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「売らない場」がファンを作る。
バーバリーに学ぶウェブPRの3つの基本

2018.02.26 MON
「売らない場」がファンを作る。バーバリーに学ぶウェブPRの3つの基本

モードに敏感な若者からの関心を失い始めていた「バーバリー」を、見事に立て直したクリストファー・ベイリー。彼の功績を紹介した前回の続編として、今回は実際にどんな工夫のもと新たなブランドイメージを獲得していったのか、そのポイントを紹介する。

(読了時間:約7分)

Text by Yuya Oyamada
Photograph by Catwalking / gettyimages.

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バーバリーはいかにして新たなブランドイメージを構築したのか

前回の記事では、2018年3月での退任が決まったバーバリーのCEO兼デザイナーのクリストファー・ベイリーの功績について紹介した。高級ファッションの世界は、ベイリーが率いたバーバリーのデジタル革命によって大きく変わった。今やどのブランドもSNSで情報発信し、最新コレクションのネット通販も行っている。

しかし、こうした今では当たり前になった施策のほとんどは、バーバリーがやり始める7、8年前には、「高級ブランドのエクスクルーシブ(限られた人向け)な世界観が壊れてしまう」と否定的な見方のほうが多かった。

ネットによって誰でもその世界にアクセスできたら、ブランドは「特別」なものではなくなってしまうのではないか――。そうした意見が支配的だったのである。しかしバーバリーは、いつでも、誰でも、どこからでもアクセスできるオンライン空間において、高級ブランドとしてのイメージを損なうことなく、特別感を訴求することに成功した。

今や「オンライン空間でのブランドイメージの構築」というテーマは、さまざまな企業の関心を集めている。そこで今回は、バーバリーがいかにして新たなブランドイメージを構築していったのか、ファッション業界以外の人にも参考になりそうなポイントをいくつか紹介していきたい。

①宣伝よりも体験を与える

SNSやウェブサイトなど、企業が情報発信するチャネルが多様化するにつれ、それをいかにコントロールしていくかが大切になっている。そこで参考になるのが、「経験価値マネジメント」という考え方だ。

顧客が何かに感動して、「この商品(または企業)はいい」と思うことを経験価値と呼ぶ。経験価値マネジメントとは、企業が顧客と関わりのあるすべてのチャネルで接点を増やして、そこで感じてもらう価値を最大化すべく管理(マネジメント)していくべきだという考え方である。

ポイントは、「顧客と関わりのあるすべてのチャネル」において、「価値を最大化」すべきという指摘だ。ここで言われるチャネルには当然、SNSやウェブサイトも含まれる。平たくいえば、実店舗と同じような感動体験を、今の企業はオンライン空間においても与えなければならない。

何を当たり前のことを……と思うかもしれない。しかし、SNSの企業アカウントや自社サイトを見ていると、ただ漫然と商品やサービスの宣伝をしているだけのものが目立つ。オンライン空間で感動体験をいかに与えるべきか、と考えている企業は決して多いとはいえない。

バーバリーは経験価値マネジメントの重要性がよく分かっていた。だからこそ、「今後はオンラインに注力していく」と宣言した2010年頃から、他ブランドに先駆けてファッションショーのオンライン中継を行い、それまでファッション業界の有名人やセレブにしか開放されてなかった最新コレクションの光景を、全世界のファンに届けているのだ。

こうした施策は、一般的には「○○の購入者限定」とか「サイトに会員登録した人限定」といったかたちで行われることが多い。いわば、オンラインショッピングの付加価値として、特別な体験を提供しましょう、というものだ。

しかし、バーバリーは発想を逆転させた。ファッションショーの中継は、スマートフォンやPCさえあれば誰でも観ることができる。LINEやフェイスブックのLIVEツールでの中継も行っており、バーバリーの自社サイトを見に行く必要さえない。あくまでも、ファッション好きな人が感動するような体験を提供することが優先され、それを気に入ってくれたら、商品情報も見てください、というスタンスだったのだ。

さらに2011年にはツイッターと「TWEETWALK」も実施。単にショーの模様を見せるだけでなく、バックステージでモデルたちがメイクをしている様子など舞台裏も積極的に公開し、オンラインならではの特別な体験をフリーで開放した。

②ファンは企業より「人」につく

これは特にSNSを活用する上で覚えておきたいことだ。「ソーシャルネットワーク」という言葉からも分かるように、SNSとは本来、人と人が交流するためのツールであり、「企業の宣伝ツール」として誕生したわけではない。近年はネットでインフルエンサーの影響力が上がっているように、非常に属人的なメディアなのだ。

