TECHNOLOGY

「スマートシティエキスポ2017」に見る、未来型都市の青写真 後編

2018.02.19 MON
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「スマートシティエキスポ2017」に見る、未来型都市の青写真 後編

2018.02.19 MON
「スマートシティエキスポ2017」に見る、未来型都市の青写真 後編
「スマートシティエキスポ2017」に見る、未来型都市の青写真 後編

多様化する社会にしなやかに対応していく力、“レジリエンス”をテーマに、未来に向けた街づくりのための取り組みや技術を発表した「スマートシティエキスポ2017」。後編では、人口増加や公害など都市が脅かされている諸問題にまつわるリポートをお届けする。

(読了時間:約6分)

Translation by Yuka Taniguchi
©2018 Stylus

レジリエンス促進に立ちはだかる数々の問題

「都市部は地球の表面積のわずか2%を占めるに過ぎないのに、そこに全人口の50%が居住し、エネルギーの80%を消費しています。そして、二酸化炭素排出量の少なくとも75%は都市によるものです」─そう語るのは、「Microsoft」社都市ソリューション担当、キャサリン・ウィルソン氏だ。

人口増加、気候変化、所得格差、公害などの問題に、都市は常に脅かされている。「スマートシティエキスポ2017」のテーマでもある、多様化する社会にしなやかに対応していく力“レジリエンス”(resilience)を促進するには、エネルギー自給の実現に向けた長期的な計画を立て、グローバルな都市間ネットワークに参加することが重要である。
2050年までに世界の70%の人々が都市部に住むと予想されている ©Xavier Amau
2050年までに世界の70%の人々が都市部に住むと予想されている ©Xavier Amau
都市への人口集中がますます加速しているなかで、2050年までには世界の人口の70%が都市部に住むことになると予想されている(2017年PBL)。この急激な流れは、交通のインフラストラクチャーと公共サービスに極端な負荷をかけ、多くの地域では産業化を経ることなく都市化することを意味している。

世界の都市の3分の2は沿岸部に位置しているため、その多くは気候変動がもたらす海面上昇による存在の危機に瀕している。海面が上昇することにより、次の20年間で最大10億人の人々が移住を余儀なくされることになるといわれている。ブラジルのシンクタンク「Igarapé Institute」の共同設立者、ロバート・ムガ氏によれば、上海のような巨大都市では既にこれは現実の危機となっているという。
次の20年間に最大10億人の人々が移住を余儀なくされることが予想されている ©iStock
次の20年間に最大10億人の人々が移住を余儀なくされることが予想されている ©iStock
持続可能な都市を作るための最初のステップは、計画の立案とその実行である。「これこそが最も楽で賢いソリューションなのです。ごく当たり前のことに聞こえるかもしれませんが、日常的な問題を解決するのに奔走しているために、実際にこれができている都市がほとんどないことには驚かされます。最も上手く機能している都市では、行政のさまざまなレベルで長期的な計画を設定しているものです」と、ムガ氏は聴衆に語った。基本的なビジョン、大胆な目標設定、それを実現するための明確な計画が成功のカギである。

世界的なアクションである「脱炭素社会」のリーダーとなっている都市では、混雑課金制度への投資、二酸化炭素排出量削減目標の達成、持続可能な建築素材の使用などを実施している。またこうした都市では、風力や太陽光などエネルギーソリューションへの投資も行っており、世界300の都市で既に再生可能エネルギーによる完全なエネルギー自給が達成されている。

国連で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」は、2030年までに気候変動の問題を解決し、飢餓を食い止め、貧困に終止符を打つための世界規模の目標である。
持続可能な都市へのソリューションを共有するプラットフォーム「Smart City Sweden」
持続可能な都市へのソリューションを共有するプラットフォーム「Smart City Sweden」
これを達成するための取り組みにおいて、最も先を行っていると評価されているのがスウェーデンだ。2017年5月に立ち上げられた「Smart City Sweden」は、持続可能な都市を実現するためにスウェーデンが行っているソリューションを他国と共有する、輸出と投資のプラットフォームである。大気のクオリティ、リサイクル、バイオエネルギー、廃棄物利用エネルギー、交通機関などが重点分野となっている。

