AIと人間との協調
史上最年少の22歳でチェスの世界チャンピオンに輝いたガルリ・カスパロフ氏といえば、1996〜97年の二度にわってIBM開発のスーパーコンピューター「ディープ・ブルー」と繰り広げた対局が今も語り草になっている。
一勝一敗で痛み分けとなった“人類 対 AI”の歴史的勝負から約20年がたった今、そのカスパロフ氏がかつての“ライバル” であるIBMでリサーチャーを務めるフランチェスカ・ロッシ氏と持論を戦わせた内容が興味深い。
舞台はニューヨークにある非営利団体「ペイリー・センター・フォー・メディア」が主催したトークセッション。雑誌『WIRED』のシニア・エディター、ジェイソン・タンツ氏をモデレーターに迎えた夜のハイライトは、AIという強力なテクノロジーを手にする側に課せられる「責任」についての議論だ。
一勝一敗で痛み分けとなった“人類 対 AI”の歴史的勝負から約20年がたった今、そのカスパロフ氏がかつての“ライバル” であるIBMでリサーチャーを務めるフランチェスカ・ロッシ氏と持論を戦わせた内容が興味深い。
舞台はニューヨークにある非営利団体「ペイリー・センター・フォー・メディア」が主催したトークセッション。雑誌『WIRED』のシニア・エディター、ジェイソン・タンツ氏をモデレーターに迎えた夜のハイライトは、AIという強力なテクノロジーを手にする側に課せられる「責任」についての議論だ。
IBMにおいて、「AIと倫理」にまつわる世界的なリサーチの指揮を執るロッシ氏は、AIシステムは人間といかに協調するかを念頭に置いて設計されるべきだと語る。そのために必要なのが、AIがとったアクションを常にトラッキングできる環境を整備することだと言い、そのための具体的な手段として挙げたのが、2018年5月に欧州連合(EU)で施行される「General Data Protection Regulation(GDPR=EU一般データ保護規則)」の存在だ。それは、EUに居住する全住民の個人データ(フェイスブックなどのSNSを筆頭に氏名、住所、医療情報、IPアドレスなどを含む)の、一般企業による取扱・利用を厳しく制限するというもの。この保護規則は、EU外の企業にも適用され、規則遵守のため違反行為には膨大な罰金も設定されている。そのため、GDPRはデータ管理の主導権を機械から人間へと取り戻す措置として期待され、また膨大なビッグデータの解析を行動指針にする、AIテクノロジーの無制限な進化に対する抑制力となる可能性がある。
さらにロッシ氏が指摘するのは、人間に特有の“偏見”をAIがマシンラーニングを通じて不必要に増幅・拡散する点だ。これに対する有効な策としてロッシ氏が挙げるのは、このバイアスを排除する第三者機関の存在である。実際、2016年には、IBMをはじめグーグル、アマゾン、フェイスブック、マイクロソフトなどのテックジャイアントがAIに関するパートナーシップを立ち上げて、この問題に取り組んでいる。「Partnership on AI」と名付けられたこの非営利団体は現在、企業だけでなくユニセフなどを含む63の団体から構成されている。ロッシ氏がこの講演を通じて強調していたのは、AIを開発する人々、AIの影響を受ける人々、そして規制する立場の人々が集結し、多角的なアプローチを採用することの重要性だ。
さらにロッシ氏が指摘するのは、人間に特有の“偏見”をAIがマシンラーニングを通じて不必要に増幅・拡散する点だ。これに対する有効な策としてロッシ氏が挙げるのは、このバイアスを排除する第三者機関の存在である。実際、2016年には、IBMをはじめグーグル、アマゾン、フェイスブック、マイクロソフトなどのテックジャイアントがAIに関するパートナーシップを立ち上げて、この問題に取り組んでいる。「Partnership on AI」と名付けられたこの非営利団体は現在、企業だけでなくユニセフなどを含む63の団体から構成されている。ロッシ氏がこの講演を通じて強調していたのは、AIを開発する人々、AIの影響を受ける人々、そして規制する立場の人々が集結し、多角的なアプローチを採用することの重要性だ。
一方、いまやAI肯定派となったようにみえるカスパロフ氏は(なにしろ、彼が登壇した2017年のTEDトークは「知性を持つ機械を恐れるな」と題されている)、同時にディストピア的世界が実現しうることに対して危惧を抱いてもいる。
確かにAIは、前述の通り偏見を助長し人の心を傷つけることもあれば、テロリストにも利用されうる。この点についてはカスパロフ氏も、グーグルやアップルといった主要テック企業が世界的に合意された強制力のある指針に従うよう求める。
「常に進化する現実に対し、適切に対処しなければ、例えばアメリカ国内では既存のルールに従っても、新興市場など別のマーケットではビジネス拡大の目的のためそのルール自体を反故にするなど、画一したビジネス慣行を遵守しないテック企業が出てくるかもしれない。だからこそ、(GDPRのような)グローバルな規約の締結とその遵守の徹底が間違いなく最低条件となってくるのです」
そこを踏まえたうえで、AI支持派のカスパロフ氏が最も懸念する点について訊かれると、次のように答えた。
「私の一番の懸念は、AIの話になると、進化のスピードが速すぎるという議論が多いことです。が、私にしてみれば、議論そのもののスピードが遅すぎます。例えば、AIの登場によって仕事を失うかもしれないことを心配するばかりで、来るべき現実にどう対処していくべきかという議論が前に進まない。いつまでたってもAIの時代にみんながハッピーになれる青写真が描けないのです」
確かにAIは、前述の通り偏見を助長し人の心を傷つけることもあれば、テロリストにも利用されうる。この点についてはカスパロフ氏も、グーグルやアップルといった主要テック企業が世界的に合意された強制力のある指針に従うよう求める。
「常に進化する現実に対し、適切に対処しなければ、例えばアメリカ国内では既存のルールに従っても、新興市場など別のマーケットではビジネス拡大の目的のためそのルール自体を反故にするなど、画一したビジネス慣行を遵守しないテック企業が出てくるかもしれない。だからこそ、(GDPRのような)グローバルな規約の締結とその遵守の徹底が間違いなく最低条件となってくるのです」
そこを踏まえたうえで、AI支持派のカスパロフ氏が最も懸念する点について訊かれると、次のように答えた。
「私の一番の懸念は、AIの話になると、進化のスピードが速すぎるという議論が多いことです。が、私にしてみれば、議論そのもののスピードが遅すぎます。例えば、AIの登場によって仕事を失うかもしれないことを心配するばかりで、来るべき現実にどう対処していくべきかという議論が前に進まない。いつまでたってもAIの時代にみんながハッピーになれる青写真が描けないのです」
「スマートシティエキスポ2017」に見る、
未来型都市の青写真
前編