JOURNEY

IKA CHOCOLATE─
イスラエルのチョコレートが誘う、
中東世界への旅

2019.02.27 WED
JOURNEY

IKA CHOCOLATE─
イスラエルのチョコレートが誘う、
中東世界への旅

2019.02.27 WED
IKA CHOCOLATE─イスラエルのチョコレートが誘う、中東世界への旅
IKA CHOCOLATE─イスラエルのチョコレートが誘う、中東世界への旅

ザータルと呼ばれるスパイスや死海の塩を使った、創造的なチョコレート「IKA CHOCOLATE」がいま話題を集めている。手がけているのはイスラエル人のショコラティエール、イカ・コーエン氏。 彼女が醸し出す独特な味わいが世界のショコラファンを魅了し、知られざる中東の旅へと誘う。

(読了時間:約5分)

Text by Kazuhide Iketaki 
Photographs by Honami Kawai (Ika Cohen / amana)
Edit by Keisuke Tajiri

ひとつのスパイスで世界を魅了する

「私は旅人のような人生を送っています」イスラエル人のイカ・コーエン氏はこれまでにアラスカやアルゼンチン、南アフリカのほか、カカオ豆の産地であるマダガスカルやパプアニューギニアなど世界各地を回ってきた、いま世界が注目するショコラティエールだ。旅の途中に魅力的なカカオ豆との出会いもあったが、彼女が最も心惹かれた素材は身近なところにあった。イスラエルをはじめ、パレスチナ、ヨルダンなど中東エリアの食卓には欠かせない、力強い芳香を持つスパイス、ザータルだ。タイムを大きくしたような香草で、ゴマや塩、紫色の甘酸っぱい味を持つスマックというスパイスと混ぜ合わせ、主にオリーブオイルとともにパンやチキン、魚といった食材と組み合わせられるもの。

「子どもの頃、ピタと呼ばれるパンやザータルが好物だった。イスラエルらしい材料ということで、ザータルを入れることに挑戦したの。子ども時代を思い出したわ」と、振り返る。しかし、強い味わいや香りを持つザータル。チョコレートの原料の一部として使いこなすのには、それなりの工夫が必要だ。
ダーク、ミルク、ホワイトのチョコレートを使った「ミニチョコレートバー」
ダーク、ミルク、ホワイトのチョコレートを使った「ミニチョコレートバー」
そもそも、彼女がチョコレートの魅力に気づいたのは、ヘブライ大学の海洋生物学科を卒業後、修士課程で学ぶためにオーストラリアに渡ったことがきっかけ。旅行好きのコーエン氏は、各地で食べ歩いたところ、チョコレートが心底好きであると分かったという。「将来、何を本当にやりたいのか考えたところ、チョコレートをつくりたいと思った」と、研究者の道を捨ててショコラティエールという職業を選択した経緯を振り返る。「心のスーパーフード」と表現するチョコレートを朝からかじることもあるといい、「食べたいと思う限り、チョコレートをつくり続けるわ」と微笑む。
猫の舌をモチーフにした「キャットタング」はジャンドゥーヤ、アーモンドなど5種類のフレーバーを取り揃える
猫の舌をモチーフにした「キャットタング」はジャンドゥーヤ、アーモンドなど5種類のフレーバーを取り揃える
その後、チョコレートを研究すべく本場フランスに渡ると、ジャン=シャルル・ロシュー氏が率いていた「ミッシェル・ショーダン」や多くの腕利きのショコラティエのもとで経験を積み、2011年に、イスラエルのテルアビブに自身の工房とブティックをオープン。

すると、ザータルを使ったチョコレートの奇抜さで審査員たちの度肝を抜き、数々のショコラアワードを受賞。さらには今年1月に開催された日本最大のチョコレートの祭典「サロン・デュ・ショコラ2019」に初出店すると、わずか数時間で完売。日本のショコラファンからも熱い支持を集めている。

文化と風土が味をかたちづくっていく

独創性豊かで革新的なチョコレートをつくり続けるコーエン氏。ベースとなるチョコレートに対するこだわりは強く、伝統的なフランスの技法を基礎に、原料の品質にも厳しい目を向ける。「チョコレートは食感とバランスが必要。カカオやクリームなどが最高のバランスを得たとき、最もいい状態になる」と話す。

コーエン氏は、何度も配合を変えてチョコレートをつくり直し、最高のバランスにたどり着いた。「チョコレートとザータルを混ぜ合わせるのは誰でもできるけど、正確にやらないとダメ。何度も何度も試作を繰り返して、これは特別という味を見つけ出した。材料や質も重要だけど、最も大切なのはバランス。ザータルもそうだし、死海の塩やオリーブオイルを使ったチョコレートでも、オイルや塩がちょっと多いだけで、まったく違った結果になってしまう。オリーブオイルの香りが強く出すぎず、あくまでチョコレートとしての性格を保っているのを重視している」と力説する。
好きなあまりに「一日中チョコレートを食べていたいくらい」とイカ・コーエン氏
好きなあまりに「一日中チョコレートを食べていたいくらい」とイカ・コーエン氏
そのなかでもザータルを使ったチョコレートは彼女にとって特別な存在だ。「ザータルのチョコレートはハイレベルなもの。毎日のように食べるチョコレートではないわ。一度に何十箱も購入したいというお客さんがお店に来たけど、お断りしたわ。ザータルは素材として非常に面白いもの。バジルは純粋においしいし、オリーブオイルは健康という付加価値を与えてくれる」と、それぞれが最高のバランスを持つに至ったチョコレートへの自信をのぞかせた。

未知なる味への探究心はいつも旅で深め、メキシコではカカオのプランテーションを訪れた。「女性たちが伝統的な方法でホットチョコレートをつくっていたが、彼女たちはほとんど砂糖を使わなかった。子どもたちにお土産としてキットカットをあげたら食べてくれなかった」と、味覚は育った食べ物で決まってくるのを改めて実感したという。「一度、二度、三度と新たな味覚に挑戦すれば、必ず分かる瞬間がやってくる。ザータルもそうした味覚だと思う」と語る。
ミネラルが豊富に含まれる、死海の塩をつかった「ミネラルデッドシーソルトコレクション」
ミネラルが豊富に含まれる、死海の塩をつかった「ミネラルデッドシーソルトコレクション」
彼女のチョコレートづくりは、奇をてらったものではない。それだけで十分に魅力的なチョコレートに、ちょっとした価値を足したのだ。「私の作品でザータルやバジルを使っているように、新しい情報や知識を加えることで、チョコレートは個性的な作品に仕上がるの。私の場合、イスラエルに住むことが私の作品に新しい価値を与えてくれる。もちろん、イスラエルに限らず、すべての国はインスピレーションに溢れているはず。その国々の素材や文化を見渡して、結びつけ、それらをチョコレートの中に注ぎ込めばいいわ。私のチョコレートを食べて好きになったら、ぜひ、私の国を訪ねてその背後にある文化を感じてほしい。」


IKA CHOCOLATE
https://www.ikachocolate.com/

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