JOURNEY

ワークライフ革命──働き方の未来を考える

2018.02.07 WED
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ワークライフ革命──働き方の未来を考える

2018.02.07 WED
ワークライフ革命──働き方の未来を考える
ワークライフ革命──働き方の未来を考える

AIをはじめとしたイノベーションによって、伝統的な職業がテクノロジーに取って代わられ、これまでにはない新しい働き方が生まれはじめている。未来の働き方や教育は、どう変わるのか? 最新事例をリポートする。

(読了時間:約6分)

©2018 Stylus, Xavier Arnau

企業のあり方の変容

私たちは、テクノロジーの発展によって、より柔軟に仕事と向き合うことが可能になりつつある時代を迎えている。労働にまつわるサービスや環境というものを、ゼロから再考する時がきたのだ。

周知の通り、従来の会社のあり方は変容しつつある。分散型の自律組織、つまり、ブロックチェーン技術を取り入れたまったく新しいタイプの企業においては、仕事を人や役割ごとに分けられるのではなく、個人の能力の価値や個人との契約といった観点でプロジェクト化されている。こうしたビジネスは、コントロールをつかさどる「中央」の権限を必要としないため、SNSでトークグループを作るのと同じくらい迅速に形成されていく。
Adobe社が2016年に行った調査では、アメリカの労働人口の3分の1が副業を持っている©Alija
Adobe社が2016年に行った調査では、アメリカの労働人口の3分の1が副業を持っている©Alija
このような変化を牽引している企業のひとつが、ロンドンのスタートアップ「Colony」だ。同社が昨年2月にローンチした脱中央集権型のオープンプラットフォームは、イーサリアム(注1)によるブロックチェーン技術を用いており、誰もが自由に仕事を供給したり受注したりできる場所だ。仕事を完了すると報酬として、パフォーマンスに応じた独自のトークン(注2)が付与される仕組みだ。

同じくロンドンを拠点に活動するフューチャリスト、ロヒト・タルワール氏によれば、現代の子どもたちは生涯にわたり、10の業界において40もの異なる職種を経験するようになるらしい。未来においては、誰もが複数の契約や仕事を同時に行うことができる「ポートフォリオ雇用モデル」が標準となるだろう。すでにこの兆候はあらわれつつある。Adobe社が2016年に行った調査では、アメリカの労働人口の3分の1が副業を持っており、インドでは労働者の58%、イギリスでは23%が、メインの仕事以外にサイドビジネスをしているという。

オンデマンド労働者の増加と、彼らへの新たなサービス

このように、不安定な社会的状況に消費者が適応するにつれ、彼らはよりスタートアップ的で柔軟に携わることができる仕事を優先するようになる。2017年、アメリカを拠点とする不動産サービス会社「JLL」は、12カ国にわたって7,000人以上の労働者を対象に調査を行った。ここで明らかになったのは、調査対象者の46%が、起業家的な働き方やスタートアップ的な企業文化を求めているということだった。

アメリカでは、空いた時間に自らの労働力を提供し、インターネットを通じて単発で仕事を請け負うオンデマンド労働者の数が2016年の390万人から、2021年には920万人に増加すると予想されている。これは現在、金融(840万人)または建設(680万人)業界で働く人々よりも多い数字となっている(Intuit / Emergent Research、2017年 )。

こうした状況からも、急増するフリーランサーのための経理業務を担う金融サービスにビジネスチャンスが到来したといえるだろう。なぜならば、フリーランサーとして働く人々は、年間24.6日もの時間を煩雑な事務仕事に割いているという調査もあるからだ。
イギリスのフリーランサー用の銀行口座である「Coconut」©getcoconut.com
イギリスのフリーランサー用の銀行口座である「Coconut」©getcoconut.com
現在はまだベータ版の段階だが、イギリスのスタートアップ「Coconut」は、フリーランサー用銀行口座のサービスを開始。例えば、税金を算定したりビジネス経費を管理したり、予定通りに報酬が支払われているか容易に確認できるよう、契約先の企業から振り込みがあると瞬時にスマートフォンに通知するなど、経理に関わるさまざまなサポートを提供している。

また、アイルランドのスタートアップ「Trezeo」は、収入が一定でないフリーランサーを対象としたサービスを開発した。このサービスでは、収入は一度「Trezeo」に入り、それまでの平均月収に基づいて算出された金額が、毎月定額で銀行口座に振り込まれる仕組みとなっている。本サービスは、昨年末から自営業の運転手を対象に、すでに提供が開始されている。
「Trezeo」は、フリーランサーに毎月定額を銀行口座に振り込むサービスを開発©trezeo.com
「Trezeo」は、フリーランサーに毎月定額を銀行口座に振り込むサービスを開発©trezeo.com
イギリスとアメリカを拠点に、イノベーションに関するリサーチや企業へのコンサルティングを行う「Stylus」。そのリテール部門を統括するケイティ・バロン氏は、次のように語っている。

