VISIONARYMAGAZINE BY LEXUS

TECHNOLOGY

唯一無二の技術でヨーロッパ市場へ──
小さな最先端企業たちの挑戦

2019.01.14 MON
唯一無二の技術でヨーロッパ市場へ──小さな最先端企業たちの挑戦

スイス・ジュネーブでは毎年6月、ヨーロッパ最大級の精密工作機械・金属加工の見本市が開催される。今年、そこに名古屋の中小企業7社の姿があった。彼らはなぜ出展し何を得たのか。彼らの話から、世界の工作機械の現在と、独自の最先端技術で勝負する日本の中小企業の姿が見えてきた。

(読了時間:約8分)

Text & Photographs by Yasuhito Shibuya

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名古屋からヨーロッパ市場へ

スイス・ジュネーブ空港に隣接するPALEXPO(パレクスポ)はジュネーブ・モーターショーやスイス2大時計見本市のひとつ「S.I.H.H.」でも知られる世界的な見本市会場。毎年6月、ここで「EPHJ-EPMT-SMT SALON INTERNATIONAL LEACER DE LA HAUTE PRECISION」という精密工作機械・金属加工技術の分野ではヨーロッパ最大級の国際見本市が開催されている。ヨーロッパ中から時計宝飾関連、精密加工関連、医療機器関連の3分野で800社を超える企業が出展。その中には産業用ロボットやセンサーなどで名高い日本の大企業の現地法人も含まれている。
見本市会場の見取り図はたくさんのブースが並んでいる
2002年に始まったこの見本市は年を経るごとに出展企業が増えるという盛況ぶり
2002年に始まったこの見本市は年を経るごとに出展企業が増えるという盛況ぶり
そして2018年6月、広大な会場の一角に「GREATER NAGOYA INIT - Japan(グレーター・ナゴヤ -ジャパン)」というひとつのブースがあった。

「グレーター・ナゴヤ」とは名古屋を中心に半径約100kmの地域を指す。中部工業地帯で知られるこのエリアでは、2005年から区域内の県や市、経済産業省や日本貿易振興会など産業界、大学、研究機関が幅広く手を結んで「グレーター・ナゴヤ・イニシアティブ協議会(略称GNIC)」という協議会を設立し、国際経済交流の促進活動を行っている。

協議会によるこの見本市への出展は2017年に続く2回目。その呼びかけに応じ、ここに集まるヨーロッパの企業に世界でも唯一無二の製品と技術力をアピールするべく、協議会のパートナー企業の中から7つの中小企業が参加した。
2017年にシュナイダー・アマン スイス連邦経済・文部大臣がブースに立ち寄った際の1コマ
2017年にシュナイダー・アマン スイス連邦経済・文部大臣がブースに立ち寄った際の1コマ
2018年、出展ブースに勢揃いした7つの出展社とそのスタッフたち
2018年、出展ブースに勢揃いした7つの出展社とそのスタッフたち

IoTなどで劇的に変化するモノづくり

「機械を作る機械」である工作機械や工具はあらゆるモノ作りの要。1960年代、日本は工作機械や工具の多くを輸入していたが、1970年代に入ると数値制御(NC)の優れた工作機械を続々と開発。1982年にはそれまで世界No.1だったアメリカを抜いて、日本は生産額で世界最大の工作機械生産国となった。

だが最先端の宇宙航空産業や軍需産業を持つアメリカには、ごく一部だが、まだ日本が及ばない部分もある。そして最先端の工作機械はドイツを中心とするヨーロッパが本場であり、日本の最も強力なライバルだ。また得意のNC工作機械でも中国の技術のレベルアップ、追い上げが著しい。
会場で行われていたカンファレンスも多くの人を集めていた
会場で行われていたカンファレンスも多くの人を集めていた
さらにIoT(インターネット・オブ・シングス)に象徴される「第4のモノづくり革命」も世界規模で進み、工作機械に求められる技術や要素も劇的に変化している。しかも中小企業は大企業以上にこうした「新しい動き」の直撃を受ける。安閑としてはいられないのだ。

