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ホテルプロデューサー・龍崎翔子が語る「ハコ」の魅力 後編

2018.04.04 WED
ホテルプロデューサー・龍崎翔子が語る「ハコ」の魅力(後編)

ミレニアル世代と呼ばれる若者たちとムラカミカイエ氏との対談録。第3回は現役大学生のホテルプロデューサー・龍崎翔子を迎え、前編に引き続きホテルという空間の可能性を再考する。

(読了時間:約7分)

Text by Kaie Murakami

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「ダサい」から「ワクワク」へ

既存の枠を打ち破る感性をもつミレニアルズとの対談を通じて新たな価値観を描き出していく本連載、第3回ゲストはホテルプロデューサーの龍崎翔子さん。京都や大阪にソーシャルホテルをつくり、現在は湯河原で温泉旅館「THE RYOKAN TOKYO」の運営を手がける龍崎さんは、いまもっとも注目を浴びるミレニアルズのひとりだ。

THE RYOKAN TOKYOを巡りながら龍崎さんのこれまでを振り返り、彼女なりの「ホテル観」を探ってきた前編に続き、後編は街に飛び出して彼女の思想を掘り下げてゆく。
──2020年には東京オリンピック・パラリンピックも控えているし、ホテル事業って追い風だと思うんです。龍崎さんとしてはどういう立ち位置でこれから働いていこうと思ってるんですか?

ホテル業としては、運営委託みたいな取り組みを増やしていけたらと思っています。同じブランドを単純に横展開していくのではなく、色々な土地で、ホテル業の新しいあり方を提案していくようなホテル・旅館をつくっていきたいです。また、自分がホテル業に携わっているからこそ見える課題はあって、最近はホテル業界を耕すようなサービスをつくっていきたいと思っています。具体的にはホテルが自社でマーケティングや集客をすることを支援するような予約システムを開発しています。

よくホテルとか観光業の人だと思われがちなんですけど、自分のなかでは少し違っていて、わたし自身はプロデューサーや経営者だと捉えています。ホテルは好きだしすごく大事なんですけど、仕事としてはホテルや観光業に限らず、日本や世界を面白くしていきたいです。
──龍崎さんの原動力がどこにあるのか不思議な気がしてくるんですよね。ホテルをつくりたいという気持ちは強いと思うんですけど、必ずしもホテルに執着するわけではないというか。ビジネス的な意識が強いのかな。

0→1タイプの方とか、1→100タイプの方とかいると思うんですけど、私はマイナス→プラスタイプだと自分で思っています。私の原動力って、「これめっちゃダサいな」と思ったことを変えようとすることから生まれることが多くて。たとえば高校生のときは、「オープンスクール」という催しで学外の人に学校の紹介をしていたんですけど、「もっとこうしたらいいじゃん」と思うことがとても多かった。その失われてしまった可能性をもったいないと思う気持ちがすごく強くて、やきもきしてしまう。それが私の原動力ですね(笑)。

ホテルについても、周りが横並びで同じようなことばかりをしているから、もったいないと思ってしまう。ホテルって、もっとこういうことできるんじゃない?ってやって見せたくなってしまう。ホテルってこういうもの、という固定概念が強まってホテルの可能性が狭められてしまうのが嫌なんですよね。多分誰も気にもしていないそこに課題意識を感じてしまってやきもきするから、自分がなんとかするしかない。もしわたしがホテルマニアだったら、消費者視点が強くなって理想を詰め込んだホテルができあがると思うんです。でも、わたしの場合は自分が泊まれる価格帯のホテルがどこも同じでつまんないから、ゼロベースでホテルがもっているポテンシャルと向き合ってつくった感じですね。

自分の生活を面白くするためにホテルをつくっているのかもしれません。ホテルでテンションが下がるのが嫌だから。それに普段色々なウェブメディアを見ていても、ファッション業界はさまざまなブランドがいつも新作を出してワクワクさせられるのに、ホテル業界は退屈だなと思ったんです。だから、私は業界を耕したくて。それが原動力ですね。
──ホテルって人によって求めるものが全然違うよね。若いころは寝られればいいと思ってたけど、年齢を積み重ねていくとあれもこれも求めるようになって、わがままになっていく。だから、年上のホテル観をインプットしすぎるのもよくないかもしれない。

わたしもたまにそう思います。だから、わたし自身はなるべく一般人であった方がいいと思ってるんです。自分たちがターゲットにしている人たちと自分の生活を寄せていって、そのなかで得たアイデアやフラストレーションを大事にしてるんです。

