JOURNEY

日本初上陸を果たした
台湾発の大人気ソフトクリーム店、
「蜷尾家/NINAO」の李さんが伝えたかったこと

2018.11.14 WED
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日本初上陸を果たした
台湾発の大人気ソフトクリーム店、
「蜷尾家/NINAO」の李さんが伝えたかったこと

2018.11.14 WED
日本初上陸を果たした台湾発の大人気ソフトクリーム店、「蜷尾家/NINAO」の李さんが伝えたかったこと
日本初上陸を果たした台湾発の大人気ソフトクリーム店、「蜷尾家/NINAO」の李さんが伝えたかったこと

10月11日、台湾の人気ソフトクリーム店「蜷尾家/NINAO」が日本に初上陸した。グローバル1号店の地として選ばれたのは三軒茶屋というローカルタウン。行列が絶えないと言われる人気店の「味」、そして出店の真意を探るべく、すでに行列店となっていたショップに仕掛け人の李豫(Yu Lee)氏を訪ねた。

(読了時間:約5分)

Text by Junya Hasegawa @ america
Photographs by Teppei Hoshida

自転車屋を開くつもりで借りた物件で

「最初は飲食店をやるつもりではなかったんです。台南にある原宿のような若者が集まる人気エリアで気になる物件を見つけて、趣味の自転車屋を開こうと思って契約しました。でもたまたま近隣で美味しいと話題のかき氷に屋に行ったら、ゆっくり座って食べられないくらいの行列ができていて、まったくリラックスできなかった。その時に、テイクアウト専門のお店なら、入店待ちが無いからきっと多くの人に喜んでもらえるはずだと思ったんですよね。そう考えたのが、ソフトクリーム屋にしようと思ったきっかけです」

そう語る李さんは、今でこそ「蜷尾家/NINAO」に集中しているものの、元は映像作家としても活躍していたスラッシュキャリア。現在、台湾でビジネスを成功させている人物からの薫陶を受け、経営者としての手腕にも磨きを掛けているのだという。氏が語るとおり、2012年にオープンした台湾本店は、オーダーカウンターのみで座席のない「スタンド」方式。だから行列ができても回転がよく、実に“効率”がいいのだ。

しかし十分なスペースがある三軒茶屋店では、イートインスペースも用意する。また台湾茶を代表する東方美人茶を日本限定フレーバーとして開発し、杏仁、ゴマ、鉄観音、塩ミルクなど約110種類のフレーバーから、週替りで2種類を提供していく予定だという。
台湾本店の行列風景。回転は早いが、開店前から行列が絶えることはない
台湾本店の行列風景。回転は早いが、開店前から行列が絶えることはない
ゆったりとしたスペースに、畳のベンチシートが清々しい三軒茶屋店。世界中から厳選したお茶も楽しめる
ゆったりとしたスペースに、畳のベンチシートが清々しい三軒茶屋店。世界中から厳選したお茶も楽しめる

三軒茶屋の商店街を選んだワケ

台湾本店に次ぐ2店舗目、グローバル1号店の地に選ばれたのは、世界中のスイーツの名店が軒を連ね、スイーツブーム冷めやらぬ東京。だが青山でも原宿でもなく、渋谷からほど近いベッドタウンの三軒茶屋だ。確かにサードウェーブコーヒーの旗手「ブルーボトルコーヒー」、タピオカドリンク専門店「ジ・アレイ ルージャオシャン」といった人気店が続々とオープンし、静かな盛り上がりを見せているエリアではある。だが周囲の雰囲気は、良くも悪くも活気のある“地元の商店街”。決して話題のショップの国内初出店として選ばれるような場所とは思えない。

「確かに最初に国内展開のパートナーからこの場所を提案されたときは、不安も感じました。でも2015年に駒沢公園で開かれた『ジェラートワールドツアー』に参加した際、この辺りは実際に通りかかって気に入っていましたし、なにより東京のことは東京のパートナーの方が詳しいに決まっている。だから最後は安心して任せることができたんです。“三軒茶屋”という地名も、茶屋をイメージした店にふさわしいですしね(笑)」

ただ売り上げや話題性を追求するなら、お洒落な青山や人気店の集中する原宿エリアの方が良かったはず。だが最終的にこの地を選んだのは、ビジネスパートナーの説得力もさることがら、李さんのソフトクリームやアイスクリームに対する熱い思いが最大の要因となったといってもいいだろう。
「スキアマ」(スッキリと甘い)と評されるソフトクリームは化学的な香料を一切使用しない原材料のみを使用
「スキアマ」(スッキリと甘い)と評されるソフトクリームは化学的な香料を一切使用しない原材料のみを使用
「ジェラートワールドツアー東アジア地区選手権 東京大会」では、見事に準優勝
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アイスクリームで子どもたちを笑顔に

“回転のいい飲食店”というビジネス的発想を元に思いついたソフトクリーム店ではあるものの、李さんが本気でソフトクリームに取り組みたいと考えるきっかけとなった本がある。それが、ローラ・ワイスの著したアイスクリームの歴史書、その名も『Ice Cream』(日本語版『アイスクリームの歴史物語』として国内でも刊行されている)だ。

「アイスクリームは、世界中の子どもたちが大好き。どんなに厳しい環境で暮らしていても、あっという間に笑顔にしてくれる魔法のスイーツなんです。紛争地域の子どもたちすら幸せな気持ちにさせるとは、なんてアイスクリームは素晴らしいんだと大きな衝撃を受けました」

そしてこの子どもたちへの思いは、ローカルタウンでソフトクリームを提供するという、今回のプロジェクトとして結実したというわけだ。

「三軒茶屋の魅力は、“地元の商店街”であるところ。大人も子どもも、お年寄りも若者も気軽に立ち寄りやすく、彼らの生活の一部として受け入れてもらえると考えたんです。わざわざ電車に乗らないと食べに行けないスイーツなんて、誰の人生にとっても有意義じゃない。今日もいらっしゃっていますが、小さなお子さん連れのお母さんが、通りすがりで立ち寄ってくれている。これこそ、私の求めていたお店の理想のアイスクリーム店なんです。子どもたちが大きくなって、『ニナオのソフトクリームしか食べられない』なんて言ってくれるくらい彼らの人生の一部になることができたら、これ以上の喜びはありません。実はウチの娘は、もうそうなっているんですけどね(笑)」

ちなみに「蜷尾家」の「蜷」は、李さんの敬愛する写真家・蜷川実花の名から拝借したもの。「カタツムリやうずを巻く形状」を意味する漢字に、ソフトクリームの渦巻きとの親和性を感じたのだとか。「家」は、文字通りホームを意味し、誰にとっても「我が家」のようでありたいという思いが込められている。そんな李さんの新境地での挑戦はまだ始まったばかりだ。
李さんに大きな影響を与えたローラ・ワイスの『Ice Cream』は、心の拠り所ともなっている枕頭の書
李さんに大きな影響を与えたローラ・ワイスの『Ice Cream』は、心の拠り所ともなっている枕頭の書
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