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人工知能の「目」は、
ランニングフォームの向こうに何を見るか

2018.06.18 MON
人工知能の「目」は、ランニングフォームの向こうに何を見るか

人工知能の画像解析を備えたランニングフォーム改善アプリで、アシックスはいかなるビジネスを生み出そうというのか。その先には、消費の対象が「モノ」から「コト」へと移行する新たなビジネスモデルの発見がある。

(読了時間:約5分)

Text by Sota Toshiyoshi
©unsplash

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人工知能の「目」はすべてお見通し

スマートフォンで誰かを撮影すればカメラが勝手に顔にフォーカスしてくれるのを、不思議に思ったことはないだろうか。あるいはFacebookに写真をあげれば、そこに写っているのが誰であるかがすぐに特定される。考えてみると不気味にも思える話だが、その「顔認識」の精度は、日々Facebookに写真をアップするたびに向上しているようにも感じられる。

それらの“恩恵”はすべて、人工知能(AI)によるものだ。いま、AIを用いた画像(動画)解析は、あらゆる産業に導入されている。

その一例が自動運転で、研究者たちはAIを用いて標識や信号機をはじめ、他の車両や歩行者を自動的に認識させることに成功している。あるいは軍事分野においても同様の画像解析が取り入れられており、人工衛星の目が物体を認識し、地上の部隊が安全なエリアにいるかどうかを判断するために使われている。

ランニング×人工知能

2017年11月中旬に発表されたランナー向けスマートフォン用アプリケーションにも、AIを用いた画像解析テクノロジーが用いられている。

アシックスが、動作解析システムや計測システムのメーカーであるDKHとともに開発した「Run-DIAS」は、スマートフォンでランニングフォームを撮影するだけで改善点が示されるアプリ。

アシックスが蓄積してきたランニングフォームに関するデータや知見を活用し、ランニングフォームを分析・評価するわけだが、アプリは被写体の14カ所の関節位置データから、「ストライド」や「ピッチ」、「腕の振り幅」など6つの項目について数値を割り出し、平均と比較した際の傾向をユーザーにフィードバックしてくれる。
©アシックス
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重要なのは、クラウド上のAIを活用して撮影された映像を自動解析し、14カ所の人体の関節位置を割り出す点。同様のランニングフォーム解析アプリはいくつもあったが、「Run-DIAS」においては従来必要だった手動で関節位置を割り当てる作業が不要で、動画をアップして数分で分析結果がスマートフォン上に表示される。特別な機材を必要としないため、手軽にランニングフォームの分析ができるのだ。

先述した自動運転や軍事分野での活用は言うに及ばず、医療分野においても、正確にがん細胞を見つけ出す高精度な顕微鏡が開発されていることを考えれば、関節位置の割り出しが容易なのは言うまでもない。そこに、スポーツシューズメーカーの知見が加われば、ユーザーが喜ぶ便利なツールのできあがり、というわけだ。

さて、ここで考えるべきは、アシックスはその先に何を見ようとしているか、ということだ。「Run-DIAS」はダウンロードも解析も無料でできるアプリ。アシックスが長年蓄積してきた知見とDKHがもつ身体の動きを可視化する技術の対価がタダなはずがない。

彼らの狙いを考えるヒントは、いまや全世界で約2.8兆円規模ともいわれるランニング市場にある。

なぜ、アシックスがランニングアプリを手がけるのか?

サッカーでも野球でもなく、あらゆるスポーツのなかでも最大規模の市場価値が期待されているのは、実はランニング業界だ。そして、そのなかにあって国内メーカーとして存在感を発揮しているのが、このアシックスだ。1949年、スポーツシューズを販売する鬼塚株式会社として創業した同社はいま、海外展開を積極的に進めている。ランニングにおいてはもちろん、同社ブランドの「アシックスタイガー」のシューズは世界中のファッションアパレルECにおいても人気が高い。

さて、そのアシックスは、2015年10月の中期経営計画(「ASICS Growth Plan (AGP) 2020」)以降、「デジタルを通じたスポーツライフの充実」をテーマのひとつとして掲げている。

同社の「デジタル化」を象徴する出来事となったのが、2016年のFitnessKeeper社の買収だ。同社は、スマホのGPSで運動記録の管理・分析ができるフィットネスアプリ「Runkeeper」を運営する米企業。同年2月の買収発表時点で、米国を中心に3,300万人の登録会員数を有しており、アシックスは「当社技術との統合により、継続的に企業価値を向上できる」とコメントしていた。

そして、FitnessKeeper社のフィル・コナートン氏がこの買収の狙いについて世界最大級のネット通販業界の専門誌「Internet Retailer」に答えたインタビュー邦訳版)が興味深い。同社エンジニアリング担当ディレクターであるフィルは、次のように語っている。

「最も重視しているのは、新しい靴を購入しようと消費者が思った瞬間から、消費者とつながる方法を見つけること。そのためには、直接コミュニケーションを取り、つながる必要がある。我々のブランドが、いつも消費者の頭の片隅にあるようにしたい」

サービス・アズ・ア・フィットネス

「Runkeeper」アプリを利用するユーザーは、靴を履いてランニングをするたびに、アシックスのことを思うだろう。それはユーザーとの“エンゲージメント”にほかならない。コナートン氏は、次のように続けている。

「私たちはプラットフォームサービスとしてフィットネスを提供しています。『Runkeeper』はユーザーのランニングを追跡し、適切なトレーニングプランを提案します」

「プラットフォーム」というコナートン氏の言葉には、昨今新たなビジネスモデルとして語られる「アズ・ア・サービス(as a Service)」モデルを想起せずにはいられない。

メーカーが提供する価値が「製品」から「サービス」へと移行していることを指すこの言葉を援用するなら、まさにアプリ開発は「サービス・アズ・ア・フィットネス」。かつてコピー機を販売していたリコーや富士ゼロックスが、複写機のリース・保守というサービスを提供するようになったように、アシックスはフィットネスという土壌を活かし、ただシューズを販売するだけでないビジネスモデルを目指しているのだろう。

「Runkeeper」を買収して数か月後、デジタル改革を推し進めるため、アシックスは「アシックス・グローバル・デジタル」部門を立ち上げている。それから2年後の今、AIによる画像解析の力を得たランニングアプリが、改革を達成しようとする同じコース上にあるのは、間違いない。
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