VISIONARYMAGAZINE BY LEXUS

TECHNOLOGY

人工知能は本当に世界を変えるのか?
AIエキスポから見るAIビジネスの現在

2018.06.01 FRI
人工知能は本当に世界を変えるのか? AIエキスポから見るAIビジネスの現在

人工知能(AI)が世を賑わせているが、実のところ、欧米諸国と比べると日本においてAIのビジネス導入はあまり進んでいないことをご存じだろうか? 4月に行われたAI・人工知能EXPOの様子から、日本におけるAIビジネスの現在を考える。

(読了時間:約6分)

Text & Photographs by Shunta Ishigami

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AIの現在はどこにあるのか

「人工知能(AI)」は今やすっかり身近な存在だ。ディープラーニング技術が進化したことや、IoT機器などの普及による学習素材となるデータ量の爆発的な増加を受け、AIはすっかり実用的なレベルに到達している。

事実、人工知能が活用された製品やサービスは着実に増えている。「Alexa」のようなスマートスピーカーや「Pepper」のようなロボットを日常的に見かける機会も増えているし、グーグルの開発した「AlphaGO」が世界最強の棋士を打ち破ったようにニュースでAIが取り上げられることも多い。AIと私たちの距離は少しずつ近づいてきているのだ。

技術開発の急速な進展により、「シンギュラリティ」と呼ばれる、AIが人間の知性を超える瞬間の到来も確かに近づいているのかもしれない。では、AIは私たちの生活をどう変えるのだろうか。しばしば警鐘が鳴らされるように、私たちは機械に仕事を奪われ露頭に迷うことになるのだろうか?AIによって人類は支配されてしまうのか?

残念ながら、たとえ人類がAIに支配されてしまうとしても、そんな時代がすぐ訪れるわけではないようだ。AIのことを考えるとき、私たちはしばしば遠い未来のことを考えてしまいがちだ。たしかに現在とは大きく異なるオルタナティブな世界を想像することは重要だが、より刺激的な未来を想像するためにも、現実世界の私たちが今どのようにAIと関わっているか理解しておくことは重要だろう。
第2回「AI・人工知能EXPO」は4月4日〜6日に東京ビッグサイトで開催された
第2回「AI・人工知能EXPO」は4月4日〜6日に東京ビッグサイトで開催された

AIエキスポから見えてきた状況

その意味で、4月に東京ビッグサイトで開催された「AI・人工知能EXPO」(以下、AIエキスポ)はAIの現在を理解するうえでちょうどいい「参考書」となるイベントだったといえるかもしれない。2017年に始まり今年で第2回を迎えたこのイベントは、日本最大級の規模を誇るAIの展示会だ。今年の来場者数は計4万人を超え、数多くのセミナーや講演会が開催されるなど、大きな盛り上がりを見せていた。

しかし、その盛り上がりに反しイベント全体がやや地味な印象を与えるものだったことも事実だ。ビジネスパーソン向けの商業展示会であることを考えれば当たり前ではあるが、展示されているサービスやプロダクトはかなり「実用的」な側面が強い。それこそAIに「シンギュラリティ」のようなイメージを抱いている人にとっては、ギャップを感じてしまう面もあっただろう。
ゲートを通る人々の顔をスマートフォンのカメラで認識・判別するシステム
ゲートを通る人々の顔をスマートフォンのカメラで認識・判別するシステム
AIエキスポに出展している企業の数は100を超えており、各社がさまざまなサービスや製品を展示している。なかでも目立ったのは、「チャットボット」や「画像認識」に関するサービスだ。カスタマーサポートへのチャットボット導入による人的リソースの削減可能性が謳われ、画像認識を活用すれば交通量の分析やマーケティングのためのデータ解析、ロボットの作業効率化が喧伝される。

チャットボットの性能や画像認識の精度は確実に向上しており、なかには目を見張るものもある。各社がしのぎを削り独自の機能を盛り込もうとする一方で、それらはどこか画一的に見えてしまう。AIが私たちの働き方、あるいは世界のあり方そのものを変えてしまうことが期待される一方で、今のところAIを活用するサービスは多様性を欠いているといえるかもしれない。
今回のAIエキスポにはイスラエル企業が出展する特設ブースも設けられた
今回のAIエキスポにはイスラエル企業が出展する特設ブースも設けられた

