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日本の発酵調味料を次世代に残すために─
「小豆島 木桶職人復活プロジェクト」が見据える未来

2018.09.24 MON
日本の発酵調味料を次世代に残すために─「小豆島 木桶職人復活プロジェクト」が見据える未来

日本酒や醤油、味噌など、和食の基礎となる発酵調味料の醸造に欠かせない存在だった木桶が、時代の流れとともに存亡の機に立たされている。木桶で造る調味料を次世代へと継承するべく活動する「小豆島 木桶職人復活プロジェクト」代表の山本康夫さんに話を聞いた。

(読了時間:約5分)

Text by Hitomi Miyao

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発酵調味料のうま味を最大限に引き出す木桶

ユネスコ無形文化遺産に登録され、いまや世界的な人気を博す和食を支える醤油や味噌、酒、酢、味醂などの発酵調味料。乳酸菌や酵母菌などの微生物の働きによって造られるこれらの調味料は、古くから木桶を使って醸造されてきた。木桶には微生物が棲みつきやすい条件が揃っているためそれぞれの蔵元独自の味が出しやすく、木桶仕込みならではのうま味があっておいしいといわれている。

だが、いまや木桶を使った伝統的製法で造られる発酵調味料は減少の一途を辿っている。現在、木桶で天然醸造された醤油の生産量は、総生産量の1%にも満たない。その理由は、効率化や利便性を追求した結果、ホーローやプラスティックのタンクを使うメーカーが増えたこと。そして需要減少の煽りを受けて、木桶を作ることができる職人がいなくなりつつあることにある。
木桶に棲む微生物が発酵を促し、その蔵独自のうま味を引き出す
木桶に棲む微生物が発酵を促し、その蔵独自のうま味を引き出す

木桶仕込みの調味料のおいしさを次世代に

そんななか、日本の伝統文化を守り、子や孫の世代へと日本の味を伝えていくために木桶の継承に取り組んでいるのが「小豆島 木桶職人復活プロジェクト」だ。

「木桶の寿命は100年から150年。いま日本各地で使われている現役の木桶は戦前に作られたものがほとんどで、残された寿命はそう長くないんです。このままでは日本の伝統文化が途絶え、この味を次の世代に残すことができないと危機感を覚えました」と話すのが、代表の山本康夫さん。小豆島で木桶仕込みにこだわった醤油づくりを続ける「ヤマロク醤油」の五代目社長でもある。
「ヤマロク醤油」のある小豆島は、木桶仕込みによる醤油づくりで知られる
「ヤマロク醤油」のある小豆島は、木桶仕込みによる醤油づくりで知られる
きっかけは、2009年に9本の木桶を発注したことだった。「単純に桶が足りなくなってきたのと、木桶の寿命を考えたときに、いま作っておかないと私の次の世代が困るのではないかと思ったのが理由です。それで日本で唯一残る木桶職人さんに依頼したときに言われたのが、『醤油屋から新しい木桶の発注を受けたのは、戦後初やな』という一言。それほどに存続が危ういのだと肌で感じました」

そこで2011年秋に「小豆島 木桶職人復活プロジェクト」を立ち上げ、借金をして新たに3本の桶を発注。自らが発注した木桶を作る工程や技術を習うべく、地元で大工をする同級生2人を誘って木桶職人のもとに弟子入りした。「職人の世界なので、短期間で技術を習得するのが無理なのはわかっていました。正直、師匠も私たちが本気で木桶を作るつもりだとは考えていなかったと思います。でも誰かがやらない限り残せないんだと思ったら、自分でやるしかなかったんです」
木桶づくりは、台かんなで側板の接地面を削るところから始まる
木桶づくりは、台かんなで側板の接地面を削るところから始まる
怒られながらもどうにかノウハウを叩き込み、島に戻ってから練習や研究を重ねて試行錯誤した末、2013年に初めて自分たちの手で木桶を作り上げた。その工程は、杉を削って板を環状に組んだものを竹釘で合わせ、竹を切ってきて編んだ箍(たが)で締め、最後に底板を打ち込むというもの。二十石(3600ℓ)、高さ2mにも及ぶ木桶は、材料を整えるだけでも一苦労だ。

