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TECHNOLOGY

スマートコンストラクションが
建設業界にもたらす未来

2019.03.06 WED
スマートコンストラクションが建設業界にもたらす未来

深刻な⼈⼿不⾜に悩む建設業界。この問題を根本から解決するための試みが、いま建設現場に⾰命を起こしている。「スマートコンストラクション」と呼ばれるICT(Information & Communication Technology)を活用したソリューションサービスだ。本記事では、世界的建設機械メーカー、コマツの取り組みからその可能性を明らかにする。

(読了時間:約7分)

Text & Photographs by Yasuhito Shibuya

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深刻な建設現場の⼈⼿不⾜

いま建設業界の⼈⼿不⾜は深刻な問題となっている。特に不⾜しているのが、⼯事を実際に⾏う技能を持った技能労働者の人たち。

「国⼟交通省が発表している公式の資料では、2025年度、必要な約300万⼈の技能労働者のうちの100万⼈以上、つまり1/3の⼈材が⾜りなくなると記されている。このことはハッキリしています」

世界的な建設機械メーカー、コマツ(⼩松製作所)の執⾏役員で、スマートコンストラクション推進本部の推進本部⻑を務める四家千佳史(しけ・ちかし)⽒は指摘する。
スマートコンストラクション推進本部⻑の四家千佳史⽒。「ICTは⽬的ではなくあくまで手段」と語る
スマートコンストラクション推進本部⻑の四家千佳史⽒。「ICTは⽬的ではなくあくまで手段」と語る
この⼈材不⾜は、技能労働者の多くが⾼齢で、彼らが続々と引退していること、そして建設業界への新規就業者が少ないこと、この2つが⼤きな原因といわれる。100万⼈という数字は、海外からどんなに⼈を招いても、埋めるのは難しい。現在、⽇本で働いている外国⼈労働者の総数は2017年10⽉末時点で約128万⼈(内閣府の資料による)。改正⼊管法でどんなに働き⼿を増やしても、この⼈材不⾜の解消は困難だろう。

「しかし、⼈が少ないからといって必要な⼯事を⽌める、減らすことは不可能です。未来のための新規の⼯事はもちろん、⽼朽化した社会インフラの保守や再整備の⼯事は絶対に必要で⾏わなければいけない。ではどうするか。解決策は、建設現場の労働⽣産性を上げること。また建設現場をスマートで安全なものにして、もっと多くの⼈に建設業界に来ていただく。それ以外に解決策は存在しないと思います」と四家⽒は語る。

ICT技術の活⽤で、建設現場を根本から変える

そこで四家⽒が先頭に⽴って2015年からスタートさせたのが「スマートコンストラクション」だ。ICTを活⽤して建設⼯事の現場のあらゆる要素を3次元のデジタルデータ化し、⼯事全体を「可視化」することにより⽣産性を劇的に高めるのが眼目で、⼈材不⾜の解消だけでなく⼯事の安全性の向上にもつながる画期的なソリューションサービスである。またこれは、国⼟交通省が2016年4⽉から推進する「i-Construction(アイ・コンストラクション)」構想を先取りした取り組みでもある。

⼈材不⾜の解消につながるというのは、スマートコンストラクションの導⼊で労働環境が安全で快適になれば、現場の働き⽅が⼀変し、建設現場のイメージも改善される可能性があるからだ。その結果、⼥性や未経験者などこれまで建設業界とは無縁だった⼈材の就業も期待できる。
⼥性や未経験者などこれまで建設業界とは無縁の人々の就業が期待されている
⼥性や未経験者などこれまで建設業界とは無縁の人々の就業が期待されている
従来の建設⼯事は、ベテランの技術者の技量や経験に頼る部分が⾮常に⼤きかった。現場でどのように⼯事を進めるかという施⼯計画を作る技術者は、現場の測量データと施⼯完成図⾯を頭の中で照らし合わせ、どのくらいの作業が必要になるか、どのくらいの量の⼟砂を動かすのか(⼟量)、何⼈の技能労働者と何台の建機でどのくらいの作業時間がかかるかを試算する。だが、厳密な計算は難しいという。

また建機による施⼯作業も、建機を操作するオペレーターの経験や技量を頼みに⾏われてきた。設計図に合わせて設置された杭やひも、ペンキで描かれた丁張(ちょうばり)という⽬印を頼りに、近くに⽴つサポート役の現場作業員の指⽰を受けて建機を操作する。しかし、頼りになるベテランの技術者やオペレーターは⾼齢で続々と引退していく。しかも、彼らの技術やスキルを継承する若⼿も少ない。

現場のすべてを3次元のデジタルデータで管理・活⽤

「スマートコンストラクション」は、こうした従来の建設⼯事のやり⽅を根本から変えるデジタルソリューションだ。⼯事に関するさまざまな要素を3次元データ化して管理し、徹底的に活⽤することで安全で効率的な施⼯を実現する。

具体的には、まずドローンを使って施⼯前の現場を精密に3次元で測量しデータ化。さらに2次元の完成施⼯図⾯も3次元データ化。そしてこの2つのデータを⽐較することで、現場で施⼯作業が必要な範囲や、作業する場所の形状、施⼯時に出てくる⼟砂の量(⼟量)などを正確に割り出す。
  • スマートコンストラクションの概念図。デジタルデータですべてが連携し可視化される
  • ドローンによる精密な測量。現場で毎⽇⾶ばして測量すれば⼯事の進捗状況も正確に把握できる
  • 現場の3次元データから、作業が必要な⼟量を正確に計算できる
次にこのデータに基づいて「⼯期を最短にする場合」、「コストを最⼩限にする場合」など、施⼯条件をさまざまに変えて、コンピューター上で⼯事のシミュレーションを⾏い、何通りもの施⼯計画を作成、顧客(施⼯業者)に提案する。

