ART / DESIGN

「S.I.H.H.」と「バーゼルワールド」に見る、
2018年新作ウォッチ・トレンド

2018.05.30 WED
ART / DESIGN

「S.I.H.H.」と「バーゼルワールド」に見る、
2018年新作ウォッチ・トレンド

2018.05.30 WED
「S.I.H.H.」と「バーゼルワールド」に見る、2018年新作ウォッチ・トレンド
「S.I.H.H.」と「バーゼルワールド」に見る、2018年新作ウォッチ・トレンド

1990年代から世界中にブームを巻き起こしてきた高級腕時計。2018年の最新の、そして約25年を超える発展と成功を支えた最強のトレンドとは。今年1月と3月に開催されたスイス2大時計フェアの新作から読み解く。

(読了時間:約7分)

Text & by Yasuhito Shibuya
Photographs by Yaushito Shibuya, Cartier

1990年代以降、大きく発展した高級時計市場

クルマの最新モデルが世界各国で開催されるモーターショーで発表されるのと同様に、主要な時計ブランドのニューモデルは1991年以降、ジュネーブで開催されるS.I.H.H.(サロン・インターナショナル・オート・オルロジュリー)とバーゼルで開催されるBaselworld(バーゼルワールド)という、時計王国スイスで1月と3月に開催される2つの時計フェアで発表されてきた。
「S.I.H.H.」は完全招待制。入場者はバイヤーとジャーナリストのみ
「S.I.H.H.」は完全招待制。入場者はバイヤーとジャーナリストのみ
そしてこの頃から現在までのあいだに、スイス時計の世界への総輸出額は約4倍へと拡大、成長を遂げた。スイス時計協会(FH)によれば2000年から2015年のあいだだけでも、その金額は102億9720万スイスフランから215億3450万スイスフランへと倍増している。その原動力が機械式ウォッチとハイジュエリーウォッチを中心に世界に拡大した高級時計ブーム。1980年代末にヨーロッパで始まり、日本、アメリカ、中東諸国、そして2000年以降は中国、東南アジアへと拡大した。
「バーセルワールド」は産業見本市として100年以上の歴史を持つ
「バーセルワールド」は産業見本市として100年以上の歴史を持つ

大成功の理由は、ラグジュアリーアイテムへの転換

この世界的な時計ブームで実現したスイス時計産業の長きにわたる成功は、クォーツ腕時計をはじめコストパフォーマンスに優れた日本製の腕時計との競争で苦境に立ったスイスの時計産業が仕掛けた、時計ビジネスのラグジュアリー戦略の成果だ。
「S.I.H.H.」ではカルティエのミステリークロックの特別展示も行われた
「S.I.H.H.」ではカルティエのミステリークロックの特別展示も行われた
1980年代末頃、低価格で高品質な日本製ウォッチに市場を席巻されたスイスの時計産業は腕時計のラグジュアリー化を戦略とし、再生に取り組んだ。機械式腕時計を「歴史と伝統、職人技が凝縮された、未来に受け継ぐ価値のあるラグジュアリーなアイテム」と再定義。ブランドの歴史や製品の実績、エピソードを物語として発信し、所有することでその歴史に関わることができるものだとアピールしたのだ。

そして戦略は見事に成功した。世界の人々はスイス製の機械式腕時計を「時を知る道具」ではなく、壮大な物語を秘めた、持つ喜びと誇りのあるラグジュアリーなアイテムとして認知し、競って購入するようになったのである。

「変わらないこと」こそ価値であり、永遠のトレンド

では2018年の新作腕時計のトレンドは何か。まず一つは「歴史的なデザインの継承」だ。そしてこれは、この約25年間ずっと変わらない「時計業界の最強トレンド」でもある。
変わらないといえばロレックス。だが誰もが真っ先に新作をチェックする
変わらないといえばロレックス。だが誰もが真っ先に新作をチェックする
この間、さまざまな時計ブランドがデザイン面でアバンギャルドな挑戦に果敢に挑んだ。だが、長い目で見て成功を収めたもの、人々を魅了したものは、自社のアーカイブや時計博物館に残る「伝統的なスタイル」の継承だった。ケースサイズや文字盤の高品質化、ブレスレットの改良など、デザインの再編集、再解釈、再定義はもちろん徹底的に行われている。だが基本のデザイン、スタイルは変わらない。ほとんどが時計ブーム以前の1980年代までに確立されたものだ。

ラグジュアリーを愛する顧客が何よりも望んだのは「ひと目であのブランドのあの時計だ」と分かる、そして時代を超えても消費されないデザイン、スタイルだった。極論だが、腕時計の世界では「変わらないこと」こそ、もっとも大切な価値なのである。これは多くのアイテムに共通して言えることだ。

