VISIONARYMAGAZINE BY LEXUS

EXPERIENCE

クリエイティブのすべては“興味”から始まる、
小山薫堂の仕事術

2018.10.26 FRI
クリエイティブのすべては“興味”から始まる、小山薫堂の仕事術

それぞれのフィールドにおいて自らのクリエイティブマインドを発揮し、新しい価値を作り出しているクリエイティブクラスたち。創造性を育むうえで大きな影響を与えた“モノ”や“体験”から、彼らのクリエイティビティの源泉を明らかにしていく連載企画。第1回は、「くまモン」の生みの親であり、日本を代表する放送作家、脚本家でもある小山薫堂氏に話を聞いた。

(読了時間:約5分)

Photographs by Isamu Ito
Text & Edit by Keisuke Tajiri

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プロジェクトを成功させるために、利益よりも大切なこと

「実はまったく何もないところからクリエイティブは生み出せないんです」

「くまモン」の生みの親として知られ、また放送作家、脚本家として数々の名番組を手がけ、社会に大きなインパクトを与え続けてきた小山薫堂氏。あふれ出るクリエイティビティの源泉はどこにあるのか。そう尋ねたあとに小山氏から放たれた冒頭の意外な一言。その真意を尋ねると、「芸術家のように自分のなかから湧き出るものはなくて、人が何かに取り組むその姿に惹かれていくんです。そうすると、ふつふつとアイデアが湧き上がってくるんです」と話す。
「私のような仕事とちがって、職人のようにひとつのことを極めている人に憧れるんです」と小山氏
「私のような仕事とちがって、職人のようにひとつのことを極めている人に憧れるんです」と小山氏
「たとえばTV番組『料理の鉄人』は、ちょっと大げさかもしれませんが、あの番組によって料理人に光があたって、料理界が活性化して日本が美食大国であることを世界にアピールできるきっかけになりました。ほかにも、デザイナーの新たな可能性を見出す『ニューデザインパラダイス』や、納棺師の仕事ぶり描いた映画『おくりびと』もそうで、人の真剣な眼差しに心惹かれますよね。そんな人たちを影響力のあるメディアに乗せてスポットライトをあてることで、気づかれていなかったその人や職業の価値を再発見することができるんです」

同様に、2016年に小山氏がスーパーバイザーとして参画する「Lexus New Takumi Project」では、徳島の藍染めを使ってサーフボードをつくる永原レキ氏の作品を選出。「サーフィンはしないんだけど、それでも欲しいと思えるような素晴らしい出来栄えで」と話すように、賞に選ばれたことをきっかけに注目を集め、永原氏の作品と徳島の藍の魅力は広く伝わっていった。さらに、取材前日にその工房を初めて訪ねて来たと話す小山氏は、その場でアイデアが浮かび次なる仕掛けを思いついたという。
藍染の作業で藍色に染まっていた小山氏の指先
藍染の作業で藍色に染まっていた小山氏の指先
「誰から頼まれてもいないのに、自分の興味に触れているうちにアイデアがひらめいて、実現させるならこんなサポーターとこんなクライアントを引き合わせて、と設計図が出来上がってくるんです。だからクリエイティビティの源泉は?と聞かれたら“人との出会い”と言えるかもしれませんね」

小山氏のこうしたプロジェクトの立案は、ビジネスとして成功するか否かだけで判断しているわけではない。「利益よりも自分の興味の琴線に触れる“モノやコト”があり、さらに自分が手がけることに意味があるかで判断しています」と話すように、プライベートでもいくつものプロジェクトを立ち上げてきたという。

共有できる仲間を集い、思い出の味をリ・デザインする

2017年5月、小山氏の故郷、熊本県天草市の商店街にあるたい焼き店「まるきん製菓」が70年の歴史に幕を下ろそうとしていたときのこと。地元に愛され若かりし頃の小山氏も足しげく通っていたのだが、そのたい焼きにはまるきんにしかない特徴があった。

「まるきんのたい焼きは魚のかたちではなく、大判焼きのような丸いかたちに収まるように鯛の姿が焼き付けられたもので、それが僕にとってのたい焼きなんです。上京するまでは尻尾のあるたい焼きがどこかハイカラで都会的だと憧れていたんですが、久しぶりに帰省してまるきんのたい焼きを食べると、こっちのほうが新鮮でいいなと」
丸いかたちがめずらしい「まるきん」のたい焼き
丸いかたちがめずらしい「まるきん」のたい焼き
そんな思い入れのあるお店が閉店するということで、小山氏はすぐさま店主に連絡。すると高齢で身体の調子も悪く、だんだんと売上も落ち、店舗の機械が故障したことをきっかけに引退を考えているという話だった。「焼き機が壊れてしまってはどうしようもないと思ったんですが、詳しく聞いてみるとどうやら壊れたのはエアコンだったということが分かりました(笑)」

であればここは自分にしかできない使命だと、小山氏はまるきん製菓を復活させることを決意し、オーナーから有償で経営の権利を譲り受けて再構築のプランを企てていく。新オーナーにはシャッター商店街を復活させるチャンスでもあると、天草観光協会の理事を務めていた旧友に依頼。しかし、「協会に席を置いていると副業禁止なのでできない、──」と断りの連絡、ではなく「だから協会を辞めてきた」と意外なかたちで驚きの答えが返ってきたのだ。
店舗だけでなく制服も一新して再起を図る
店舗だけでなく制服も一新して再起を図る
「まさかそんな決断をするとは。ひとりの人生を変えるきっかけを作ってしまったということと、彼の熱意を無駄にしないために、必ず成功させなければなりませんでした」と小山氏は振り返る。しかし、一度は閉店まで追い込まれかけたお店。ヒットさせるためには大きなイノベーションが必要不可欠だ。

そこで日本を代表するパティシエ「エス コヤマ」の小山進氏と「京菓子司 未富」の山口洋二氏それぞれに皮と餡のレシピの考案を依頼し、これまでにない格別の味わいに昇華させた。さらに、お店のロゴはアートディレクターの水野学氏が、店員の制服はビームスの設楽洋氏が手掛け、愛され続けるデザインを取り入れていった。こうして強力な布陣のもとで再起したまるきん製菓は、いまや人気のお店として多くの人でにぎわい、大成功を収めている。
小山氏の強い想いが人の心を動かし“コト”へと変化していく
小山氏の強い想いが人の心を動かし“コト”へと変化していく
自身の利益よりも人や街のために身を削る小山氏。いつも誰かの道標となって未来を照らしてきた小山氏自身は、一体今後はどのような存在になっていきたいのか尋ねてみると、しばらく考えたあとに「実はなりたい理想の職業があって。“天使“なんです」と、冒頭に続きまた思いもしない答えが返ってきた。

「かつては人に認められたくて仕事をしてきたところがあります。いまこの時代に自分が存在している意味はどこにあるのか、どんなことで社会の役にたてるのかとか、そんなことばかり考えていました。ですが一度そこから解放されて、天使のように純粋な気持ちで人々の手助けをしてみたいんです。大切なのは、誰にも気づかれないこと。空の上からそっと人の背中を押してあげて、ハッピーなゴールにたどり着いたときに空から『ふふっ』とほくそ笑んでいるような存在になりたい。するとまた違った幸せのかたちが見えてくるような気がするんです」

連載企画、「Source of Creativity」。次回は、文筆家・松浦弥太郎さんのクリエイティビティの源泉に迫ります。
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