顧客はその中から最適な施⼯計画を選択。現場の精密な3次元データに基づいて⾃動制御で正確に動くICT建機を活⽤し⼯事を⾏う。この施⼯計画には、毎⽇の⼯程表から、その⽇に必要となる建機の種類や台数、⼟砂を運び出すために必要なダンプトラックの台数やその運⾏管理なども含まれている。

実際の施⼯作業も、ICT建機が3次元データに基づいて⾃動制御で正確に⾏うので、丁張りは不要だし、オペレーターの作業を横で⾒守り指⽰を出していた現場作業員も必要なくなる。安全で正確で、コストもおさえられる。
  • ICT油圧ショベルの運転席。⼤型のディスプレイには、作業する場所や内容がVR などで明確に表⽰される
  • ICT油圧ショベルの運転席。⼤型のディスプレイには、作業する場所や内容がVR などで明確に表⽰される
また、施⼯作業終了後に毎回ドローンを⾶ばして現場の測量を⾏うことで、予定通りのスケジュールで、設計図通りに施⼯されているかを正確に確認できる。⼯事完成時の最終的な「出来⾼検査」も、やはりドローンでスピーディかつ正確に⾏える。

さらに、現場で急遽必要になった設計変更や、悪天候や資材の搬⼊遅れなどで起きる施⼯計画(⼯程)の⾒直しも簡単だという。こうした変更は、現場を⽀援する「スマートコンストラクション サポートセンター」のオペレーターとやり取りすることですぐに行え、関係者間で3次元のデジタルデータとして共有される。

進化を続けるオープン・プラットフォーム

スマートコンストラクションによる施⼯計画はすべて現場の3次元データに基づいており、同じものはひとつもない。しかし、計画にはこれまでの何千もの具体的な施⼯実績から得た知的財産が反映されている。これはICT技術で⼯事の情報全体が3次元デジタル化されているから可能なことだ。
スマートコンストラクションの意義を伝える「コマツIoTセンタ」。技術講習会も開催
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「ベテランの技術者や技能労働者でも、1年間に経験できる現場は2つか3つ程度。ベテラン中のベテランでも100の現場を経験した⼈は、恐らく何⼈もいないでしょう。しかし、2015年2⽉にサービスがスタートしてから現在まで、スマートコンストラクションの導⼊事例はすでに7,000例を超えました。つまり私たちはこのサービスを通じて、すでに7,000もの現場を経験していることになります。その中にはいくつもの失敗があり、その失敗から学ぶことでスマートコンストラクションは進化してきました。そしてこの進化は、今も休みなく続いています」と四家⽒は語る。

施⼯実績が増えれば増えるほど進化を続けるスマートコンストラクション。だがこのサービスにはもうひとつ、⼤きな特徴がある。それは、外部の企業が⾃由に参加できる、つまり建設現場に関連するサービスやソフトウエアの開発がコマツ以外の企業でも⾏える「オープンなプラットフォーム」として展開されていることだ。

「オープン化することで、このプラットフォームをさらに⼤きく進化させたい。外部のいろいろなところと連携し、世界から新しい技術を導⼊する体制にすることで、それが実現できると考えています。⾃社の利益を優先し技術を『囲い込む』のではなくオープンなプラットフォームにすることで、コマツの建機を中⼼にした、新しい可能性やサービス、新たな利益が⽣まれてくる。⾃分たちはそこから適切な利益を分けてもらえれば、それで充分です」
ICTブルドーザとICT油圧ショベル。常時ネット接続され作業の状況がリアルタイムで管理確認できる
ICTブルドーザとICT油圧ショベル。常時ネット接続され作業の状況がリアルタイムで管理確認できる
コマツの本領はあくまで建機の開発と製造。スマートコンストラクションは、この建機づくりから派⽣したソリューションサービスであり、コマツのモノづくりの⼀環だと四家⽒は語る。

確かに正確な施⼯ができるコマツのICT建機があってこそ、このサービスは成⽴する。新時代の建機の能⼒を活かすために、このソリューションサービスは⽣まれたのである。

コマツのスマートコンストラクションのウェブページにはすでに、膨⼤な数の導⼊事例や解説動画がアップされている。その中の「スマートコンストラクション動画館」には、「スマートコンストラクション チャレンジ3Days わたしたちの道路『⼥性社員5⼈で道路⼯事に挑戦』」という動画もある。これは、普段は事務職として働く若い⼥性社員5名がサポートセンターと連携しながら、ICT建機をオペレーションし、3⽇間で道路をつくる映像である。これを⾒れば、建設現場に起きている⾰命を実感することができるだろう。

スマートコンストラクションのキャッチコピーは「現場に、未来がやってくる。」だが、すでに未来は現場にやってきて、⽇々進化を続けているのだ。


スマートコンストラクション web ページ
http://smartconstruction.komatsu/

スマートコンストラクション動画館
スマートコンストラクション チャレンジ
3Days わたしたちの道路「⼥性社員5⼈で道路⼯事に挑戦」
http://smartconstruction.komatsu/movie.html
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