さんがデザインした金襴生地。モチーフは昆虫や南国の植物など、自在な発想を源とする
こちらの金襴生地は、岡本さんの故郷、北海道に降る雪の結晶がモチーフ
こちらの金襴生地は、岡本さんの故郷、北海道に降る雪の結晶がモチーフ
言ってみれば、伝統とクリエイティビティの融合。そんな彼女の取り組みは、新しい販路と顧客の獲得にもつながった。例えば美しい金襴生地を額装した製品は、飲食店のインテリア装飾に採用された。また、顧客が好きな金襴生地を選んで仕立てるクラッチバッグは、和装、洋装を問わずドレスアップスタイルの華やかなアクセントとして人気に。そしてもうひとつのチャレンジが、顧客との対話から始まり、ゼロからデザインして織り上げるオートクチュール西陣織であった。

匠の技に支えられ、世界へ羽ばたく新時代の西陣織

「絵柄は自分で描くこともありますし、ご依頼のテイストによっては他の絵師にお願いすることもあります。それを金襴生地として美しく織り上げるためには、今度は納得がいくまで何度も何度も職人さんと一緒に試行錯誤を繰り返します。うちでは明治時代のシャトル織機を今でも使っていて、その微妙な調整はまさに職人さんの肌感覚頼り。最新の織機だと1日に200mも織れますが、うちでは3mくらいがやっと。そのかわり、独特の美しい風合いを出すことができます。金糸となる引箔(ひきばく)づくりも、技術をもった職人さんはもうここ京都にも何人かしか残っていません。本当にギリギリのところでかろうじて存続しているこの金襴の伝統を、何とかして次世代につなげたい。そんな想いから、思いつく限りのあらゆる挑戦を続けているのです」
金襴に不可欠な金糸となる引箔。和紙に漆を塗り、金箔を貼り、特殊な技術を持った職人が細く切っていく
金襴に不可欠な金糸となる引箔。和紙に漆を塗り、金箔を貼り、特殊な技術を持った職人が細く切っていく
そうしてつくり出される新しいオートクチュール西陣織は、次第に話題が話題を呼び、従来とはまったく異なる顧客層のもとへと届けられるように。用途も着物に限らず、例えばドレスやスカートを仕立てるための生地として注文する顧客も現れてきた。
雨粒を表現した美しいオートクチュール西陣織。どんなアイテムに仕立てるか、想像力が掻き立てられる
雨粒を表現した美しいオートクチュール西陣織。どんなアイテムに仕立てるか、想像力が掻き立てられる
また、伝統の技と現代の感性を結びつけて新たな製品を形にする西陣岡本の取り組みは、海外からも注目を集める。昨年11月から今年の3月3日までパリ装飾美術館で開催された「ジャポニスムの150年」展では、水野智章氏と井野若菜氏の2人のテキスタイルデザイナーが主宰するユニット「炭酸デザイン室」とのコラボレーションから生まれた作品が展示されて、地元のメディアからも高評価を得た。またイタリア・フィレンツェ発祥のセレクトショップ「TIE YOUR TIE」(タイ ユア タイ)は、西陣岡本の金襴生地を用いてダブルネームのタグを付けたタイを製作し、この春、銀座三越で販売した。さらにフィンランドの女優、ラウラ・ビルン氏は昨年、ゴールデングローブ賞の授賞式で西陣岡本の金襴生地で仕立てたドレスを纏い、たくさんのフラッシュを浴びた。
「TIE YOUR TIE」と西陣岡本のダブルネームのタイ。力織機(りきしょっき)で織られる
「TIE YOUR TIE」と西陣岡本のダブルネームのタイ。力織機(りきしょっき)で織られる
着物を着る機会が減ってしまった現代。だがその素材としての西陣織、特に黄金の輝きを放つ金襴生地は、老舗の若女将の新しい感性とアイデアのもとに、次々と新たな形をとって新たな客層を魅了している。美しいものを求めるニーズに国境はない。彼女と対話することによってつくり出される、世界でただひとつのオートクチュール西陣織。この更なる可能性から、目が離せない。

西陣岡本
http://okamotoorimono.com 

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