グレーター・ナゴヤ・イニシアティブが主催するジュネーブでのこの出展は、スイスをゲートウェイにしたヨーロッパ市場の開拓を狙いとしたもの。

果たしてその成果はあったのか。「EPHJ-EPMT-SMT SALON INTERNATIONAL LEADER DE LA HAUTE PRECISION」開催から約5カ月後の11月5日、出展した7社のうち3社から、東京ビッグサイトで開催された「JIMTOF 2018(第29回日本工作機械見本市)」の会場で話を聞いた。

工作機械の「本場」でさらなる発展を

「ヨーロッパは何といっても工作機械の“本場”。海外出展はこの見本市が初めてではなく、当社の技術力は研削機械の本場・ドイツでも認めて頂き、製品をご購入頂いています。当社の超精密な工作機械は高輝度薄型液晶テレビやハイブリッド自動車、超高精度レンズなどのイノベーション実現のために、日本国内で大手企業に鍛えられ、また共に技術力を磨かせて頂いたものと自負しています。ですが、大量に販売するというビジネスモデルの製品ではありません。海外市場の開拓で、ビジネス環境のリスク分散をしたいと考えていたところで臨んだ今回の出展では、充分な手応えを得られたと考えています」
ナガセ インテグレックス代表取締役社長の長瀬幸泰氏。創業は1950年。後ろは同社自慢の超精密加工機
ナガセ インテグレックス代表取締役社長の長瀬幸泰氏。創業は1950年。後ろは同社自慢の超精密加工機
出展マシンのひとつ、0.1ナノメートル(注:1ナノメートルは10億分の1ミリメートル)単位で正確な加工を実現する超精密加工機研削盤を筆頭に、世界一の精度と能率を追求する工作機械メーカー「ナガセ インテグレックス」の長瀬幸泰代表取締役社長は哲学を交えて語る。

「当社の最新の製品は基本構造から100年200年も続いてきた“機械の常識”を覆す革新的なもの。本来の性能を引き出すためには、機械の理念や設計思想を理解して使って頂くことが必要です。ただ、海外の方は、私たち日本人より自国の人から説明を受けたいもの。それぞれの国に拠点を設け、ご購入頂くために各国の方々と血の通ったネットワークを構築すべき。こうした理念をしっかりとお伝えし、共感を頂いた上でお使い頂ける環境を整えたいと考えています」

また、単に市場を拡大するばかりでなく、将来のビジネスのための情報収集も、ヨーロッパ市場に進出する目的のひとつだという。

「第4次産業革命やIoT化に対する取り組みは、日本はあまり得意ではありません。欧米や中国の方がIoTの規格作りは上手です。こちらでネットワークを構築し、欧米の“ものの考え方”を理解したうえで、そうした新しい規格作りが水面下で動き始めたところでいち早く知りたい。そして、その動きに参加できるようにしたい。そのためにもヨーロッパでビジネスすることは重要だと考えています」

ビジネスの大きな可能性を感じた

「ジュネーブでの出展は2年目ですが、海外出展はグレーター・ナゴヤ・イニシアティブのこの取り組みがきっかけ。ビジネスの手応えを非常に感じています。我が社のモットーは“非常識を作る”ということなのですが、慎重で引っ込み思案な人の多い日本と違い、スイスやヨーロッパの方々は、我が社の非常識に敏感で、率直に“面白い”と興味を持って下さいます。だから、日本で製品を販売するより、ヨーロッパで製品を販売する方が簡単だと感じます。ヨーロッパではまず“面白い”ことが大事で、価格の話はその次です。この出展に参加し、ヨーロッパに目を向けてよかったと思います」
北岡鉄工所の瀧本理起・営業部長(左)と同・北岡正次会長(右)。創業は1964年
北岡鉄工所の瀧本理起・営業部長(左)と同・北岡正次会長(右)。創業は1964年
刃物のすべてに単結晶ダイヤモンドを用いたダイヤモンドツールで、社名にある鉄はもちろんのこと、あらゆる素材を独自の多彩な技術で精密加工するノウハウを持つ北岡鉄工所の会長・北岡正次さんはその手応えを笑顔で熱く語る。北岡会長はスイスの主要産業のひとつである時計業界にターゲットを定め、この展示会よりも前からコンサルタントと共に時計フェアに足を運んでリサーチにも取り組んでいた。その準備も実を結び、実績は着実に上がっているという。

