VISIONARYMAGAZINE BY LEXUS

EXPERIENCE

自分の内面を見つめる、
松浦弥太郎のクリエイティビティ

2018.11.26 MON
自分の内面を見つめる、松浦弥太郎のクリエイティビティ

編集者、エッセイスト、セレクトブックストアの代表とさまざまな顔を持つ松浦弥太郎氏。自身が立ち上げたウェブメディア「くらしのきほん」では、旬を取り入れた料理のレシピを発表するなど、その活動は多岐にわたる。そんな氏のクリエイティビティの源泉に迫る。

(読了時間:約5分)

Photographs by Takayuki Abe
Text & Edit by Hitomi Miyao

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思考のスイッチを入れてくれる、カードとペン

エッセイやウェブメディア「くらしのきほん」などを通して、ささやかな日々の営みや、日常に根付いた些細なものごとなど、何気ない暮らしのなかにある大切な部分に光をあて続けている松浦弥太郎氏。そのクリエイティブの源泉について尋ねたとき、彼が取り出したのは、白くてほどよい厚さのあるカードと鉛筆だった。
まっさらなカードと筆記具であれば、特にこだわりはない。喫茶店のナプキンなどでもよいのだそう
まっさらなカードと筆記具であれば、特にこだわりはない。喫茶店のナプキンなどでもよいのだそう
「僕が何かひとつの物事について考えるとき、“書く”ということが、とても大切なことなんです。もう20年以上続けているシンプルな行為ですが、僕にとっては深い意味があって、目の前にまっさらなカードとペンを置くことで思考のスイッチが入るような気がします。自分の中にあるものを言語化したり、そこから何かを見出したり、自分自身の感情や心理的な深いものを見つめることができる最適なツールです。ほかにもすてきなものや好きなものは身の回りにたくさんありますが、どこにでもあるようなこの2つのアイテムこそが、僕にとってはもっとも必要で最上の価値があるものなんです」

カードは案件や活動ごとに一枚ずつ使い分け、時には裏面まで、さらに足りなければもう一枚使用する。そして進行中のプロジェクトのカードは、すぐ取り出せる場所に置いておくのが松浦氏の常。そのカードを見返せば、ノートや資料を探したりすることもなく、どういうプロセスを経てここに至ったのかを簡単に遡ることができるのだという。
普段愛用するカードは、ほどよい厚みとサイズ感で、携帯に適したもの
普段愛用するカードは、ほどよい厚みとサイズ感で、携帯に適したもの
「でもカードに書いたもののなかに最良な答えがあるかというと、必ずしもそうではありません。僕にとってこのツールは、考え続けたり、思いあぐねたり、アイデアを持ち歩くことに近い感覚で、答えにたどり着くまでの過程にあるもののような気がしています。そのためにはちょっと硬くて、ポケットに入れて携帯できるスマホぐらいのサイズがベストなんです」

自分の内面に光をあて、そこを旅する感覚を大切にしたい

とある物事について考えたり、アイデアを練るとき、何かを参考にしたり、主題に近いものからインスピレーションを得る人は多いだろう。だが松浦氏の場合、「外的なものからの影響があると、かえって思考が狭くなってしまうから、できるだけ遠ざかりたいタイプ」なのだという。

「そういったものは魅力的なだけに、どうしてもそこに引っ張られて、自由さがなくなってしまう感覚があります。僕が常々意識しているのは、最初の一歩はできるだけ自分の内側を見つめ、内面にある今自分を動かしている何かを形にしたいということ。でも物事を無から考える行為は、すごく難しくてしんどい作業です。そう簡単に何かが出てくるわけではないし、時間だってものすごくかかる。建設的ではないかもしれないですが、自分の中から沸き上がってくるピュアなものを大切にしたいという気持ちこそが、僕のクリエイティビティの根底にあるものなのかもしれません」
「自分の内側にあった何かが形になり、役に立つという喜びは大きい」という松浦氏
「自分の内側にあった何かが形になり、役に立つという喜びは大きい」という松浦氏
ペンを持ってカードに向かい、何時間もかけて書いては消しを繰り返す。そうやって自分の中にある手掛かりを突き詰め、考えたり悩んだりしてアウトプットしていくプロセスを大切にする松浦氏。実はそうやって出てきたものより、この一連の営みや時間にこそ、価値があるような気がしているのだという。

「いまはメディアやツールがたくさんあって、何かに困ること自体が少なくなってきている世の中。すごく便利な反面、何かをやろうとしたときにパッとできてしまうことにある種の怖さを感じます。近い将来、AIやテクノロジーがさらに進化して、自分で考え抜いたり、困り果てた先に何かを得ること自体がなくなってしまうかもしれない。だからこそ、自分の内側に目を向けて、自分の内面を旅する感覚を大切にしたいと思っています」

便利さのなかで見落とされがちなものや、何気ない日常で大切にしたいものなど、人の根源的なところに目を向ける姿勢。そのスタンスは、彼が日々表現し、伝えているものとどこか通じるものがある。

「若い頃はある種のエネルギッシュさで、反射的にいろんなことを表現したりアウトプットできていましたが、ある時期から自分の内側をしっかり見てアウトプットしないと不安を感じるようになりました。なんとなく嘘をついているような感覚になっていくんですよね。それがいいか悪いか、人が好ましく思ってくれるか、評価してくれるかどうかはわからないけど、できるだけ純度が高い、ピュアな自分自身を出せたらいいと思います。でも正直、ピュアであればあるほど恥ずかしいし、不安です。自分との戦いのような部分もありますが、その気持ちが最終的に社会とのコミュニケーションにつながったりするので、やはりこだわっていきたいと思っています」
「いつもストイックで居続けるのは難しいけれど、できるだけ飾り立てることなくありたいですね」
「いつもストイックで居続けるのは難しいけれど、できるだけ飾り立てることなくありたいですね」
エッセイやウェブメディアなど、自身が表現したものを通して何かを伝えるという、人を相手にしているものだからこそ、世の中やひとりひとりの人をしっかり見つめて、そこで深くコミュニケーションすることを考えているという松浦氏。彼が生み出すものが多くの人の共感を集めている理由は、自分の内面を深く見つめ、突き詰めていくというひたむきな姿勢と、その先に受け手とのコミュニケーションを求めていることにあるのかもしれない。

連載企画、「Source of Creativity」。次回は、ラジオDJ・サッシャさんのクリエイティビティの源泉に迫ります。

松浦 弥太郎
クリエイティブディレクター /「くらしのきほん」主宰 / エッセイスト
2005年から「暮しの手帖」編集長を9年間務め、2015年7月にウェブメディア『くらしのきほん』を立ち上げる。2017年、(株)おいしい健康・共同CEOに就任。「正直、親切、笑顔、今日もていねいに」を信条とし、暮らしや仕事における、楽しさや豊かさ、学びについての執筆や活動を続ける。著書多数。雑誌連載、ラジオ出演、講演会を行う。中目黒のセレクトブックストア「COW BOOKS」代表でもある。
https://kurashi-no-kihon.com
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