2030年を見据えた共有型都市
国連の予測によると、2050年までに世界の人口の3分の2が都市に居住することになる。都市化によって個人の空間はぜいたくなものとなり、多目的な共有空間、共同住宅、そして共有コミュニティへの需要が急増していくと予測される。
・次世代型共同住宅
ニューヨークに拠点を置くデザインスタジオ「Anton & Irene」のユーザーエクスペリエンス・ディレクター、エレーヌ・ペレイラ氏は、2030年には、「現在の暮らしのスタイルを根本から考え直す必要に迫られることでしょう。資源が十分ではなくなるので、誰もが自分たちだけのマンションやバスルームを持つことは難しくなります」という。

ペレイラ氏によると、2030年において、人々が住むのに十分な場所を確保するためには、今後6カ月ごとにニューヨークと同等の規模の都市を建設していかなければならない。また、他人と一緒に暮らすというライフスタイルのトレンドは今後も加速し、人といて心地よく感じる距離感もまた変化し続けるだろうということだ。すでに若い世代の住意識は変ってきているようで、例えば、一番くつろげる空間は自宅だと答えたのは、世界の18歳から29歳の人口のわずか37%だった(2016年IKEA調べ)。
さらにペレイラ氏は、「家賃が低い場合にはベッドルームさえシェアしても構わないとする人が増えている」という、ニューヨークに拠点を置く共同生活ネットワーク、「Outpost Club」の調査結果を引用して、「シェアリングが新しい共同生活の形になるでしょう」と述べた。
シェアハウスの事業を手がけるインドの「StayAbode」や中国の「You+」では、既にドミトリースタイルの部屋の提供を開始している。
さらにペレイラ氏は、「家賃が低い場合にはベッドルームさえシェアしても構わないとする人が増えている」という、ニューヨークに拠点を置く共同生活ネットワーク、「Outpost Club」の調査結果を引用して、「シェアリングが新しい共同生活の形になるでしょう」と述べた。
シェアハウスの事業を手がけるインドの「StayAbode」や中国の「You+」では、既にドミトリースタイルの部屋の提供を開始している。
・フレキシブルな未来
ロンドンに拠点を置くデザインハウス「FranklinTill」の共同創業者であるキャロライン・ティル氏は、フレキシブルな生活の実現の最前線にいるのは、デザイナーや建築家であることを強調した。
多世代が一緒に暮らす住宅へのニーズに応えた住宅の改修などを行う日本の鬼頭知巳建築設計事務所もその一翼を担っている。2016年のONS(英国統計局)の調べによると、15歳から24歳のイギリスの若者の39%が親と同居している。鬼頭知巳建築設計事務所では、個人の空間と、アクセシビリティが高く交流の場となる共有スペースを組み合わせた「4世代の家」を手がけた。
・住居と共有資源
イギリスの自動車ブランド「Mini」と、ロンドンに拠点を置く建築デザイン事務所「Sam Jacob Studio」がコラボレーションして作り上げたのが、極小の家、「Urban Cabin」だ。15㎡のキャビンは、住居が共有資源となる未来を視野に入れてデザインされている。キャビン内部にはマイクロ・ライブラリーが設置され、訪れた人がお互いから学び、情報などを交換し合うことができるようになっている。

未来における働き方の変化に備え、自己改革を促すテクノロジー
「9時5時のフルタイム勤務」という概念が崩壊し、自動化の波が押し寄せたことによって、私達の労働の在り方は、これまで誰も足を踏み入れたことのない新しい領域に突入しつつある。ロンドン有数の美大であるRCA(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート)とImperial College Londonのイノベーション・デザイン・エンジニアリング学科修士課程の卒業生たちは、「リモートワーク」と「根本的なスキルアップ」という2つの要素を踏まえた、未来の作業空間を実現する革新的なアイデアの数々を発表した。企業が生き残っていくには、労働の在り方を様変わりさせるこうした流れに対する準備を今から進めておく必要がある。
・没入型コラボレーション
マヤ・ピンディアス氏の「Reach」は、ヴァーチャル・リアリティ(VR)とビデオ会議システムを組み合わせ、遠隔による物理的なやりとりを可能にするというコンセプトから生まれた作品だ。クラウド上のコラボレーションとリアルタイム3Dキャプチャ技術に基づいた、双方向性のインタラクションにより、ユーザーはリアルタイムで物体の3D モデルのプロトタイプをどんどん変えていくことができる。

