JOURNEY

ショールーミングストア「THIRD MAGAZINE」が
提供する新しいショッピングのかたち

2018.12.03 MON
JOURNEY

ショールーミングストア「THIRD MAGAZINE」が
提供する新しいショッピングのかたち

2018.12.03 MON
ショールーミングストア「THIRD MAGAZINE」が提供する新しいショッピングのかたち
ショールーミングストア「THIRD MAGAZINE」が提供する新しいショッピングのかたち

セレクトショップ「martinique」を手がけるアパレル大手のメルローズが、自社初のショールーミングストア「THIRD MAGAZINE」を立ち上げ、ファッション好きの心を掴んでいる。ECと実店舗を連動させた、次世代のショッピング体験の形に迫る。

(読了時間:約5分)

Text by Sachiyo Kamata
Photographs by Sachihiko Koyama(STUH)
Edit by Hitomi Miyao

店舗はEC購入のための、巨大なフィッティングルーム

ここ最近よく見聞きする「ショールーミングストア」という言葉。これは、店舗で商品を見て、インターネットで購入するというEC時代特有の消費者行動「ショールーミング」に対応すべく編み出された販売形態のことだ。店舗の機能を試着と接客に特化し、決済はオンライン上で行うフローを基本とする。店全体をEC購入のための巨大なフィッティングルームと位置づけるこの斬新なビジネスモデルは欧米ではすでに定着しており、日本でも大手ファストファッションブランドを中心に参入が相次ぐなど、急速な広がりを見せている。

そんななか、アパレル大手のメルローズが東京・代官山にオープンしたECセレクトショップのショールーミングストア「THIRD MAGAZINE(サードマガジン)」は、ターゲットを感度の高い大人の女性に絞り、上質なアイテムとサービスを提供することで他との差別化を図っている。
代官山の旧山手通り沿いのなかでも、落ち着いた雰囲気のエリアにあるショップ
代官山の旧山手通り沿いのなかでも、落ち着いた雰囲気のエリアにあるショップ

モノを売るのではなく、ファッションの愉しみ方を提案する

代官山駅から徒歩10分ほどの閑静なエリアに位置する店舗は、外光がたっぷりと差し込む約45坪の広々とした空間。白を基調としたミニマルな内装に、オリジナル7割、インポート2割、ヴィンテージ1割で構成されたコレクションがぜいたくなほどゆったりとディスプレイされており、一点一点の個性が際立っているのが印象的だ。ディレクターの祐宗摩稚子氏はショップコンセプトについて次のように語る。

「ファッションには3つのフェーズがあると考えています。予備知識がない中、直感やタイミングで出合うのが1st。トレンドや周囲からの評価を気にして見つけるのが2nd。さまざまなものを知った上で自分に合ったものを選べるようになるのが3rd。ここは、その“3rd”フェーズにいる大人の女性たちが、特別なファッションの楽しみ方ができる場所です。雑誌のようにさまざまなテイストのものが詰まった倉庫のような空間で、宝探しをするように自分だけのアイテムやコーディネートを見つけてもらえるよう、シンプルで上質、それでいて大人の遊び心を感じるアイテムをラインナップしています」
ディレクターの祐宗摩稚子氏。「感度の高い女性が服に、スタイリングに、ワクワクできる場所にしたい」
ディレクターの祐宗摩稚子氏。「感度の高い女性が服に、スタイリングに、ワクワクできる場所にしたい」

ECの利便性と、パーソナルスタイリング機能を融合

このソファでゆっくりとくつろぎながらショッピングを楽しむ顧客も多い
このソファでゆっくりとくつろぎながらショッピングを楽しむ顧客も多い
店内には、ゆったりとした巨大なソファが配され、お茶を飲みながら、全アイテム全サイズを自由に試着することができる。欲しい商品があれば、レジに持って行くのではなく、その場でタブレットからECサイトにアクセスして決済する。購入した商品は後日自宅で受け取るシステムだ。店舗で試着だけして、気になるアイテムをウィッシュリストにクリッピングし、自宅でゆっくりと購入検討することも可能となっている。

「オープンから2ヵ月近く経ちますが、このシステムにお客様が戸惑う様子もなく、オペレーションはスムーズです。お客様からは『レジ待ちの時間がなく、手ぶらで帰れるのは嬉しい』、『じっくり検討してから買えるから安心』、とポジティブに受け入れられています」と、PRの中山彩子氏。
利用方法を記載したフライヤーを配布。タブレットも用意しているが、自身のスマホから購入する顧客が多い
利用方法を記載したフライヤーを配布。タブレットも用意しているが、自身のスマホから購入する顧客が多い
店頭スタッフには、海外勤務や国内大手セレクトショップなどで経験を積んだ人材を各方面から呼び寄せた。販売員ではなく“アドバイザー”という肩書きを持ち、顧客の手持ちの服との具体的なコーディネートや、オケージョンに合わせたスタイリングなど、個々のライフスタイルやニーズを丁寧にヒアリングし、着こなしの提案を行う。忙しい現代女性に寄り添う利便性とファッションの愉しみ、その両方を追求した結果が、パーソナルスタイリング機能を備えたショールーミングストアというかたちだと祐宗氏は語る。

「アパレル販売に求められるのは利便性だけではありません。身にまとうもの、ライフスタイルを体現するものだからこそ、パーソナルな接客を受け、自分ならではの着こなしを見つけたいと望むお客様が非常に多いと感じます。しかし、通常の販売形態ではそのニーズに応えうる高い技術を持ったスタッフを確保することが難しいうえ、レジ打ちや商品の梱包、在庫確認などの業務に追われて接客に集中することができません。そこでEC決済を軸としたショールーミングストアという販売形態をとることで、接客に集中できる環境を整え、大人に見合うホスピタリティを提供しようと考えました」

この狙いは見事に的中し、作業効率が上がることでスタッフの気持ちに余裕が生まれ、仕事に対する高いモチベーションをキープできるようになった。その結果が顧客の満足度につながり、リピーターの獲得に成功しているという。

「普段愛用しているアイテムを持ち込んでコーディネートの相談をするなど、お店を信頼してくださるお客様も増えてきました。こちらが提案したスタイリングが購入につながるとは限りませんが、長期的な視点に立ち、目先の売り上げよりも、お客様との信頼関係を優先したいと考えています。デジタルの利点を取り入れて業務の効率化を図り、対面ならではのきめ細やかなサービスを提供する。それがこれからのアパレル販売に求められる姿だと感じています」と中山氏。
タブロイドを発行するなど、ショップからの提案や情報発信も積極的に行なっている
タブロイドを発行するなど、ショップからの提案や情報発信も積極的に行なっている
今後は、店舗2階に併設されたプレスルームを行き来するスタイリストとコラボレーションしたさまざまなイベントも計画しており、店舗の枠を超えてトレンドの発信地になることを目指しているという「THIRD MAGAZINE」。今後も続々と誕生し、ショッピングのあり方を大きく変えていきそうな日本のショールーミングストアの先駆けとして、その動向に注目が集まりそうだ。

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