だから特に自分のインサイトは重要ですね。「HOTEL SHE, OSAKA」にレコードを置くようになったのも、自分が以前レコードをプレゼントされたのがきっかけなんです。そのとき感じた自分の高揚感を再現できたらいいなと思って。自分のなかに生まれた感情をどれくらい引き出しにしまっておけるかが大事だと思ってます。「THE RYOKAN TOKYO」では本棚をつくって古い雑誌や漫画を置いていますが、それも自分の家にはないんだけど友だちの家にあったから読んでみたらすごく面白かったという体験を元にしています。
──設備の良し悪しとかアメニティのクオリティじゃなくて、結局どんな接客をされてどんな体験をしたかの方が重要だったりするもんね。

そうですね。わたしたちも人を大事にしていて、「HOTEL SHE」の「SHE」はサービスのコンセプトを表しているんです。「Satisfaction」「Heartfelt」「Emotional」 の頭文字をとってSHEなんです。

──そういう意味が込められてたんだ。いいネーミングだね。

ありがとうございます。だから、よく「HE」とか「THEY」はつくらないんですかって聞かれるんですけど、意味が変わってしまうのでつくりません(笑)

ホテルとアイデンティティ

──龍崎さんはホテルのディテールに対するこだわりがそこまでないように見えて、一方ではすごくホテル好きな面があるのが面白いですよね。

ホテルっていう空間にはまだまだ可能性があると思うんです。だって、ホテルってたくさんの人がオールナイトで滞在してる「ハコ」でもあるんですよ。でもたくさんの人がいるのに何にも使われてないというギャップがすごく大きいなと。

それによく考えるとホテルって高くないですか? コンビニだったら500円でいろいろ買えるのに、ホテルってただ一晩寝るだけで1万円使うし、しかも満足してなくても平気でお金を使ったりするじゃないですか。それも面白いところだと思うんですよね。宿泊するという機能があるだけである程度経営的には採算がとれてしまうという。ファッションだったらそもそも売るためにブランディングが必要だったりしますけど、ホテルの場合はある程度採算がとれているうえでブランディングをする必要があって、奥が深いなあと……なんだかんだホテルが一番好きなんですよね。
──ただ、そういうホテルの面白さに気づくタイミングって、ホテルをつくろうと思い立ったときとはズレてると思うんですよ。

たしかにそうですね。ホテルってもっといろいろできるよなと思ったのは、大学に入ったころのことです。いまとなっては恥ずかしい話なんですけど、当時わたし、クラブイベントをオーガナイズしたい時期があって。そのあたりからあらゆる空間を“ハコ”として捉えるようになって、ホテルもハコなんだからいろいろできるじゃん、と。もっと発信できるんじゃないかなと思って、いまに至るんです。
──クラブイベントやろうとしてたんだ。意外ですね。

大学入ったばかりのころだったので、イキってたんだなと思うんです(笑)。未成年だったので、そもそもクラブ自体行けなかったですし。しかも、そのあと富良野のペンションに行くようになってしまったので全然……。

──クラブカルチャーみたいなものに触れたときに、コンテンツじゃなくてプラットフォームの方に関心が向いたってことですよね。DJだったりクラブミュージックだったりではなく、ハコの方に興味をもったという。

ホテルというハコを運営していることと、コンテンツに強い執着がないことには関連性があるのかもしれないです。正直、私自身はものすごくミーハーだし、コアじゃない方が一般的な感覚に近づけると思っています。
ホテルに対するオブセッションはあると思うんですけど、それがどこから始まっているのかは正直自分でもわからないんです。ただ、10歳のころからホテルをつくりたいと言い続けて、実際にホテルをつくるようになってしまったので、自分からホテルをとっちゃうと何も残らないのかもしれません。

ホテルが自分のアイデンティティと一体化しちゃってるんですよね。だから、ずっとホテルのことを考えていくんだと思います。


<対談を終えて>

龍崎さん本人も「分からない」と語っているとおり、彼女のホテルに対するオブセッションにはまだ謎が残っている。しかし、すべての変革が最初から計算づくで行われるわけではない。彼女はまだ21歳、現時点でこれだけのホテルをつくり上げたことも十分驚きだが、今後もさまざまなホテルをつくり続けていくのだろう。その過程で彼女は自らの根源を徐々に理解してゆくのかもしれない。重要なのは、手足を動かして考えたことを形にしてゆくことだ。世界は、行動することでしか変わらないのだから。
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