限りある資源を有効活用するために、都市の経済は直線型から循環型へとシフトしてきている。リデュース(ごみの発生抑制)、リユース(再使用)、リサイクル(ごみの再生利用)の「3R」を実施して廃棄物の削減と公害の抑制を促進する運動のパイオニアであるアムステルダムは、2030年までに完全な循環型社会となることを目指している。
アムステルダムにおける資源の再利用への取り組みの一つ「Wasted」 ©Wasted Lab
アムステルダムにおける資源の再利用への取り組みの一つ「Wasted」 ©Wasted Lab
アムステルダムでは資源の再利用を戦略的に行うことにより、毎年新たに2,000件の雇用を創出し、建設業の付加価値を8500万ユーロ高めることが期待されている。こうした取り組みの一つである「Wasted」は、プラスチックごみを収集した市民に、商店やカフェでディスカウントを受けられるコインをリワードとして配布するもの。こうして集められた資源ごみは、3Dプリンターで作る街頭設置物の素材として使われている。

「循環型経済を実現するには、都市が持っている既存の手段を活用していかなければならない。その中でも最もパワフルなのは、市民とコミュニティである」。アムステルダム市のサーキュラーイノベーションオフィサー、スラジャナ・ミヤトヴィッチ氏はそう語る。

高齢者・障害者のための包摂的な環境づくり

技術を活用して、障害を抱える人々や、世界中で急速に増えている高齢者を含めたあらゆる人に開かれている、包摂的な参加型の都市を作ることを、第一の優先事項とするべきである。

2050年までには世界の人口の22%が60歳以上となると予測されている(2017年世界保健機関)。南アメリカで最も急激な高齢化が進んでいるチリのバルディビア市は、地元団体と協力して、高齢者が参加できる都市デザインに取り組んでいる。チリでは今後、管理人常駐マンションや改修済みの老人ホームの提供、誰もが移動しやすい道路交通網の実現に向けた「Gerontological Hub」という取り組みを、全国の都市で展開していく予定だ。
2050年までには世界の人口の22%が60歳以上になると予想されている ©Lara Belove
2050年までには世界の人口の22%が60歳以上になると予想されている ©Lara Belove
都市のリーダーやプランナーは、障害を持った人々でも問題なく学校に通い、都市の中を移動し、またオンラインの公共サービスを利用できるようにしていかなければならない。アメリカの教育機関「The New School」のシニアバイスプレジデント、マヤ・ワイリー氏は「包摂性を向上させるにあたって、決定的な役割を担っているのは技術です。例えば、我々は連邦政府機関と共同で、視覚・聴覚障害のある人々が政府のウェブサイトとインタラクションできるようにするためのツールを開発しました」と述べた。

2017年5月に発表されたMicrosoftの「Smart Cities for All Toolkit」は、デジタル上の垣根をなくすことで、都市の包摂性を向上させるのに必要なリソースを、都市のリーダーやプランナーに提供する。このツールキットは、高齢者や障害のある人々にとって情報やコミュニケーションテクノロジー(ICT)にアクセスしやすいかという観点から、その改善状況を見極め、改善策を提案するものだ。
世界の25億人が社会の枠組みから取り残され、その半数が何らかの障害を抱えている ©Rich Legg
世界の25億人が社会の枠組みから取り残され、その半数が何らかの障害を抱えている ©Rich Legg
「世界全体で25億人が、既存の社会の枠組みから取り残されています。そして、この約半数が何らかの障害を抱えています。我々はこうした障害のある人々のコミュニティにしっかりと向き合っていかなくてはなりません」。「MasterCard」副社長のハニー・ファム氏はそう述べた。

記事トップの写真: 世界300都市で既に再生可能エネルギーを活用した完全なエネルギー自治が達成されている ©4X-image

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