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その商品はどんな用事を片付けるために雇われるのか?

2018.04.13 FRI
その商品はどんな用事を片付けるために雇われるのか?

マーケティングの現場では、日々、売れる商品について分析がなされ、その結果に基づく理論が生み出されている。本記事では、筆者がそういった理論の中で最も説得力があると感じる、ハーバード・ビジネス・スクール教授による考え方を紹介する。

(読了時間:約5分)

Text by Yuya Oyamada
Photograph by Masahiro Okamura

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『イノベーションのジレンマ』の著者によるマーケティング理論

斬新なコンセプト、人目を引くデザイン、綿密な市場調査による新セグメントの発掘──。商品開発やマーケティングの現場では、日々、「この商品はなぜ売れるのか?」という疑問について、さまざまな分析がなされ、その謎を解き明かすための「理論」が生み出されている。

今回はそうした有象無象の「売れる理由」を説いた理論の中でも、個人的に最も説得力があると感じている考え方を紹介したいと思う。

それは「片付け理論」というもので、『イノベーションのジレンマ』などの著作で世界的に有名な、ハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・M・クリステンセン教授が提唱した。

この理論は実にシンプルだが、いったん身につけると、かなりものの見え方が変わる。ポイントはたった一つ、「その商品(またはサービス)は、どんな『用事』を片付けるために『雇われる』のか?」と問いかけることだ。具体的に説明しよう。

著書の『イノベーション・オブ・ライフ(原題:How Will You Measure Your Life?)』で、クリステンセンは、ある大手ファストフード・チェーンの仕事をした際のエピソードを披露している。

この企業はミルクシェイクの売り上げアップを図ろうとして、何ヵ月も研究を重ねていた。チョコレートの成分を上げるべきか、価格を下げるべきか、それとも、新しい顧客層を獲得するために、新しい味を出したり、ローカロリーなものを出したりすべきなのか。さまざまな改良策を試してみたが、いずれも売り上げに貢献はしなかった。

そこでクリステンセンたちの研究チームは、この問題にまったく新しい見方を導入した。それが、「顧客がこの店に来て、ミルクシェイクを『雇う』のは、どんな『用事』ができたときなのか?」というもの。

日本だとちょっとイメージがしづらいかもしれないが、このファストフード・チェーンでは、ミルクシェイクは朝、クルマで通勤する客によく売れていた。店に寄ってミルクシェイクを買い、クルマを運転しながら、朝ごはんの代わりに飲んで通勤する人が多かったのだ。

ということは、彼らに発生している「用事」とは、第一に「朝食を手軽にとりたい」ということだと推察できる。しかし、朝食にはサンドイッチやバナナやチョコレートバーなど、たくさんの選択肢がある。その中で、なぜミルクシェイクが選ばれているのか?

実は「自動車通勤客によく売れている」という点に、もう一つの「用事」が隠れていた。

まず、運転中は片手がふさがっているため、もう一方の手で食べたり飲んだりできるものでなくてはならない。しかもずっと手に持っているわけにもいかないから、気軽に置いたりできるものである必要もあった。

そして、最も大きな理由は、ミルクシェイクは飲み干すのに時間がかかる点にあった。自動車通勤客は何十分も車を運転するため、サンドイッチやバナナだとすぐに食べ終わってしまい、残りの時間が手持ち無沙汰になってしまう。その点、ミルクシェイクはドロドロしていて味も濃いから、一気に飲み干せない。だから、自動車通勤客にはミルクシェイクがピッタリだった。

つまり、ミルクシェイクは「通勤時間を楽しくするため」に雇われていたのである。

だからミルクシェイクの売り上げをアップさせるためには、これらの「用事」を、もっと効率よく「片付けられる」ようにすればいい。例えば、飲み干すのに時間がかかるようにする。フルーツの固まりをプラスしたり、粘度を上げたりして、飲む楽しみを強調するのもいいだろう。複数のフレーバーを重ね合わせて、飲み干すまでにいくつもの味が楽しめるようにしてもいい。あるいは、シンプルにもっとビッグなサイズを売り出してもいいかもしれない。

顧客に対して「どこを改良すれば、もっと買いたくなりますか?」と聞いてはいけない

しかし、どうしてこんな単純なことに、このファストフード・チェーンは気が付かなかったのか?

実はこの企業の失敗は、顧客に対して「どこを改良すれば、ミルクシェイクをもっと買いたくなりますか?」と聞いていたことにあった。そこで集まったバラバラな要望を集約し、その平均値を取り入れたため、結果として、「どんな用事もうまく片付けられない、万能型の製品」ばかりになってしまっていたのだ。

この教訓からクリステンセンは、商品開発(あるいはマーケティング)とは、顧客の用事を理解し、それをどうすれば「もっとも効率よく片付けることができるか」という視点で行われるべきであると述べる。

ミルクシェイクの例だけで納得できなければ、イケアのことを考えてみてほしい。イケアがあっという間に世界を席巻したのは、「新しい家具一式をすぐにそろえたい」という「用事」に、競合他社よりも手際よく応えてくれるからだ。

あの広々とした店舗は非効率にも見えるが、一回で必要なものをすべてそろえるためには不可欠であり、マイカーでの来店(そして顧客自身による家具の組み立て)を前提にしているのも、配送にかかる日数を省くことにつながっている。製品もサービスも、すべてが「すぐに家具をそろえたい」という用事を片付けるために徹底されている。

だから、「急に転勤や引っ越しが決まって、来週には新しい家具をそろえなきゃいけない」という「用事」が生じた人は、世界共通で真っ先にイケアに向かう。そして、手際よく面倒な用事を片付けてくれたことに感謝し、イケアというブランドに愛着を抱くようになるのだ。

また、商品開発以外にも「片付け理論」は有用だ。ある企業は野菜ジュースを単に「健康的な飲み物」としてプロモーションするのではなく、「1日分の野菜が摂取できる」という売り方に変えたことで大ヒットにつながったが、そこには、「健康的に過ごすには野菜を食べないといけない」という「用事」に対しての手頃な解決策という視点が含まれている。

その商品やサービスは、いったいどんな用事を片付けるために雇われているのか? 商品開発やマーケティングに悩んでいる人は、そのような視点で市場を眺めてみることで、思わぬヒントが見つかるだろう。
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