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毎日こつこつ小さく仕掛ける、これすなわちクリエイティブ──株式会社スマイルズ代表取締役社長・遠山正道氏

2019.02.25 MON
毎日こつこつ小さく仕掛ける、これすなわちクリエイティブ── 株式会社スマイルズ代表取締役社長・遠山正道氏

それぞれのフィールドにおいて活躍する第一人者にインタビューし、彼らのクリエイティビティの源泉を明らかにしていく連載企画「Source of Creativity」。第5回は、Soup Stock Tokyoなどを企画する株式会社スマイルズ代表取締役社長・遠山正道氏に話を聞いた。

(読了時間:約6分)

Edit by Shigekazu Ohno (lefthands)
Text by Ryo Inao (lefthands)
Photographs by Isamu Itoh

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気の向くままかつ真剣に、とにかくやってみる精神

「あるときふと、このまま定年を迎えても満足できない――そうはっきりと自覚したんです」。国内最大手の財閥系商社に勤め、社内でも一目置かれる少数精鋭の部署で活躍していた商社マン時代の遠山正道氏は自分の将来に想いを馳せ、変革の必要性に気づいたという。「それで、絵の個展を開くことにしたんです。それまでイラストを描くことはあっても、絵筆なんてちゃんと持ったことがなかったんですけどね」。

いまさら筆で絵を描いたところで仕方がないと、代わりに指や野菜、果物、幼い頃から好きだったブロック玩具によって絵画を描いた当時。仕事も忙しく、家庭には2歳になる子どももおり、「実際、そんなことをしている場合ではありませんでしたよ」と遠山氏は当時を振り返る。それでも、そんな道理に合わないこと、彼の言葉を借りれば「合理的に説明のつかないこと」を実行してしまったのは、それが遠山氏にとってはじめての意思表示であったからなのだという。
初の個展にて展示した、148mmの白いタイルに描いた作品を収めたブック。表紙は指で描かれたもの
初の個展にて展示した、148mmの白いタイルに描いた作品を収めたブック。表紙は指で描かれたもの
現在は「Soup Stock Tokyo」の各店舗に飾られる遠山氏のタイルの作品
現在は「Soup Stock Tokyo」の各店舗に飾られる遠山氏のタイルの作品
「私が所属していたのは、ある優秀な部長のカリスマ性を求心力にまとまっていた部署で、彼がいなくなれば解散も間違いないと思っていました。部がなければ、一体私に何ができるのだろうか。そう考えるとゾッとしました」

順風満帆な毎日をぬるま湯に感じ、見晴らした先に危機感を覚えるというのは誰しもが通る道だろう。しかし、守るべきものを背負った男が、その先の独立企業という自らにとって未知の地へと突き進むことができたのはなぜなのか。

「『アートとは見えないトリガーである』と私は考えています。プライベートにせよビジネスにせよ、アートから気づきを得ることがきっかけで、停滞を乗り越えられることがよくあります」と遠山氏。インスピレーションを与えてくれる存在としてアートを「トリガー」に喩える。

「触ることができたり言語化することができたりするような顕在化したものは、世の中にせいぜい1割しかないと私は感じています。残りの9割は真っ暗闇の中、目で確認することができません。その闇にこそ、まだ見ぬ価値が秘められているのではないでしょうか」

氏は続ける。「まだ何もないところに狙いを定め、誰にもまだ見えていない何かを形にしていく。丸太や岩石から像を掘り出す彫刻家や、まっさらなキャンバスにイメージを浮かび上がらせる画家が、まさにその好例です。そんな行動そのものがアートであり、そうして生み出された作品としてのアートが引き金となって新たなアートを起こすんですよ」