日本のAI導入は遅れをとっている

こうしたAIエキスポの状況は、日本におけるAIのビジネス導入状況と少なからず関係しているだろう。欧米に比べると日本はAIのビジネス導入が遅れていることが明らかになっているからだ。

2017年に行われたMM総研の調査によると、日本においてAIをビジネス導入している企業は1.8%、導入検討中が17.9%だという。一方で欧米を見てみると、ドイツが導入済4.9%、導入検討中が22.4%、米国は導入済13.3%、導入検討中が32.9%と、日本よりもだいぶ導入が進んでいることがうかがえる。

導入済みの企業を業種別に分けてみると、日本の場合は金融業(7.8%)と情報通信業(6.9%)がほかの業種に比べ高い割合を占めている。この二つに続くのが製造業で2.5%、ほかの業界の多くが1%を切っていることを考えると、こうした偏りがサービスやプロダクトの偏りにつながっているといえるかもしれない。
回転する台の上に乗っている食品をリアルタイムで画像認識し判別するシステム
回転する台の上に乗っている食品をリアルタイムで画像認識し判別するシステム
こうした導入率の差は、市場規模の差にもつながっていく。2016年度の日本のAIビジネス市場は2,220億円なのに対し、ドイツは3,260億円、米国は3兆9,340億円だ。大手テック企業を擁する米国が突出した規模を誇っているのは仕方がないとはいえ、日本の市場規模はまだまだ小さい。

もちろん、上記の数値は2016年度のものなので2018年現在はさらに規模が大きくなっているが、一方では2019年になると技術面の課題が明確化することで伸び悩むことも予想されているという。
マシンに大きく描かれているとおり、ディープラーニングにより台の上に乗った部品や素材を見分けられる
マシンに大きく描かれているとおり、ディープラーニングにより台の上に乗った部品や素材を見分けられる

AIは「バズワード」ではない

では、どうすれば日本でAIのビジネス導入を加速させられるのだろうか。初歩的な話ではあるが、知識不足の解消と意識改革が対策のひとつとして挙げられる。

例えば前出の調査においては、AIに投資している企業のうち、マネジメント層がAIを熟知している企業の数は7.7%しかなく、ドイツの30.9%、米国の49.8%という割合と比べればはるかに少ないことが分かるだろう。マネジメント層のレベルがきちんとAIについて理解しなければ、たとえ形式上のAI導入が進んだとしても、いずれビジネスの現場と齟齬が生じることは想像に難くない。

また、マネジメント層に限らず、日本は米国などと比べると全体的にAIへの対応に関する意識が低いことはこれまでも指摘されてきた。総務省が発表している平成28年版情報通信白書によると、AIに対して今後特に対応・準備を行わないと考える人の割合は51.2%と半数を超えている(米国は22.8%)。
ドローンにAIを搭載し、農業へと活用しようとする取り組みも展示されている
ドローンにAIを搭載し、農業へと活用しようとする取り組みも展示されている
かように日本ではAI導入に対する意識が米国に比して低いため、AIに関するスキル習得の意識も米国よりかなり低い割合に留まっている。今後AIの市場規模は確実に大きくなっていくが、日本のビジネスパーソンがきちんとスキルを習得し急速な規模の拡大についていけるのか疑問は残ってしまう。

AIを使ったサービスに触れる機会が増えているとはいえ、課題は多い。もしかすると、日本においてAIはまだ「バズワード」のままなのかもしれない。だからこそ、AIエキスポのようなイベントが大きな盛り上がりを見せる一方で、実際に提供されているサービスやプロダクトは多様性を欠いてしまっているのだろう。

もちろん、なかには先駆的な取り組みを行う企業もある。だからこそ、意識改革を行い、知識不足を解消し、AIを導入するための環境を整えていく必要がある。どれだけイノベーティブなAIサービスが生まれたとしても、それを正しく受容し活用する人々がいなければ、その可能性は広がっていかないのだから。
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