現代のライフスタイルにフィットする機能を追求

続いてもう一つのトレンドである「使いやすさの革新」について解説しよう。今年の新作腕時計には、技術的に2つの大きな革新がある。

まず一つが、自分自身で簡単に交換できる進化したブレスレット&ストラップ、いわゆるインターチェンジャブルなシステムの採用だ。もはや交換に時計のプロや特殊な工具は必要ない。その日のファッション、スタイル、好みに合わせてオーナー自身が、自分の手で即座に簡単に付け替えられる。
インターチェンジャブルストラップをアピールするカルティエブースの展示
インターチェンジャブルストラップをアピールするカルティエブースの展示
そしてもう一つが、IT時代に対応した耐磁性の劇的な向上だ。実は時計ブランドによれば、機械式腕時計のトラブルの過半数が、スマートフォンやコンピュータなど身近にある電子機器が発する強烈な磁気で起きている。ケースや歯車、バネなどのパーツが磁化されて正常に作動しなくなるこのトラブルが起きないように、ムーブメント全体、あるいは時を刻む主要な部品を磁化しない素材のものに変えることで、こうしたトラブルを心配することなく使える。
オメガのマスター コーアクシャル ムーブメントは耐磁性では間違いなく最先端だ
オメガのマスター コーアクシャル ムーブメントは耐磁性では間違いなく最先端だ
これからご紹介する4モデルは、この2つのトレンドを体現した2018年の新作腕時計。飽きの来ない「変わらない」デザインと最新の技術が実現した「使いやすさ」であなたの人生に寄り添い、持つ喜びと誇りであなたの時間を輝かせてくれるに違いない。

GMTウォッチの代名詞、待望の最新モデル

ROLEX OYSTER PERPETUAL GMT-Master Ⅱ
ROLEX OYSTER PERPETUAL GMT-Master Ⅱ
ロレックス オイスター パーペチュアル GMT マスター II
通常の時分針に加えて24時間で文字盤を1周するGMT針と24時間表示の回転ベゼルでもう一つのタイムゾーンの現在時刻がわかる。世界旅行時代を先取りして1955年に発表された「オイスター パーペチュアル GMT マスター」。その基本デザインや機能を継承・進化させ、ジェットセッターのためにデザインされた「GMT マスターⅡ」の最新モデル。ムーブメントには特許のクロナジーエスケープメントやブルー・パラクロムヘアスプリングなどを採用し、精度、耐衝撃性、耐久性、耐磁性で最先端の性能を誇る新キャリバー3285を搭載。自動巻き。直径40mmのオイスタースチール(SS)ケース&ブレスレット。100m防水。88万円(税抜)。今夏発売予定。

スタイルはそのままに生まれ変わった傑作ダイバーズ

OMEGA SEAMASTER Diver 300 オメガ シーマスター ダイバー 300M マスター クロノメーター
OMEGA SEAMASTER Diver 300
オメガ シーマスター ダイバー 300M マスター クロノメーター
映画「007」シリーズでダニエル・クレイグ演じる主人公ジェームズ・ボンドも愛用する1993年誕生のプロフェッショナルダイバーズ。25周年の今年、発表された最新モデルは、初代の伝統的なデザインを継承する一方で、独創的な構造で画期的な精度と耐久性を持つコーアクシャル エスケープメントや新開発の耐磁性合金等を採用したマスター コーアクシャル ムーブメント、傷が付きにくいセラミックベゼルなどを搭載。卓越した高精度と耐久性、超耐磁性を実現した。自動巻き。直径42mmのSSケース。ラバーストラップ。300m防水。51万円(税抜)。8月発売予定。

伝説のメンズウォッチがより優雅に使いやすく

CARTIER Santos de Cartier Watch サントス ドゥ カルティエ ウォッチ
CARTIER Santos de Cartier Watch
サントス ドゥ カルティエ ウォッチ
航空黎明期をリードした飛行家アルベルト・サントス=デュモンのため1904年に製作されたモデルをルーツとする腕時計コレクションがデザインを一新。幾何学的なスクエアフォルムやベゼルを飾る8本のビスはそのままに、より薄く優雅に着けやすく。さらにブレスレットとストラップをワンタッチで交換できる「クィックスイッチ」システム、ブレスレットにも簡単に長さが調節できる「スマートリンク」システムを搭載。シーンに合わせて付け替えて楽しめる画期的なモデルに進化した。もちろん現代的な耐磁性や耐久性も備える。自動巻き。ケース径35.10×41.90mm(MMサイズ)。SSケース。カーフストラップ。100m防水。67万2500円。

2013年誕生の傑作がシックに軽快に

BVLGARI OCTO Originale ブルガリ オクト オリジナーレ
BVLGARI OCTO Originale
ブルガリ オクト オリジナーレ
古代ローマの最も偉大な遺跡の一つ、マクセンティウスのバシリカからインスピレーションを受け2013年に誕生したブルガリのメンズウォッチコレクション「オクト」。直線を基調にした110面で構成されるフォルムは、8角型ウォッチの究極の完成形と言える幾何学的な美しさが特徴。同社は今年、チタン素材でこの傑作から新たな魅力を引き出した。精悍さと落ち着き、そしてステンレススティールより軽量なチタン素材が実現した、これまでにない軽快な装着感は感動的だ。時を刻む“エンジン”も、もちろん完全自社製で、性能は折り紙付き。自動巻き。ケース径41mm。チタンケース。ラバーストラップ。100m防水。79万円。

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