「企業が今後生き残っていくためには、先行きが不透明な現代の生活、例えば他国への移住やフリーランスへの転向、家族のあり方の変化といった過渡期に対応できる、柔軟なモデュラー形式のメンバーシップやサービスを提供することが鍵となる」

このように柔軟性が求められる時代において、労働環境は、9時から5時という定時の時代は終焉を迎えつつあるのかもしれない。国境を超えたビジネスや複数の仕事をかけもちする人々の増加に伴い、夜間労働に対応するサービスやプロダクトの開発が求められている。イギリスでは2016年までの5年間で、夜間労働者の数が9%増加し、310万人を記録している。

新しい仕事のリズムをサポートせよ

そんな中、新しい仕事のリズムを支援するための一泊用オフィスが出現している。インドのニューデリーにあるコワーキング・スペース「NQube」では、夜間に利用できるプラン(午後10時から翌朝8時までの利用)を提供している。また、フィリピンの「Diligence Café」では、仮眠をとりたい利用者のためにウェイクアップコールなどのサービスが含まれた深夜コースを用意している。
フィリピンの「Diligence Café」では深夜に利用できるコースを提供している
フィリピンの「Diligence Café」では深夜に利用できるコースを提供している
2016年9月、マットレスを製造するアメリカのスタートアップ「Casper」は、「寝付けない夜が今より少し寂しくならないように」という目的のもと、ユーザーと会話するチャットボット「Insomnobot3000」をリリースした。これは新しいリズムで働く労働者の心を癒すサービスとなるかもしれない。
Casperのチャットボット「Insomnobot3000」©insomnobot3000.com
Casperのチャットボット「Insomnobot3000」©insomnobot3000.com
このように働き方が多様化し、消費者たちがワークライフ“バランス”よりもワークライフ“ブレンディング”を追求するようになったことで、仕事は家庭生活の“延長”になりつつあるのだ。働く母親たちのマニフェスト『The Fifth Trimester』(2017年刊)の著者、ローレン・スミス・ブロディ氏は、こう語る。

「私自身、ワークライフバランスという言葉自体、もう使わない。なぜなら、良い仕事があってこそ良い人生が成り立つのだから。仕事と生活は、対立するものではないのです」
ベビーシッターサービスを提供している NYのコワーキングスペース©workaround.nyc
ベビーシッターサービスを提供している NYのコワーキングスペース©workaround.nyc
これを象徴するのが、“ヴィレッジスタイル”のコワーキングスペースだ。ニューヨークの「The Workaround」は、メンバー向けにベビーシッターサービスを提供している。また、シンガポールの「Trehaus」では、子どもと親が触れ合うことのできる共有スペースが設けられている。
子どもと触れ合えるスペースが設けられているコワーキングスペース©trehauscowork.com
子どもと触れ合えるスペースが設けられているコワーキングスペース©trehauscowork.com
大都会での生活が進化すると同時に、家庭生活と仕事を融合させやすくするための、郊外のコワーキングスペースも出現しはじめている。アメリカはシカゴの郊外に2015年にオープンした「25N」は、昨年1月、イリノイ州のアーリントンハイツにも2店舗目を開設。アメリカでは、18歳から34歳までの住宅購入者の約半数(47%)が郊外に住んでおり、企業が成長するためには、都市部だけでなく郊外にも目を向ける必要があることを裏づけている。
郊外を中心に展開するコワーキングスペース「25N」©25ncoworking.com
郊外を中心に展開するコワーキングスペース「25N」©25ncoworking.com
アメリカのファイナンシャル・プランニング会社「Edelman Financial Services」の創業者、リック・エーデルマン氏は働き方が多様化した時代の人生のあり方について、次のように語っている。

「教育、就労、余暇と人生の各ステージが一方向的かつリニアに形成されるライフスタイルはもうすでに時代遅れだ。これからは循環型が主流となるだろう。つまり、生きている限り、学び、仕事、レジャーのサイクルを何度も循環して繰り返すライフスタイルが今後の典型となるのだ」

注1)分散型アプリケーションやスマートコントラクトを実現するためのプラットフォーム
注2)ブロックチェーン技術を用いた仮想通貨の一種

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