グローバルでボーダーレス──世界を旅するバーテンダー、後閑信吾|LEXUS ‐ VISIONARY(ビジョナリー)

VISIONARYMAGAZINE BY LEXUS

CULTURE

グローバルでボーダーレス──
世界を旅するバーテンダー、後閑信吾

2018.10.31 WED
グローバルでボーダーレス──世界を旅するバーテンダー、後閑信吾

従来とは異なる価値観やライフスタイルをもつ新たなる世代として、世界中で注目を集めるミレニアルズ。彼らが注目したり好んだりするモノや体験を通して、そのトレンドと価値観を明らかにする新連載。その第1回は、世界的なバーテンダー、後閑信吾氏にフォーカス。ニューヨークで培ったバーテンダーとしての実績と高いコミュニケーション能力を持ち合わせ、いつもフラットに世界を見据えている後閑氏を通して、ミレニアルズの実像に迫る。

(読了時間:約7分)

Text by Yuka Tsukano
Photographs by Sachiko Horasawa

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世界40ヵ国を飛び回るジェットセッター

35歳のバーテンダー 後閑信吾氏が手がけるバー「The SG Club」が、2018年6月、渋谷にオープンした。渋谷といっても渋谷公園通りを上った代々木公園からほど近い閑静なエリアだ。黒い木製の扉を開くと、そこに広がるのはバーというより居心地のいいロースターカフェのような空間。RRLのデニムをまとったバーテンダーたちの装いもまた、どこか懐かしい古き良きアメリカを彷彿させる。
渋谷公園通りを上った閑静な路地にオープンした「The SG Club」
渋谷公園通りを上った閑静な路地にオープンした「The SG Club」
バー業界で後閑信吾の名を知らない人はいないはずだ。2006年、23歳で渡米しニューヨークの名店でバーテンダーの修業を始めた。29歳で「バカルディ レガシー カクテル コンペティション」に米国代表として出場し、世界大会で優勝。その後は世界各地のゲストバーテンダーやコンサルタントとして活動しながら、2014年に「Speak Low」、2017年には「Sober Company」を上海でオープン。2017年にはバー業界のアカデミー賞ともいわれる「インターナショナル バーテンダー オブ ザ イヤー」を受賞した。

そんな華麗なるバーテンダーライフを歩んできた後閑氏が、満を持して日本に「The SG Club」という名のバーを初出店した。つまり今、彼は凱旋帰国を果たしたばかりだ。
18歳のときにダイニングバーでアルバイトをしたのがバーテンダーをめざしたきっかけ
18歳のときにダイニングバーでアルバイトをしたのがバーテンダーをめざしたきっかけ
「6月に東京の店を開くまでは、週に2回は飛行機に乗る生活をしていました。今は東京に無期限の帰国をしているという感覚です」と現状を話す。とはいえ、ゆっくりしている暇はなく、開店から今日までに取った休みはたったの2回。

その勢いは止まらず、11月には同じく世界的なバーデンターである盟友スティーヴ・シュナイダー氏とともに新店舗「The Odd Couple」を上海で開業。年内中にはThe SG Clubの2階にシガーバーを増設。日本の酒造メーカーとコラボレーションした新たな焼酎ブランドのローンチも控えている。

仕事のオファーはSNSのメッセンジャーから

東京に戻るまでは、さらに目まぐるしい日々を送っていた。ニューヨークを拠点としながら、各国都市のバーやレストランからゲストバーテンダーやコンサルタントとして招致され、文字通り世界を飛び回り、2017年だけで80回も飛行機に乗ったという。
スマートフォンのテキストで管理しているスケジュール。2017年は毎週のように異国を移動し続けていた
スマートフォンのテキストで管理しているスケジュール。2017年は毎週のように異国を移動し続けていた
では、世界中から届く仕事の管理はいかに?「海外の仕事のオファーはほとんどがSNSのメッセンジャーです」との答え。2度も世界タイトルをとった後閑氏はバー業界では超有名人。加えて、世界各地のトップバーテンダーたちとはコンテストやショーで顔なじみだ。

「同世代のバーテンダーとは国を問わずSNSのコミュニティでつながっているし、有名なバーテンダーもそう多くはいません。この国に行くなら彼に連絡を取ってみるといいよ、といったように簡単に誰とでもSNSで話ができます。バーが存在している国、カクテル文化がある国なら、どこでもつながることができるんです」
  • つくったものに関しての声がダイレクトにそしてすぐに感じられる仕事に魅力を覚えたという
  • つくったものに関しての声がダイレクトにそしてすぐに感じられる仕事に魅力を覚えたという
広がるのはコミュニティだけではなく、仕事も然り。The SG Clubの開業前のまとまった時間で、後閑氏は初めて南米を旅した。「南米で何か仕事があったら連絡して」とSNSで発信すると、ブラジルのドキュメンタリー番組の出演、ペルーのホテルでのゲストバーテンダーなど、旅の途中で各国の仕事が次々と埋まっていった。「仕事モードのオン/オフという切り替えはあまりない」と後閑氏が言う通り、このボーダーレスな感覚こそ仕事の幅を広げている所以だろう。

