JOURNEY

サウナとは「自然体験」である──
写真家、池田晶紀が捉えたフィンランドの魅惑的な文化

2018.04.30 MON
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サウナとは「自然体験」である──
写真家、池田晶紀が捉えたフィンランドの魅惑的な文化

2018.04.30 MON
サウナとは「自然体験」である──写真家、池田晶紀が捉えたフィンランドの魅惑的な文化
サウナとは「自然体験」である──写真家、池田晶紀が捉えたフィンランドの魅惑的な文化

日本での「サウナブーム」により、サウナ発祥の地ともいわれるフィンランドが注目を集めている。単にウェルネスの一つとして考えられることの多いサウナだが、本当は「自然体験」と捉えるべきなのかもしれない。フィンランドのサウナシーンに精通し、写真集『SAUNA』を出版した写真家、池田晶紀氏へのインタビューを通じて、サウナの核心に迫る。

(読了時間:約5分)

Text by Shunta Ishigami

サウナブームとフィンランド

あなたは「フィンランド」と聞いて何を思い浮かべるだろうか? 2019年で日本との国交100周年を迎えるこの国は、さまざまな魅力を携えている。充実した福祉、美しい森と湖、オーロラ、「ムーミン」シリーズ、「マリメッコ」のテキスタイルと枚挙にいとまがないが、今だったら「サウナ」を思い浮かべる人も少なくないだろう。というのも、現在日本は一大サウナブームを迎えているからだ。

かつては「おじさん」のものという印象の強かったサウナだが、現在では若者や女性も気軽にサウナを楽しむようになっている。大衆的な銭湯に備えつけられたものから高級感漂うスパリゾート施設につくられたものまでさまざまなサウナがあるが、なかには「フィンランド式」を謳うものも少なくない。フィンランドのサウナは世界有数の歴史をもっており、熱くなったストーブの石に水をかけて蒸気を発生させるという伝統的なスタイルは今でも世界中で愛されている。
©MASANORI IKEDA
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フィンランドではしばしば、サウナが湖のほとりにつくられている。木造の小屋の中に設えられたストーブで石を熱し、水をかけて蒸気を発生させる。人々は小屋の中でじっと汗を流し、ときには「ヴィヒタ」と呼ばれる白樺の若い枝葉を束ねたもので全身を叩き、さらに血行を促進させる。十分に汗を流してサウナを出た人々は、そのまま湖に飛び込み冷たい水で体を引き締めるのである。

サウナに入っていたことで温められ拡張していた血管は、体が冷却されることで急激に収縮する。その結果、湖から上がると反射的に血管がさらに拡張し血行が改善される。この反応は自律神経の調節能力を高めるといわれており、単純に「健康にいい」ということがサウナブームを後押ししているともいえるだろう(もっとも、日本でサウナを体験する人の多くは湖ではなく水風呂に入るのだが)。
©MASANORI IKEDA
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サウナを捉えた写真集

フィンランドは540万という人口に対し、200万ものサウナが建てられているといわれている。その割合、実に3人にひとつ。かの国は「サウナ」の国でもあるのだ。だからこそ、フィンランドにとってサウナとは単なるリラクゼーションの方法ではなく、れっきとした文化の一つになっているのである。

「フィンランドにおけるサウナは、日本の神社のような存在で、昔からとても神聖な場所、森の神が宿る場所とされているところです」

そう語るのは、写真家の池田晶紀氏。フィンランドサウナクラブ会員かつサウナスパ健康アドバイザーでもある池田氏は、2017年に『SAUNA』という写真集を出版している。そこに収められているのは、同氏が北欧諸国を旅するなかで触れてきたさまざまなサウナや自然あふれる風景を捉えた写真の数々。個性豊かなサウナは私たちの好奇心を刺激し、美しい自然の風景は私たちをどこか敬虔な気持ちにさせてくれる。
©MASANORI IKEDA
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『SAUNA』というタイトルのストレートさもあいまってついついサウナの写真に目がいってしまうが、この写真集は池田氏の「自然への興味」をきっかけにつくられたものだという。

「なんで写真集のタイトルが『SAUNA』なのかというと、サウナは人工的につくられた自然体験装置であると僕が捉えているからなんです」と池田氏は語る。「夏が短く、寒く薄暗いサウナの発祥の地フィンランドでは、2,000年前に農民の知恵によって、生活に“太陽”のような存在を取り込もうとしたことからサウナが誕生したといわれています。つまりサウナをビジュアルで表現するには、サウナ室の写真を撮ることではなく、自然体験として得た感動を織り込んでいく必要がありました」
©MASANORI IKEDA
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自然体験としてのサウナ

それゆえ、『SAUNA』はフィンランドをはじめとする北欧のサウナカルチャーと自然を写したものでありながら、単なるサウナの「カタログ」や「紹介」でもなければ、北欧の美しい自然の写真集にもなっていない。池田氏が語るように、これは「自然体験」を写真表現へと落とし込んだものである。

日本でサウナに入ろうとするといかに「フィンランド式」を謳ったものであれ室内につくられたサウナと水風呂に入ることになるが、前述の通り本場フィンランドのサウナは自然に囲まれたものが少なくない。サウナと湖の往復によって形づくられる体験は、まさに自然との交流と呼ぶべきものなのかもしれない。
©MASANORI IKEDA
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池田氏が撮影した風景写真のなかには、美しくはあるが一見北欧の風景かどうか判然としないものもある。水面の揺らめき、木立から差し込む眩しい光、暗闇に舞う火の粉──こうしたシーンの写真は抽象的だが、しかしそれでも「サウナ」を捉えたものであるように思える。それはサウナという自然との交流を経た先に現れる自然の美しさを捉えているからなのだろう。これはサウナという自然体験そのものを写真によって立ち上げようとする野心的な試みなのだ。
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フィンランドと日本の意外な近さ

こうした自然体験を可能にするサウナが日本でも広く受け入れられているのは、理由なきことではないのかもしれない。池田氏は次のようにフィンランドと日本の共通点を指摘する。

「水や森が豊かな国といった環境の共通点がとても多いのがフィンランドと日本ですよね。サウナのカルチャーとしては、日本には蒸し風呂が存在します。フィンランドサウナとは構造上の違いはあるにせよ、考え方がとてもよく似ています。また、室町時代から蒸し風呂はお茶の作法にも含まれていたことも最近になって知りました。あの千利休も蒸し風呂でみそぎを落としてから、お茶室に入っていたそうです」
©MASANORI IKEDA
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フィンランドは「日本から一番近いヨーロッパ」としても知られているが、単にヨーロッパの中でも距離が近いだけではなく、豊かな自然のなかで育まれた精神はどこかリンクする部分があるのかもしれない。だとすれば「北欧ブーム」のような形で家具や雑貨などを楽しむだけではもったいないだろう。

サウナを知ってから池田氏は、北欧を訪れた際も観光的な体験ではなくここでしか味わえない本場の自然体験をすることに興味が湧くようになったと語る。国交100周年という記念すべき年を目前に控え、実際にフィンランドを訪れてみるのもいいかもしれない。そこにはきっと、あなたの価値観を変えるほどの「自然体験」が待っているはずだから。
©MASANORI IKEDA
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