「安くて寝るだけ」というカプセルホテルの常識を覆す
幅120㎝、厚さ25㎝、サータ社製の寝心地のいいセミダブルベッド。iPodで設定したアラームの時間になると、自動的に照明がつき、リクライニングベッドが起き上がる。これは5つ星ホテルではなく、京都にあるカプセルホテル「ザ・ミレニアルズ京都」の話だ。

iPodでリクライニングベッドと照明を操作する
世界初のカプセルホテルが大阪に誕生したのは1979年。黒川紀章デザインの宇宙船のようなスリープカプセルは人々に驚きと感動を与え、この極小スペースは終電を逃した猛烈サラリーマンの安息地となった。約40年の時が流れ、当時のカプセルホテルがノスタルジックな存在へと化すなか、21世紀型のカプセルホテルが次々と誕生している。
他人と顔を合わせることなくカプセルに滑り込みたい。寝るだけだから安くしたい。その前提を踏襲しつつデザインを刷新した進化系カプセルホテルが多いなかで、「ザ・ミレニアルズ京都」は対極をはしる。カプセルホテルにもかかわらず、あえて他人と交流を促す場を提供しているのである。
他人と顔を合わせることなくカプセルに滑り込みたい。寝るだけだから安くしたい。その前提を踏襲しつつデザインを刷新した進化系カプセルホテルが多いなかで、「ザ・ミレニアルズ京都」は対極をはしる。カプセルホテルにもかかわらず、あえて他人と交流を促す場を提供しているのである。
多言語が飛び交うハッピーアワーを提供
ロケーションは京都でいちばん賑やかな繁華街、河原町三条。河原町通りに面した元カラオケ店のビルの5フロアをフルリノベーションし、昨年7月にオープンした。
運営するのは、首都圏を中心に隣人交流型賃貸住宅「ソーシャルアパートメント」を展開しているグローバルエージェンツだ。「ホテルはただ寝るだけの施設ではなく、ライフスタイルそのもの」という考えのもと、ホテル全面積の20%を共用部に割き、ワークスペース、キッチン、ラウンジ、シャワーを24時間自由に利用できるようにした。
運営するのは、首都圏を中心に隣人交流型賃貸住宅「ソーシャルアパートメント」を展開しているグローバルエージェンツだ。「ホテルはただ寝るだけの施設ではなく、ライフスタイルそのもの」という考えのもと、ホテル全面積の20%を共用部に割き、ワークスペース、キッチン、ラウンジ、シャワーを24時間自由に利用できるようにした。


ソーシャルアパートメントで住人のコミュニティ基盤を築く場や仕組みをつくってきた同社ならではの試みの一つが、夕方17時半〜18時半に設けたフリービールタイムだ。宿泊客なら誰でも自由にホテルロビーにあるビールサーバーからビールを注ぐことができる。この時間を目指し京都観光を終えて来る宿泊客も多く、ビール片手にさまざまな言語が飛び交い、宿泊客同士の賑やかな交流の場となっている。

ミレニアル世代に心地いいセルフサービス
大きなキッチンにはバルミューダのオーブントースターに炊飯器、ブレンダー、コーヒーマシーンなど、最新鋭のキッチン家電や調理器具が並ぶ。24時間自由に料理ができ、取材時にはトースターでおいしそうなアボガドトーストを焼いている外国人男性を見かけた。朝食は朝7時半から9時半に提供され、食器は各自が洗って棚に戻すのがルールだ。


キッチン横のラウンジには、セルフサービスのコーヒーを飲みながら今日の行く先を話し合う宿泊客たち。何事にも過剰なサービスを求めないミレニアル世代に合致した、新しいホテルのサービスがここにも見受けられる。
さらにガラスを隔てた奥のスペースには、ラップトップを広げて仕事に勤しむ人々の姿が。ここは同じくグローバルエージェンツが運営するホテル一体型のコワーキングスペース「andwork」だ。ロッカー、フォンブース、コピーマシン、ミーティングルームを備え、宿泊客はもちろんのこと、月額2万5千円〜のマンスリー会員、1日や1時間単位の利用を受け付けている。
さらにガラスを隔てた奥のスペースには、ラップトップを広げて仕事に勤しむ人々の姿が。ここは同じくグローバルエージェンツが運営するホテル一体型のコワーキングスペース「andwork」だ。ロッカー、フォンブース、コピーマシン、ミーティングルームを備え、宿泊客はもちろんのこと、月額2万5千円〜のマンスリー会員、1日や1時間単位の利用を受け付けている。

暮らすように泊まり、遊ぶように働き、働きながら旅する。そんな未来のライフスタイルを切り開くミレニアル世代には、ホテルロビーの延長線上のワークスペースは当然であり必然なのである。
ワクワクできるスマートポッドの宿泊体験
質素な空間体験になりがちなカプセルホテルのベッドだが、ザ・ミレニアルズ京都のそれは異彩を放つ。

まず、チェックイン時に渡されたiPodでベッドのリクライニング、照明のオンオフなど、ポッド内のすべてを操作できる。マットレスは5つ星ホテルにも採用されているサータ社の、上下の気配が気にならない1段式ベッド。ベッド正面の80inchスクリーンに自身のスマホやPCを投影すればホームシアターに。アラームは音ではなく自動的に点く照明とベッドリクライニング。ベッド下の大きなキャビネットには大型のスーツケースも収納可能。ベッドを起き上がらせソファにすると手前にスペースが生まれ、床に立って着替えられる。


このように、独自に開発されたスマートポッドは合理的だ。カプセルホテルで置き去りにされていたワクワクする宿泊体験を提供しているだけなのだが、それが実に新鮮に映るのである。
フロントスタッフは日英バイリンガルで、韓国語や中国語を操る人も
スマートポッドが並ぶ宿泊フロアは全4フロアあるが、そのうち1フロアだけが女性専用で、残りはオールジェンダーを謳っている。開業から1年経つが、女性フロアから埋まるわけではないという。宿泊客の男女比は半々、メインの年齢層は20〜30代。グループやカップルが近くのスマートポッドをリクエストすることや、特に気にしない女性が増えていることが一因だ。

若いフロントスタッフはみな日英バイリンガルで、なかには韓国語や中国語を操るスタッフもいる。宿泊客の外国人率が8割と当初の想定をはるかに超えたのは、言語が障壁にならないことがSNSによって拡散されているからだろう。
脱帽したのは、ホテルスタッフがフロント業務からベッドメイキング、清掃まで協働するという働き方。「自由」「ボーダーレス」というコンセプトが働く側にも浸透しているからこそ、その場所を心地いいと感じる利用者がいる。SNS時代の今、真のコミュニケーションが問われ、確かな価値をもつサービスがさらに支持されていく現場を目の当たりにした。
脱帽したのは、ホテルスタッフがフロント業務からベッドメイキング、清掃まで協働するという働き方。「自由」「ボーダーレス」というコンセプトが働く側にも浸透しているからこそ、その場所を心地いいと感じる利用者がいる。SNS時代の今、真のコミュニケーションが問われ、確かな価値をもつサービスがさらに支持されていく現場を目の当たりにした。

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