VISIONARYMAGAZINE BY LEXUS

TECHNOLOGY

はじめてのプログラミング。
いま子どもに触れさせるなら?

2018.06.08 FRI
はじめてのプログラミング。いま子どもに触れさせるなら?

子どもに習わせたい習い事の上位をスイミングや算盤が占めていたのは今や昔。急上昇しているのがプログラミングだ。2020年度から小学校でプログラミング教育が導入されることも決まっている。いま子どもに触れさせるのに最適なプログラミングを研究者に聞いた。

(読了時間:約5分)

Text by Yuka Tsukano
Photographs by Mayuko Ebina

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幼稚園で触れるプログラミング言語「ビスケット」

神奈川県茅ヶ崎市にある香川富士見丘幼稚園で、プログラミング言語「ビスケット」の授業が行われている。今日のテーマは、「海の中にいる生きもの」。一人一台用意されたiPad miniに向かって、年長クラスの園児たちがカラフルに作図をしている。「ロケット発射!」、「イカ」、「ぶどう描いたよ。海にいないけどね」と、四方から楽しげな声があがる。
カラーパレットを自在に使って魚の絵を描く園児
カラーパレットを自在に使って魚の絵を描く園児
40分間授業の終盤には、iPad miniで各々が描いた色とりどりの生きものが合流し、教室前方のスクリーンに映し出された。壮大な海の中を縦横無尽に動く生きものたちを、「俺の亀いた〜!」、「ぼくのエチゼンクラゲ!」と、園児たちは喜々として指さす。その姿にプログラミング言語を扱っているという気負いは全くなく、お絵描きの延長線上である。
皆が描いた海の生きものたちが一斉にスクリーンで動き出した
皆が描いた海の生きものたちが一斉にスクリーンで動き出した
3年前、香川富士見丘幼稚園の新園長に就任した鈴木由香里氏は、今の時代に沿った新しいカリキュラムの導入を検討していた。指導者向けの講習をいくつ受けてもピンとくるものがなかった時に、ビスケットに出会った。「大人がやっても面白くて。作らされている感じが全くしませんでした」。

実際に園のカリキュラムとしてビスケットを導入してから気がついたのは、「落ちこぼれが出ないということ」だと話す。「絵が苦手な子でもそれなりに描くことができるのです。普段目立たない子がビスケットで活躍するということもあります」
クレヨンや色鉛筆を使ったお絵描きとは違った一面を見せることも
クレヨンや色鉛筆を使ったお絵描きとは違った一面を見せることも

ビジュアルでプログラミング的思考を学ぶ

ビスケットは、誰もが簡単に扱えるビジュアルプログラミング言語だ。プログラミング研究者の原田康徳氏によって2003年に開発された。

「娘が生まれた時に、この子が最初に使うプログラミング言語は何だろうね、なんて話をしていたのですが、気がついたら小学校2年生になっていました。これはヤバいと思って、自分でビスケットをつくることに」と、原田氏は開発の経緯を明かす。
ビスケットを開発したプログラミング研究者の原田康徳氏
ビスケットを開発したプログラミング研究者の原田康徳氏
ビスケットはメガネという仕組み一つだけで、単純なプログラムから複雑なプログラムまでつくることができる。手順は次の通り。まずコンピュータ上のパレットで絵を描き、その絵をステージに移す。そしてメガネの左右それぞれに描いた絵を入れると、その置く位置によって、ステージ上の絵が上下や左右に動き出すのだ。

実に簡単な操作のため覚えることも少なく、直感で手を動かせる。仕組みは単純だが、さまざまなに組み合わせができるため、アニメーション、ゲーム、絵本などを子どもでも容易につくることができるのが、このプログラミング言語の魅力だ。

自分がつくったプログラムで絵を動かす。「コンピュータは人間が動かしているということをビスケットで体感してほしい」と原田氏はいう。
魚やカニ、イカの絵をメガネに入れると、左側のステージで動き出す
魚やカニ、イカの絵をメガネに入れると、左側のステージで動き出す

「コンピュータを動かすのは人」という能動意識

2020年から日本の小学校でプログラミング教育が導入されるが、原田氏は「落ちこぼれを出してはいけない」という。

「コンピュータは簡単になり人間に寄ってきました。キーボードで操作していたコンピュータを、今の時代はタブレットやスマホで誰でも簡単に扱えます。プログラミングも進化していますが、プログラミング教育が簡単になったとはいえません。それは難しいことができるようになるのが教育だと思っている節があるからです」

将来のために、いま難しいことを学ばせる必要はない。紙や色鉛筆、ハサミを使った工作や絵画をする一方で、デジタルでも「もの」がつくれることを体感させるだけで十分だ。制約がなく思ったことを実現できるものづくりのトレーニングとして、幼少期にコンピュータに触れさせれば、落ちこぼれることなくコンピュータに慣れ親しんでいくことができるのである。
香川富士見丘幼稚園ではビスケット担当の教員がおかれ、園児の興味を引く授業の工夫がなされていた
香川富士見丘幼稚園ではビスケット担当の教員がおかれ、園児の興味を引く授業の工夫がなされていた
草花や動物と違って、コンピュータは放っておいても育たない。「コンピュータは人間がすべて決めないと動かない。誰かが考えなければいけない。それが君たちなのだという当事者意識を子どもたちに持ってもらいたいのです」

ビスケットを扱う小学生のなかには、オリジナルのゲームや絵本をつくる子どもたちが現れ始めた。いま、ビスケットはプログラミング入門としての位置づけだが、将来的には出口のプログラミング言語につなげていくつもりがあると原田氏は言う。「近い将来、ビスケット作家を生まれさせるのが夢」だ。
園児たちは指でタブレットを操作することに全く不自由を感じていない
園児たちは指でタブレットを操作することに全く不自由を感じていない
最後に、子どものコンピュータゲーム依存について警鐘を鳴らしたい。先述した香川富士見丘幼稚園では、ビスケットに触れるよりも先にゲームで遊んだことのある子どもたちは、ビスケットの取り組み方が違うと指摘していた。コンピュータの裏側を知るよりも、手っ取り早く楽しみたいという受け身の姿勢に陥ってしまうのである。

原田氏は「ゲームは人を夢中にさせるように設計されています。大人でもハマってしまうのだから、子どもはなおさら」という。ゲーム依存は性格形成に影響を及ぼすとも言われている。

コンピュータの裏側を知りたい、その仕組みをつくりたいという能動的なプログラミング的思考を子どもに育むためには、大人の努力も不可欠なのである。

Viscuit ビスケット
https://www.viscuit.com/

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