「誰もが知っているスイスの時計メーカーとの取引もすでに始まりました。そのおかげで、日本の時計メーカーとの取引も決まり、注文に対応するのが大変な状況です。これは、グレーター・ナゴヤ・イニシアティブ協議会が企業だけでなく経産省やジェトロ(日本貿易振興会)などの行政、大学、研究機関なども連携している取り組みだから実現できたことです。たとえば、通常ならアクセスができないスイスの研究機関を訪問・見学し、プレゼンテーションも行えました。言葉の壁も手続きの壁も、この取り組みだから不安なくクリアできました。共同出展なので出展コストが安いのもメリットです」

また、モノづくりやビジネスにおいて共通する感覚をヨーロッパの人々には感じると北岡会長は語る。

「ビジネスは結局、人間関係です。こちらを一度好きになってくれれば、一度信頼関係が構築できれば、こちらがおかしなことをしなければ、長くお付き合いをして頂けるもの。私はそう考えて仕事をしてきました。そしてヨーロッパには同じ価値観をお持ちの方が多いと感じました。日本の“義理と人情”と同じものを感じます。しっかりと心がつながる。そんな相手に出会うことができました」

共同出展の相乗効果で新規顧客を獲得

前にも述べたように、この出展はヨーロッパ市場の開拓を目的にしたものだが、出展社の中には、すでにヨーロッパに拠点を持ちビジネスを展開している企業もある。難易度の高い加工を行う機械加工のプロフェッショナルを対象にした、「分かる人には分かる」世界最高峰の切削工具を開発・製造・販売しているイワタツールがそうだ。
イワタツールの代表取締役社長、岩田昌尚氏。創業は1928年
イワタツールの代表取締役社長、岩田昌尚氏。創業は1928年
「当社はヨーロッパ市場に約12年前から進出しています。切削工具に詳しいスイス人のパートナーとの出会いがあり、すでにスイスにサービスセンターを開設しています。それでも今回出展させて頂いた理由は、他の出展社がみな独自の、世界で唯一無二の素晴らしい技術を持っている会社ばかりだから。一緒に出展すればこちらも勉強になる。当社としても得るものが多い。それに、他の出展社を訪れる取引先の方々に、当社の技術や製品を見て頂くという相乗効果も期待できると考えました」

イワタツールの岩田昌尚代表取締役社長は出展の理由をこう語る。そして、その成果は充分にあったという。

「ヨーロッパは工作機械や工具の本場だけあり、技術レベルをしっかりと評価する、技術の実力を見極める情報力を持つ、目利きの方が多いのです。今回のジュネーブの出展では、他の出展企業を訪れた方々が当社の製品にも興味を持ってくださり、私たちの説明を聞いてくださった。このことで新たな顧客が生まれました。また、スイスのサービスセンターは、これまでスイス国内での市場開拓が充分ではなかった。今回の出展ではその課題も克服できました」

中小企業にとって海外市場、特にヨーロッパ市場への開拓は、アジアやアメリカ以上に難しいもの。だが唯一無二の技術力があれば、最も評価してくれるし、最も有望な市場になり得るのがヨーロッパでもある。グレーター・ナゴヤ・イニシアティブ協議会のこの取り組みと参加企業が語る成果は、このことを示唆している。
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