ART / DESIGN

山梨県出身の「ろうけつ染め」アーティストが語る、LEXUS NEW TAKUMI PROJECTが生んだ新たな出会い

2018.03.02 FRI
ART / DESIGN

山梨県出身の「ろうけつ染め」アーティストが語る、LEXUS NEW TAKUMI PROJECTが生んだ新たな出会い

2018.03.02 FRI
山梨県出身の「ろうけつ染め」アーティストが語る、 LEXUS NEW TAKUMI PROJECTが生んだ新たな出会い
山梨県出身の「ろうけつ染め」アーティストが語る、 LEXUS NEW TAKUMI PROJECTが生んだ新たな出会い

日本のモノづくりを支え、作り手の才能を育て、サポートするレクサスによるプロジェクト「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT」は、「匠」にとってどんな意義があったのか。今回初めてプロダクト制作に挑戦したという山梨県出身のテキスタイルアーティスト、古屋絵菜氏の最終発表までの道のりを追った。

(読了時間:約6分)

Photographs by Kotaro Washizaki
Text by Shunta Ishigami

匠から見たLEXUS NEW TAKUMI PROJECT

ネクタイとチーフ、スカーフに描かれた、美しい花の数々。「ろうけつ染め」によって表現された花はまるで絵画のようにも見え、深みのある色合いは静謐な美しさをたたえている。

これらの美しいアイテムは、レクサスによる日本の「匠」をサポートするプロジェクト「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT」において、山梨県出身のテキスタイルアーティスト、古屋絵菜氏が制作したものだ。
1月17日のイベントで披露されたネクタイ、チーフ、そしてスカーフ。繊細な花柄が美しい
1月17日のイベントで披露されたネクタイ、チーフ、そしてスカーフ。繊細な花柄が美しい
去る1月17日に行われた本プロジェクトの最終イベントには47都道府県から参加したすべての「匠」が集まり、プロダクトの最終プレゼンテーションや商談会が開かれたほか、小山薫堂氏らメンターによる表彰や、セレクトショップ「BEAMS JAPAN」と「INTERSECT BY LEXUS - TOKYO」によるコラボレーション企画も発表された。

本プロジェクトが日本の伝統工芸の魅力を多くの人に届ける絶好の機会となったことは間違いないが、当事者である「匠」は一体どんな感覚でこのプロジェクトに取り組んでいたのだろうか。
最終プレゼンテーションでは、ジャケットやシャツを組み合わせたコーディネートも提案された
最終プレゼンテーションでは、ジャケットやシャツを組み合わせたコーディネートも提案された

初めてのプロダクト制作

山梨県を代表して参加した古屋氏は、2013年にNHK大河ドラマ『八重の桜』のオープニングタイトルバックに作品が用いられたことで脚光を浴びている注目のアーティストだ。しかし、意外にも「プロダクト」を開発するのは今回が初めてだったという。

「これまではアーティストとして作品制作をメインに活動してきたので、プロダクトをつくることは考えたこともありませんでした。今回こうした機会をいただき、山梨県が全国一のネクタイ生地生産量を誇っていることもあって、自分の作品をネクタイに落とし込もうと思ったんです」
11月に行われた初回のプレゼンテーションの様子。メンターからは真摯ながらも厳しいアドバイスが飛ぶ
11月に行われた初回のプレゼンテーションの様子。メンターからは真摯ながらも厳しいアドバイスが飛ぶ
こうして古屋氏は、自身が普段作品のために描いている「花」を、男性向けのネクタイとチーフに落とし込んだプロダクトの制作を開始した。最初にメンターへのプレゼンテーションの場が設けられたのは、11月。プロトタイプを持参し、ネクタイに描かれた花の背後にあるストーリーや制作に込めた思いをプレゼンした古屋氏だったが、メンターの面々からは「男性が手に取りづらいのではないか?」、「女性用のプロダクトとセットにした方がいいのではないか?」と、厳しい言葉が飛ぶ。その後メンターである下川一哉氏とのディスカッションを経て、ネクタイ、チーフ、そして新たに女性用のスカーフを加えた3つのプロダクトをセットにして、2018年1月の最終プレゼンテーションへ臨むことが決定した。