「木桶仕込みに取り組んでいる全国の蔵元に声をかけて、木桶づくりを手伝ってもらいました。木桶を使い続けるためにはメンテナンスが必須ですが、師匠は2020年に廃業を決めているので、うちではとてもフォローしきれません。だから一緒に作りながら木桶の構造を説明して、各蔵元が自分たちでメンテナンスすることができるように覚えてもらっているんです」

メンテナンスに必要なパーツのうち、構造が複雑で高額になるものはまとめて業者に発注し、必要な蔵元に小売りすることで単価が下がるように工夫する。一方でシンプルなパーツは各蔵元の近隣にある鉄工所に依頼するよう促し、地元の経済を回していく。そうやって、今使っている木桶を少しでも長く使い続け、コストダウンできるような仕組みにしているのだという。
竹は小豆島のものを使用。伐採して割いたものを編んでいく
竹は小豆島のものを使用。伐採して割いたものを編んでいく

みんなで利益を追求すれば、木桶を残すことができる

「木桶を使っている蔵元同士が手を取り合って横の連携を取っていくことで、いま1%しかないパイを奪い合うのではなく、2%に増やしていきたいと思っています。理想は木桶で醤油や味噌を造っているすべてのメーカーが儲かること。うちだけの利益を追求しても、自社の木桶の数が生産キャパなのでそれ以上は作れません。それに、うちだけ儲かればいいと考えた時点で、市場が大きくならないから木桶職人を育成できないんです。全員で力を合わせた方が絶対に楽だし、WIN-WINになってみんなが生き残れる。そしたら木桶の需要が増えて、技術を残すことができます。そうやっていい循環を生むことができれば、木桶や木桶仕込みの調味料のおいしさを次の世代、さらに次の世代へと伝えていけると考えています」
クレーンや梯子を使って、少しずつ木桶を組み上げる
クレーンや梯子を使って、少しずつ木桶を組み上げる
伝統文化の継承だけでなく業界全体のボトムアップを目指す「小豆島 木桶職人復活プロジェクト」の活動は、少しずつ広がりを見せ、全国の蔵元から木桶の受注がくるまでに成長した。毎年一月の木桶づくりのシーズンには、全国からプロジェクトに賛同する100名以上の有志が集まり、力を合わせて木桶を組み上げる。その顔ぶれは蔵元関係者に留まらず、料理人や料理研究家、問屋や小売業者、そしてメディア関係者など多彩だ。

「手伝ってくれた参加者は、桶をバラさない限り見えない板の接地面に署名をしていくのが恒例なんです。私もそうですが、醤油屋がよその醤油屋の桶作りを手伝っているのがこのプロジェクトの面白いところ。何世代か先の人が桶をバラして組み直すときに、よその醤油屋の署名に気がついてくれたらいいなと思って、ちょっとしたいたずらです(笑)」
木桶の接地面に想いを書き込み、数世代先へと繋ぐ
木桶の接地面に想いを書き込み、数世代先へと繋ぐ
そして、集まってくれた人たちがそれぞれ地元に帰って話を広めてくれれば、それだけでもPRになり、木桶や木桶仕込みの発酵調味料の発展につながるのではないかと考えているのだという。

「木桶づくりは手間も暇もかかって大変です。でも、苦労だと思ったことはないし、むしろ楽しくてしょうがない。きっと私が生きている間には、この活動の結果は出ないでしょう。もし出るとしたら、作った桶が壊れて失敗するということだから、出ない方がいい。100年以上、ちょっとでも長く使えるように試行錯誤を続けていますが、結果がわかるのは死んだあと。そういう作業を繰り返しているんです。でも、そういうのもロマンがあっていいんじゃないかと思っています」

小豆島 木桶職人復活プロジェクト
http://yama-roku.net/yamaroku/oke-project.html
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