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エンターテイメントで革新を起こす「Bリーグ」がスポーツ観戦をアップデートする

2018.06.15 FRI
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エンターテイメントで革新を起こす「Bリーグ」がスポーツ観戦をアップデートする

2018.06.15 FRI
エンターテイメントで革新を起こす「Bリーグ」がスポーツ観戦をアップデートする
エンターテイメントで革新を起こす「Bリーグ」がスポーツ観戦をアップデートする

2017年に発足した男子プロバスケットボールリーグ、通称「Bリーグ」。NBAを思わせるスタイリッシュな会場づくりや演出は女性ファンの心をつかみ、来場者数も右肩上がりに増加。Bリーグが見据えるスポーツビジネスの未来とは。

(読了時間:約5分)

Photographs by Isamu Ito
Text by Ryo Inao
Edit by Keisuke Tajiri

バスケットボールが秘める、スポーツとしての可能性

プロジェクションマッピングなどを駆使した煌びやかな演出にスタイリッシュなデザイン要素、そして躍動する選手たちと手に汗握る試合。2017年度に発足し、国内の新たなプロスポーツとして注目を集める男子バスケットボールプロリーグ、Bリーグが2年目のシーズンを終えた。

日本においてサッカーに次いで競技者人口が多い(※)にもかかわらず、他スポーツの話題の陰に隠れてきた感は否めないバスケットボール。その原因の一端は、Bリーグ発足以前に存在した日本のバスケットボール界の複雑な事情といえるだろう。主に実業団リーグで構成されたNBLとプロリーグで構成されたbjリーグ、この二つが日本バスケットボールのトップリーグとして併存していた状況は、プレイヤーやファンをはじめ、互いの組織にとっても好ましい状況ではなかった。

結果的にJBA(日本バスケットボール協会)は「1国1リーグ」の基本理念に反するとして、FIBA(国際バスケットボール連盟)から競技団体としての無期限資格停止、そして国際活動の禁止などが課されてしまうことに。そうした騒動を経て誕生したのがBリーグというわけだが、さまざまな事情から統合は不可能とまで囁かれていた。そうした中で、実現へと導いていったのはプロサッカーリーグのJリーグを躍進させた川淵三郎チェアマンを筆頭に、各方面で実績を積んだ凄腕スタッフの存在があった。その一人であり、中でも主要な役割を果たしたのが葦原一正事務局長だ。
激しく入れ替わる攻守とスピーディな試合展開はバスケットボールならでは ©B.LEAGUE
激しく入れ替わる攻守とスピーディな試合展開はバスケットボールならでは ©B.LEAGUE
コンサルティングファームを経て、オリックス・バファローズや横浜DeNAベイスターズなどで事業戦略立案やプロモーション関連業務を手がけてきた葦原氏は、データに基づくデジタルマーケティングの手法と地道な努力や着実性を厭わない姿勢によって、生まれたばかりの組織に前季のリーグ売上の10倍増を達成するなど、1年目としては十分すぎる成功をもたらした。

2年目を終え、「ある程度の手応えを感じている」と彼が語るその根拠は、昨年対比11.8%増の入場者数だ。プロリーグにおいて重要視されるのが入場者数。プロ野球を例にとってみると、ダルビッシュ有選手や大谷翔平選手のメジャーリーグでの活躍や、「カープ女子」がムーブメントになるなど、改めて人気を集める競技でも、入場者数の伸び率は前年度比0.4%程度。Jリーグに至っては、昨シーズンは前年割れとなっている。もっともBリーグはそれらと比べて母数が少ないとはいえ、この数字は驚異的といえよう。
「女性競技者も多いバスケットボール。その層をうまく引き込む仕掛けが大切ですね」
「女性競技者も多いバスケットボール。その層をうまく引き込む仕掛けが大切ですね」
葦原氏は達成できた要因に「チーム間のナレッジシェア」が重要だと話す。「入場者数を増やす飛び技なんてありません。ささやかな施策を着実に積み上げていくのみです。各チームのチケット販売担当者同士で成功事例やアイデアを共有することが最も効果的なのです。コツコツと地道な努力を重ねていく、それに尽きますね」。

今シーズンのリーグ全体の入場者の内訳を見ていくと、20代から30代が中心で、男性が54%、女性が46%と均等に近い男女比。Jリーグの女性観戦者の割合がおおよそ30%だということ考えると、女性ファンを取り込む仕掛けが功を奏したかたちになる。

何のためにスポーツビジネスをするのか

Bリーグが目指すのは、プロスポーツリーグとしての「かっこよさ」と「革新性」だ。冒頭で言及した通り、Bリーグに限らずアメリカのNBAなどに見られるように、ハーフタイムショーやDJパフォーマンスにダンス、プロジェクションマッピングなどのエンターテインメントの要素は入場者数増加と密接な関係にある。

「おいしいメインディッシュのみを出しているレストランよりも、添えものや室内外の雰囲気にもこだわっているレストランこそ、高評価を集めていますよね。スポーツビジネスにも同様の理論が当てはまります。選手や試合がメインディッシュであり、ショーなどの演出が添え物、そしてアリーナがレストランの雰囲気なのです」。屋外スポーツ用の巨大なスタジアムよりも建設コストが手頃で、コンサートやイベント利用としても需要が見込めるアリーナは、スポーツビジネスとしてのBリーグの今後の成長に欠かすことのできない要素だと葦原氏は分析する。
バスケットボールの醍醐味を最大限に引き出す会場づくりでファンを魅了していく ©B.LEAGUE
バスケットボールの醍醐味を最大限に引き出す会場づくりでファンを魅了していく ©B.LEAGUE
葦原氏はこうしたエンターテインメントやアリーナによってもたらされる恩恵を評価しつつも、加えて今後は「本質的なかっこよさ」も追求していく必要があると考えている。

「勝ちを重ね、売上を上げ、事業規模を大きくすることは経済的な幸せを得るための手段にすぎず、本来の目的ではないと考えています。目指すべきはバスケットボールを通じて社会にどんな貢献ができるのか。私は事務局のメンバーにいつも、なぜバスケットボールリーグを盛り上げたいのかを問うています。例えば、女性の競技者や観戦者が他のスポーツに比べて多いのであれば、ジェンダーに対して何らかのアプローチができるかもしれません。これはバスケットボールに限ったことではなく、他のスポーツはもちろん、ビジネスの世界であれば同じことが言えるのではないでしょうか。バスケットボールが盛り上がることで、誰かが幸せになる、そんな世界になるといいと思いませんか?」

ブランディングやエンターテインメントなど、いわば表面的なかっこよさを追求することに加えて、社会課題への取り組みなど本質的なかっこよさを求めることで、革新的なプロスポーツリーグとなる可能性を秘めたBリーグ。より大きなビジョンに向かって次へと歩みを進める同リーグから、今後も目が離せない。

※出典:笹川スポーツ財団
http://www.ssf.or.jp/research/report/category3/tabid/1319/Default.aspx

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