旅が仕事のインスピレーション源

後閑氏が他人のバーに赴くことはない。バーテンダーという仕事にインスピレーションを与えてくれるのは、いつも旅だ。

「仕事柄、海外から呼ばれることが多いのですが、どこか知らない国へ行くときには1週間くらい余分に休みをとって旅行を楽しむことにしています。遠い国に限らず、新しい何かに触れることが大事。知らない野菜を食べれば、これをカクテルにしてみたいなと思うんです」
初めて訪れた南米ではたくさんの刺激を受けた。食材が豊富かつ独特だったのが特に印象的だ
初めて訪れた南米ではたくさんの刺激を受けた。食材が豊富かつ独特だったのが特に印象的だ
The SG Clubのメニューにはオリジナリティあふれるカクテル名が並ぶが、「日系」という名のカクテルは先述したブラジルの旅でインスパイアされた一杯だ。ブラジル原産の蒸留酒カシャーサをベースに、バナナ、カカオ、抹茶、八丁味噌が入ったレシピで、八丁味噌はマルガリータでいう塩のような役目を担っている。

アメリカで10年以上暮らしてきた後閑氏だからこそ、日本が誇る文化や豊かな食に気づかされることがある。日本には焼酎という蒸留酒があるにもかかわらず、バーカウンターで日の目を見ることはなく、スピリッツとして舞台に上るのは、ジン、ウォッカ、ラム、テキーラの4つしかないということだ。
カクテルの材料を探し求めブラジルのジャングルへ。カクテルのインスピレーションは旅から得る
カクテルの材料を探し求めブラジルのジャングルへ。カクテルのインスピレーションは旅から得る
「海外のお酒ばかりを使ってきたので、そろそろ日本に貢献したいと思っていました」というように、日本の酒造メーカーと新たな焼酎づくりに取り組んでいる。原産地呼称、スピリッツとして扱えるアルコール度数、バーカウンターに並べたくなるデザインが必至だ。今年の冬には焼酎ベースのカクテルが誕生していることだろう。

ルールを設けないことがルール

The SG Clubには1FとB1Fそれぞれにバーがある。B1Fはゆっくり飲む“Sip”、1Fはカジュアルにごくごく飲む“Guzzle”と、異なるコンセプトをもつ2つのバーを設けた。1FのGuzzleは日中から営業し、バリスタのコーヒーやノンアルコールのモクテルも提供。スタンディングを含めたカジュアルなスタイルで幅広くカクテルを愉しむことができる。
The SG Clubには1FとB1Fにそれぞれバーがある
The SG Clubには1FとB1Fにそれぞれバーがある
The SG Club のB1Fバー、Sip。シューシャインブースといった遊び心あるサービスも設けた
The SG Club のB1Fバー、Sip。シューシャインブースといった遊び心あるサービスも設けた
「Guzzleは、子どもOK、ショットOK、騒いでOKと、ルールを設けていません。従来のバーテンダーたちは僕のことを邪道というかもしれませんが」と後閑氏は話すが、敷居の高い日本式のバーを批判しているわけではなく、もっといろいろな形があっていいと思っているだけだ。

「将来はハワイやバンコクのような暖かいところでいい店をつくりたいですね。拠点を増やしすぎたくはない。4カ所くらいがちょうどいいかな」

型にはまることを必要としないミレニアルズ

取材を通して何よりもうらやましく感じたのは、自身の周りと広い世界をフラットに捉えている姿勢だ。国内に出店するような感覚で、海外進出というハードルを超えている。いや、ミレニアル世代にとっては、海外に“進出”という言葉すら古いのかもしれない。物心がついた頃からインターネット環境が整っていた彼らにとっては、国境を意識すること自体が不思議に思えるのだろう。
現在、東京・渋谷に1店舗、中国・上海で2店舗を構える
現在、東京・渋谷に1店舗、中国・上海で2店舗を構える
数年前にノマドワーカーという言葉が流行ったが、それはPCやスマホが使えるWi-Fi環境のある場所を探し、オフィス以外で仕事をする人を指していた。当時はその行為自体が斬新に映ったが、いま社会で仕事をもち始めたミレニアルズにとってノマドな状態は当然。彼らのなかには特に意識することなく、より大きな視野で拠点をもたない自由な職業生活を謳歌している人も多い。

SNSを使って旅先のパートナーを見つけたり、仕事の依頼を受けたりすることも、インターネットという新たなる世界とともに歩んできたミレニアルズだからこそなせる技。あらゆる側面で従来の型にはまる必要がないこと、ルールに縛られる必要がないことに気づいている世代、それがミレニアルズなのかもしれない。
「The Odd Couple」のイメージビジュアル。1968年の米国映画「おかしな二人」がモチーフ
「The Odd Couple」のイメージビジュアル。1968年の米国映画「おかしな二人」がモチーフ
©drinkmagazine.asia
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