「これまでは『売れる』ことを意識しながら物づくりを行ったことがなかったので、とても勉強になりましたね」と、古屋氏は当時のプレゼンを振り返る。

五感で感じ取る自然がモチーフ

古屋氏がアトリエを構えているのは山梨県甲州市。中央本線が通っているため東京まで電車一本でつながるアクセスのよさを誇りながら、周囲が山々に囲まれた自然豊かな土地だ。
古屋氏のアトリエの様子。日中は窓から柔らかな光が差し込み、電気をつけずとも十分明るい
古屋氏のアトリエの様子。日中は窓から柔らかな光が差し込み、電気をつけずとも十分明るい
数年前に東京を離れて、生まれ育った土地である山梨へと戻った古屋氏。現在は住居も兼ねるアトリエで日夜制作を続けているという。伝統的な日本家屋の和室をリノベーションしたアトリエにはろうけつ染めのための絵筆や、染める際の色見本が所狭しと並んでいる。本棚には洋の東西を問わず数多くの美術書が並ぶほか、神話や民話にまつわる書籍も積み上げられていた。
普段はアトリエにこもりっぱなしだという古屋氏。昼夜を問わず作業することもあるという
普段はアトリエにこもりっぱなしだという古屋氏。昼夜を問わず作業することもあるという
「特に今回は、モチーフとして描く花が登場する神話を意識しようと思って、色々な本を読んでいました。ただ、制作そのものに関しては、資料からというより山梨の自然から大きく影響を受けていると思います」
染料の調合やろうの処理も同じ部屋で行う。描くものに応じて、さまざまな刷毛を使い分けるのだという
染料の調合やろうの処理も同じ部屋で行う。描くものに応じて、さまざまな刷毛を使い分けるのだという
そう語る古屋氏はアトリエからクルマを走らせ、「竜門峡」と呼ばれる日川渓谷沿いに続く散歩道を案内してくれた。轟々と音を立てて流れる川に沿って、きちんと整備された道が通っている。秋には紅葉が美しく色づくこの場所を、古屋氏は一人でしばしば訪れるのだという。

「一般的に奇麗なのは夏や秋かもしれないですが、どの季節でも魅力的なんです。今は12月なので草木も枯れてしまっていますけど、その色合いがかえって美しいときもありますね。川のそばにいると水が流れる音が聞こえてきて、五感すべてで自然を感じ取っているような気がします」
竜門峡は登山道から気軽に歩いていくことができる。四季折々の表情が美しい
竜門峡は登山道から気軽に歩いていくことができる。四季折々の表情が美しい
古屋氏はそう語りながら、川辺の大きな岩に腰掛けた。川を流れる水は冷たく透き通っている。少し深くなったところは岩や藻の色を映してか、うっすらとしたエメラルド色に見え、気を抜くと引き込まれそうになってしまう。その美しさは、まさに古屋氏がろうけつ染めによって描いている草花の美しさを思い起こさせた。

ろうけつ染めは、染料とろうを少しずつ重ねていくことで豊かなグラデーションを表現している。一度ろうを塗るとそれが乾くまで待つ必要があり、小さな絵柄であっても制作には数日、ときには数週間を要することもあるという。それは自分と向き合うことが必要とされる、非常に孤独で静かな営みだろう。忙しなく情報が行き交う東京ではなく、豊かな自然に囲まれた山梨だからこそ古屋氏はその静寂に耐え、作品を制作していけるのではないか。
水は透き通っていて美しい。アイデアソースとして落ちている草木を持ち帰ることもあるという
水は透き通っていて美しい。アイデアソースとして落ちている草木を持ち帰ることもあるという

新しい自分との出会い

1月17日に行われた最終イベントで、古屋氏はスカーフを加えた3つのプロダクトをセットとしてプレゼンテーションを行った。古屋氏がプロダクトを展示したブースを訪れる人もおり、さらには他の都道府県の匠と楽しげにコミュニケーションをとる古屋氏の姿も見られた。
1月の最終プレゼンテーションの後、ブース来場者に対してプロダクトの説明をする古屋氏
1月の最終プレゼンテーションの後、ブース来場者に対してプロダクトの説明をする古屋氏
「今回、プロダクトをつくれたのは非常に貴重な体験だったと思います。今後も何らかのかたちで、プロダクト制作にも取り組んでいきたいですね」と古屋氏は話す。このプロジェクトを通じて全国各地の匠とのネットワークが生まれたことも、古屋氏にとっては刺激になったのだという。

「それに、今回の体験から『売れるかどうか』を意識したり、マーケティング的な視点を取り入れたことで、普段の作品づくりとの、制作に対しての考え方の差別化ができたような気がするんです。それは悪い影響ではなくて、いい意味で作品のつくり方が変わっていくように思います」

LEXUS NEW TAKUMI PROJECTの開始に際し、小山薫堂氏は、このプロジェクトは「出会いの場」なのだと語った。たしかにこれは私たちがまだ知らない伝統工芸の魅力と出会う場であり、匠がお互いに協力できる新たな匠と出会える場だった。しかし、それだけではなかったのだ。それぞれの匠が、自身でも知らなかった新しい自分とも出会う場を、LEXUS NEW TAKUMI PROJECTは生み出していたのである。

古屋絵菜
山梨県生まれ。2011年、武蔵野美術大学工芸工業デザイン科テキスタイル大学院修了。
染色作家である母の影響を幼少期から受け、武蔵野美術大学在学時にろうけつ染めを本格的にスタート。
現在も主にろうけつ染めを用いて、花をモチーフとした作品を制作・発表している。
2013年にはNHK大河ドラマ『八重の桜』において、5月度のオープニングタイトルバック用に作品を
提供。近年は上海でも展示を行い、その活動は日本国内にとどまらない。
http://enafuruya.com/


展示会情報
展示期間[入場無料]:2018年3月3日[土]― 3月18日[日]
作家・古屋絵菜在廊日:3月3日[土]・4日[日]・11日[日]・18日[日]
トークイベント開催:3月4日[日]13時30分-14時30分
会場:レクサス甲府ショールーム
TEL:055-268-1139
トークショーでは、ろうけつ染めの歴史や制作工程、全国の匠が一堂に会したキックオフセッションの様子、さらにはプロジェクト総合監修・小山薫堂氏をはじめとしたサポートメンバーのトークセッションの様子をお伝えいたします。
※トークショーにご参加される方は事前にご予約をお願いいたします。

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