このプロトタイプは、3Dプロジェクションマッピングによって遠隔で映像投影される。コラボレーションを行う人は、アノテーション、ドローイング、素材のプレビューなどを駆使して、物体を編集することができる。
・リアルタイム・ガイダンス
ダルジンダー・サンゲーラー氏が手がけるヘッドセット「Sensei(センセイ)」は、テクニカルサポートを必要としているユーザーと、人間のエキスパートや人工知能(AI)の命令アルゴリズムとをつなげるもの。このヘッドセットによって、遠隔地にいるエキスパートが、ユーザーの映像を共有したり、ユーザーの目の前にある物体に画像を投影したり、ユーザーと会話することが可能になる。

このデバイスは、ユーザーがタスクをやり遂げるためのサポートのみならず、リモート・ラーニングやトレーニングに利用することもできるし、機材の修理やソフトウェアのトラブルシューティングにも役立つ。
• 習慣性を促すテクノロジー
台湾人デザイナー、チウ・ジェンシェン氏は、ユーザーの行動を習慣化させる無線LANでバイス「Phabit」を出展した。これは、付属アプリでユーザーの習慣的な行動に関するデータを集め、それに基づいて、小さな密閉空間の人工生態系(バイオスフィア)にある植物に水をやり、光を照射するというもの。ユーザーが習慣を守らないと、植物は枯れてしまうことになる。

長期的かつ個人的な自己改革の取り組みをサポートするサービスに対するニーズが増加している今、「Phabit」のようにユーザーの努力を後押ししてくれるデバイスの重要性はますます高まっていくだろう。
エコ・ウェルネスの前進
欧州環境機関は、「アーバン・ストレス」を現代人が直面している主要な問題の一つとして捉え、悪化の一途をたどる大気汚染と騒音が、ウェルビーイングにとって大きな脅威となっていることを強調している。教育的なインスタレーション作品から心安らぐ社交スペースまで、今年のLDFでは、デザイナーたちによる多種多様な解決策が提示された。
• 大気汚染と戦う
都市生活者にとって、大気汚染は重要な懸念事項となっている。イギリスでは、大気汚染に関するインターネットの検索数がこの10年で750%増加した(2016年日産自動車調べ)。また中国の消費者の55%は、公害による健康被害からいかにして身を守ることができるかに関心を持っている(2016年Mintel調べ)。

そんな傾向を受けて、公害から健康を守る手段に対するニーズの高まりを反映したプロジェクトが多数見られた。インスタレーション作品の「The Breathing Space」では、ロンドンの大気汚染に関するリアルタイムの情報を、汚染レベルが変動すると色が変わるLEDで視覚化して来訪者に伝えた。

同様のテーマを追ったアーティスト、カシア・モルガ氏は、大気汚染の程度によって色が変化する光るコスチュームを作った。大気中に浮遊する微小な粒子であるエアロゾルの探知機を、GPSウォッチとコンピューターにつないで、集めた街路の公害データを衣装に埋め込まれたLEDで表示するというものである。
• ポスト物質主義時代の消費者体験
Central Saint Martins(ロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズ校)の卒業生、マルティナ・ロッカ氏のプロジェクト「Emovos」は、「人々がブランドに求めるものは物理的なものから感情的な体験に変化していく」という予測に基づいている。このプロジェクトでは、ユーザーはVRヘッドセットを装着し、いくつかの動くオブジェクトとインタラクションすることができる。
VRの世界でものを動かす体験は、ユーザーに感情的な反応を引き起こす。資源の枯渇が問題になっていくにつれて、ブランドは、素材を使わずに消費の感覚を再現するような、商業的な体験を生み出す方法を考え出さなくてはならなくなるだろう。
• 心を回復させる場所の創造
ロンドンに拠点を置くデザイン研究所「Loop.pH」のレイチェル・ウィングフィールド氏は、都市生活者のウェルビーイングを高めるためにデザインされた、一連のプロジェクトを発表。その一つである「The Horticultural Spa」は、空気で膨らませて使うドームにアロマの香りのする霧を充満させ、皮膚から薬効成分を吸収することができる「新しい穏やかな社交スペース」だ。

同作品についてウィングフィールド氏は、「霧を治療として使うことを考えました」と述べた。ウェルビーイングを増幅するような社交スペースへの需要の増加を受けて、「心を回復させる場所の創造」を掲げるウィングフィールド氏のブランドは躍進を遂げている。
ライフスタイルの実験の場としてのミラノ・デザイン・ウィーク