アートが教えてくれるビジネスの本質

近年、アートは国際的なコミュニケーションに必須の教養として、そしてビジネスや人生に変革をもたらし得るものとして、これまでにない注目を集めつつある。

2019年に創業20周年を迎えるSoup Stock Tokyoは、元は遠山氏が商社時代に立ち上げた社内ベンチャー事業であった。そして氏にとっては、自らの発意によって無から生み出された作品であるという。コピー紙ではなくキャンバスに描かれた事業計画書からも、そうした氏の想いが伝わってくる。
キャンバスにフィルムを貼って制作した、オープン前の「Soup Stock Tokyo」のプレゼン資料
キャンバスにフィルムを貼って制作した、オープン前の「Soup Stock Tokyo」のプレゼン資料
美術品のようにキャンバスにプリントされたスマイルズの事業計画書
美術品のようにキャンバスにプリントされたスマイルズの事業計画書
「ビジネスだって、そもそもはアートのように何もないところから価値を生み出す営みでした。しかし戦後の我が国では経済が発展すると、ビジネスの主役がマーケットに取って替わられてしまった。しかし、マーケティング主体のビジネスの世紀を経て、モノが溢れる世の中になった今、目を向けるべきはマーケットではなく自分たち自身の中。自分は何を欲し、何を生み出したいのか。自らの発意を世に提示していくべき時代が到来しています」

個の時代をいかに生き抜くか

スマイルズでは「自分ごと」という言葉がよく使われるという。もはや聞き慣れた感のあるフレーズだが、同社では世間一般に使われているよりも、より明確な意味を持って口にされているようだ。

「今後は、テクノロジーや価値観の更新によって、個人というそれ以上分けることができない最小ユニットが勢力を強め、江戸時代のような個商いが流布する。ある目的に合わせて最適な個人が組織され、達成されれば解散し、個人はそれぞれ次の目標に散っていく。つまり、全てがプロジェクト化するのです。そんな世界では仕掛ける者、声を掛けられる者、仕掛けもせず声も掛からない者の3つに、ビジネスパーソンのタイプが大分されるのではないでしょうか」
「ビジネスパーソンは3タイプに大別される」社内で共有される、自身のメッセージを読む遠山氏
「ビジネスパーソンは3タイプに大別される」社内で共有される、自身のメッセージを読む遠山氏
スマイルズの2019年の年賀状には、遠山氏による示唆に富んだ言葉が記されている
スマイルズの2019年の年賀状には、遠山氏による示唆に富んだ言葉が記されている
願わくは、仕掛ける者か声をかけられる者でありたい。そうなるためにはいかにすればいいのか、遠山氏はこう言う。

「会社を立ち上げるとか新規ビジネスを興すといったことばかりでなく、日常の中の些細なことからでもいいので、まずは自ら仕掛けることです。例えば、給湯室の麦茶をよりおいしいと思う黒豆茶に変える。そんな小さな発意でもいい。個商いの時代こそ、自分ごとが公の利になり得るはずです。単純に仕事をこなすのではなく、価値を模索する小さなアクションを繰り返すことで、声を掛けられるユニークな存在だと一目置かれる。そうしていつしか声をかける側に回ることもできるのではないでしょうか。これを、私はクリエイションと呼びます」

時代がアートを求める一足先に、概念的かつ行動的にビジネスを創造してきた遠山氏。彼の立ち上げた企業「スマイルズ」は、まさに彼自身があったらいいと思うものをビジネスとして生み出し続けている。作家・作品・読者の関係を再定義する1冊の本を売る「森岡書店」や、人の心の中で宿泊をアートピースとするべく1日1組のみが泊まることができる「檸檬ホテル」など、唯一無二の独創的なアイデア事業が注目を集める。件の「Soup Stock Tokyo」も、現在は同社の主要事業のひとつだ。

「2019年2月から、The Chain Museumというプロジェクトが始動します。ごく小さなミュージアムを世界中に沢山つくること、その鑑賞者がそれらを探索することを助けて、なおかつアーティストを直接支援することができるアプリの開発、そしてアートのプロデュースの3軸によって構成されるプロジェクトです」
佐賀県唐津市にある風力発電の風車に芽吹いた金色の葉。須田悦弘氏とのコラボアート。アプリで発見できる
佐賀県唐津市にある風力発電の風車に芽吹いた金色の葉。須田悦弘氏とのコラボアート。アプリで発見できる
本質を見つめ、他ではなく自身の中に答えを見出す遠山氏。そのクリエイティビティの源泉は、現状に甘んじず、仕掛け続ける確固たる意志にあった。
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