そこでは、ブランドも没個性的な「企業アカウント」としてSNSを運営するよりも、「名物広報さん」のような宣伝隊長を立てたPR活動を行ったほうがファンはつきやすい。

とはいえ、言うは易く行うは難し。特にブランドイメージを大切にする高級ブランドでは、こうした属人的なPRは難しいといわれていた。しかしバーバリーは、CEOやデザイナーがブランドの「顔」となって、自ら積極的な情報発信を行ってきた。ベイリーは一時期、コレクションの前後にかなりラフなメッセージ動画も配信していたほどである。

ほとんどの高級ブランドでは、デザイナーのインタビューはブランドの華やかなイメージを壊さないように、スタジオやアトリエで収録される。しかしベイリーは、ときにロンドンの街頭や騒がしいパーティー会場、さらには工事中のコレクション会場を背景にメッセージ動画を撮影していた。内容もファッションジャーナリストによる「インタビュー」ではなく、カメラの向こう側にいる「私たち」に語りかけるものだった。

こうした自分の姿勢について、ベイリーは「WIRED」日本版のインタビューでこう語っている。

〈もともと私は人を萎縮させるような雰囲気が苦手です。リアルな店舗にしても温かくてフレンドリーでウェルカムな感じのほうが好きですし、無愛想で自分が場違いな気にさせられるような空間には居たくありません。いわゆるラグジュアリーブランドが、デジタルに対して神経質になるポイントは、ここにあるのかもしれません。人を場違いな気分にさせるほうがたやすく、逆に、お客さまがいつ来ても温かく迎えられるような場所をつくり上げること、それも媚びることなく、かつうわべだけではないやり方でやることのほうが、はるかに難しいのです。私がデジタルの世界を好ましく思うのは、そこではすべてがオープンで透明だからです。〉

ファンを「顧客」というよりも、まるで「友人」であるかのように扱うことで、ベイリーはオープンな関係を築いていこうとした。この姿勢は、特にネット的なコミュニケーションに慣れた若者たちを中心に、そうしたフレンドリーさを好ましく感じる人々のコミュニティを作ることにつながっていった。

③コミュニティは売らない場がつくる

宣伝よりも体験を与え、商品よりも人をPRする。そうした考え方はすべて、ここに関連していく。

ネットでモノやサービスを売る企業は、絶えず「より安く」というプレッシャーにさらされている。同一商品の価格比較があまりに容易なオンライン空間では、実店舗に比べると「常連」が作りづらい。温かい接客や客同士のコミュニケーションなど、そういった価格以外の部分での魅力を訴求することが簡単ではないため、商品自体のコストパフォーマンスに目が行きがちなのだ。

だからネット通販では、一番安く便利な企業が「勝者総どり」になりやすく、その代表がアマゾンだろう。それ以外の企業は、オンライン上でいかに「常連」をつくるのか。つまり、コストパフォーマンス以外の魅力をいかに訴求していくのか考えなければならない。

そこでバーバリーはオンライン上に「常連」を作るため、さまざまな「モノを売らない場」をつくり出した。

ひとつは、バーバリーのアイコンでもある「トレンチコート」をテーマにしたユーザー交流サイト「ART OF THE TRENCH」。トレンチコートを着た人なら誰でも、自身で撮影したスナップ写真を投稿できるサイトで、後に世界200ヵ国以上から投稿が集まるほどの人気サイトになり、関連したイベントも各国で行われた(現在はサービスを終了しているが、インスタグラムの普及により自社で画像投稿サイトを運営する必要がなくなったことが大きい)。

もうひとつは、「BURBERRY ACOUSTIC」という2010年からスタートした音楽プログラム。自社サイトやユーチューブ、あるいはApple Music上に同名のチャンネルをつくり、そこでクリストファー・ベイリー自身がセレクトしたイギリスの若手アーティストの音楽を紹介するものだ。

これらはすべて無料で利用でき、「ここから収益を得ることなく、主にマーケティングツールとして運用する」とベイリーは宣言している。そこから透けて見えるのは、オンライン上で「常連」をつくるには、「商品を売らない場」を提供していかなければならないという方針だ。

商品を売らないから、気軽に人々は集まる。宣伝ではなく体験を提供するから、シェアされやすい。その中心にはクリストファー・ベイリーというブランドの「顔」がいて、彼を中心にバーバリーのファンがコミュニティを形成していった。こうしてバーバリーは、オンライン空間に確固たるブランドイメージをつくり上げたのである。

まとめると、宣伝よりも体験の訴求、ファン目線での情報発信、売らない場の創出といったキーワードが挙げられるだろう。これはオンライン空間に限らず、実店舗の運営にも応用できることは最後に付け足しておきたい。
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