JOURNEY

雲南省北部、梅里山を臨む旅

2019.01.25 FRI
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雲南省北部、梅里山を臨む旅

2019.01.25 FRI
雲南省北部、梅里山を臨む旅
雲南省北部、梅里山を臨む旅

魅力的な被写体との出合いを求め、世界中を飛び回り続けている写真家、在本彌生。彼女が印象深い出合いを自らの作品と文章で綴る連載。第6回は、中国・雲南省のチベット文化圏に近い北部エリアを巡る旅をお送りする。

(読了時間:約5分)

Photographs & Text by Yayoi Arimoto

雲南省の省都、昆明のきのこフィーバー

日本よりも広い面積を持つという雲南省、一つの省の中に、亜熱帯的な南国情緒も6,000m級の雪山を望むような高山地帯もある。

民族も多様で、東南アジアに隣接している地域とチベット文化圏に近い地域では、人の顔も着ているものも食べ物も変わってくる。実に旅のしがいがあるところと言っていいだろう。

そんな雲南省に「茶馬古道」がある。その言葉を聞いて、壮大なロマンを感じるのは私だけだろうか。

雲南省南部で盛んに生産されている茶を、山をこえたチベットにまで運び交易していたルート、それが茶馬古道なのだが、実際にこのルートの一部を辿りながら、雲南省を歩いてみようと仲間と計画した。春と秋の二度に分けて彼の地を訪れたが、ここではチベットに近い北部地域の人々の生活、自然、文化に触れたい。
山盛りの松茸をしきりに勧められる
山盛りの松茸をしきりに勧められる
アミガサタケ 籠盛りのセンスが良い
アミガサタケ 籠盛りのセンスが良い
旅は省都の昆明(こんめい)からはじまった。
以前からこの町の「きのこフィーバー」のことを噂に聞いていたので、まずはその現場へ向かいたい。野生きのこのシーズンがもうすぐ終わってしまうというから、急がなければ。山の民がそれぞれに収穫したきのこを抱えて集まる市場を覗きに行ってみた。

きのこの類のことを中国語では「野生菌」と書く。山の自然の中で発生した珍しいもの、ちょっと危険な感じさえするネーミングに、ますます興味惹かれる。「野生菌交易中心」のゲート横の場外にも、ずらりと形も色もさまざま、面白いきのこたちが並べられている。
40cmを超えるきのこ、一本で何皿も料理ができそう
40cmを超えるきのこ、一本で何皿も料理ができそう
きのこ鍋は町の人々もシーズンを待ちかねる人気メニュー
きのこ鍋は町の人々もシーズンを待ちかねる人気メニュー
私が日本人と分かると、彼らはしきりに「ソンロン(松茸)あるよ!」と声をかけてくるが、それよりも、知らないきのこに興味があった。杭のように大きく長いもの、絵の具で塗ったかのように鮮やかな色のもの、これが食べられるもので、山に自然に生えていると思うと感心してしまう。本当に素材ひとつとっても中国の食の世界は果てしなく、奥深いのだ。

いざチベット文化圏へ

きのこ鍋で精をつけ、いざ北を目指す。車に揺られること丸一日。麗江、大理と、大きな町を超えてチベット文化圏に突入。雲南省のこの地域は、入域許可を得ずには入れないチベット自治区とは違い、特別な山などを除けば入域に規制がないので、おおらかに旅ができる。

シャングリラに着くと、町の大きな広場には毛主席の巨大な銅像と電光スクリーンに迎えられ、一瞬それほどほかの大きな街と変わらないのかも知れないと思ってしまった。それでもその後遭遇した光景は、それとは正反対の偉大な自然と、そこに暮らす人々の姿だった。
スポットライトを浴びる毛沢東像
スポットライトを浴びる毛沢東像
町の喧騒から離れた山に建つ松賛林寺院
町の喧騒から離れた山に建つ松賛林寺院
雲南省の代表的なチベット寺院、松賛林寺院を訪ねた。町の中心から山に向かって15分ほど車を走らせると大きな寺の姿が山に張り付くように見えてくる。真っ青な空に純白の建物が映え浮き彫りにされるようだ。

遠くから見ただけでも圧倒的な存在感で、荘厳な雰囲気が漂う。構内には本堂、僧院から僧侶たちの住居までたくさんの建物が点在している。厳かな雰囲気の本堂以外のところは意外なほどのんびりとしていて、僧侶たちも声をかければ非常にフレンドリーに質問に答えてくれる。高地順応が十分できていたら問題はないのだが、本堂まで続く急勾配の階段をなめてかかってはいけない。この地域の標高は3,000mを超えている。ただ歩くのは平気でも、階段を10段も登ると心拍数がやけに上がってしまうので無理は禁物、外からきた者に向けて「急がないで、ご用心を」との看板が掲げてある。
シャングリラから梅里雪山への道中
シャングリラから梅里雪山への道中
シャングリラ周辺はワイン用ぶどうの一大産地
シャングリラ周辺はワイン用ぶどうの一大産地
山歩きの途中、目の覚めるような色の苔が美しい
山歩きの途中、目の覚めるような色の苔が美しい
シャングリラを離れ、今回の旅のハイライトとも言える梅里雪山の麓を目指した。

この連山はチベットの人々にとって大変重要な「聖なる山」。美しい山道があり、重装備でなくてもハイキングぐらいの気持ちで歩くことができると聞き、森林ガイドを伴って歩いた。

秋の山は彩り鮮やかで、あちこちから鳥の声が聞こえる。苔がびっしりと生えた道を歩くと、もこもことして気持ち良い。酸素の薄さゆえ、少しの登りでも息が上がる。呼吸を整えるたびに度々立ち止まって辺りを見回すのだが、それがまたなんとも気持ち良い。そしてこういう時、私はつくづく実感してしまう、自分は非力でちっぽけな生き物なのだと。遠くに白く輝く梅里雪山はあまりにも神々しく、人々が昔から変わらず山や自然を崇めてきたことが至極正しいことに思える。
倒木を彩るレースのような山の植物
倒木を彩るレースのような山の植物
昼食のために山荘に立ち寄る
昼食のために山荘に立ち寄る
翌朝、日の出前に起き、ホテルのテラスに出る。毛布にくるまりながら、朝焼けで薄紅色に浮き上がる梅里雪山を見た。瞬く間に変化していく山の色を眺めていると、普段の時間感覚から引き離されたような不思議な気持ちになる。目の前の偉大なものは常にそこにあるというのに、自然の作り出す光の中で一瞬ごとに変わっていく光景はその時だけのもの、たった今しか見ることができないのだ。私は写真を撮るのをしばらくやめて、二度とない時を目に焼き付けた。
民族衣装で記念撮影中の家族
民族衣装で記念撮影中の家族
紅葉した木々の向こうに見える梅里雪山
紅葉した木々の向こうに見える梅里雪山
早朝、刻々と変化する山の色を楽しむ
早朝、刻々と変化する山の色を楽しむ
撮影協力 
SONGTSAM BOUTIQUE LODGES & RETREAT
http://www.songtsam.com/

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