VISIONARY

EXPERIENCE

バーバリー復活の最大の功労者は、
いかにブランドイメージを刷新したのか?

2017.12.20 WED
バーバリー復活の最大の功労者は、いかにブランドイメージを刷新したのか?

英国のラグジュアリーブランド「バーバリー」。かつて、トレンチコートの老舗というイメージが強く、モードに敏感な若者たちからの関心を失い始めていたブランドを見事に立て直した人物がいる。バーバリー元CCO 、クリストファー・ベイリーの功績を振り返る。

(読了時間:約6分)

Text by Yuya Oyamada
Photograph by David M. Benett / getty images

SHARE

この記事をシェアする

こちらの記事は音声でもお楽しみいただけます。

COLLABORATED WITH

デジタル空間における高級品のブランディングという困難なミッション

先日、バーバリーのデザイナーにしてチーフ・クリエイティブ・オフィサー(CCO)の、クリストファー・ベイリーの退任が発表された。

トム・フォード時代のグッチで経験を積み、2001年からバーバリーのデザイナーを務めていたベイリーは、21世紀のファッション業界を語るうえで欠かせない人物。「トレンチコートの老舗」というイメージが強く、おしゃれに敏感な若者たちからの関心を失い始めていたバーバリーを、ベイリーは在籍中の17年間で見事に蘇らせた。

そんなファッション業界のカリスマといえる人物を、ビジネスをテーマにした当欄で取り上げる意義は何か?

実はベイリーというデザイナーは、「デジタル空間における高級品のブランディング」という困難なミッションを実現した人物としても知られている。というのも、ほんの7、8年前まで、世界中の高級ブランドはネット進出に懐疑的だった。

統一された世界観の中で、ブランドの商品をPRしていく雑誌のようなパッケージ媒体と違い、いつ、誰が、どんな文脈で自社の情報を目にするのかわからないオンライン空間では、高級ブランドが大切にするイメージを守ることはできないのではないかと思われていたからだ。

もちろん、バーバリー以前にも、他の高級ブランドが過去に何度かチャレンジを行っている。世界最大の高級ブランドのコングロマリットであるLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)は、「eLuxury」という自社運営のウェブサイトを2009年まで開設していた。

オンライン空間ではブランドイメージのコントロールが難しいのならば、自社で「VOGUE」のようなファッションメディアをウェブ上に作り、そこに高級品のネット通販を組み合わせようという意欲的な取り組みだった。

しかし、この挑戦は失敗に終わった。LVMHの世界観にふさわしい写真や記事を充実させるために莫大な費用をかけたものの、それに見合うだけの売り上げをあげられなかったのだ。

やはり、高級ブランドはオンライン空間に合わないのではないか――。そんな声がささやかれていた頃、バーバリーは他の高級ブランドに先んじてオンラインへの進出に成功する。

その戦略をひと言でいえば、「クローズドからオープンへ」とまとめられるだろう。

ネット通販と高級品は相性が悪いと思われていたのは、業界最大手のLVMHの挑戦が失敗に終わったことだけが理由ではない。そもそも、ネット通販の最大の利点は、誰でも手軽にほしいものが手に入るところにある。

しかし一方で、ネット通販はあまりにも手軽すぎるために、デパートで高級品を購入した際に受ける丁寧な接客のような「特別感」が失われてしまう恐れもある。ネットの手軽さと、特別感の演出をどう両立させるのか。ここが世界中の高級ブランドが答えを出せずにいたポイントだった。

クリストファー・ベイリーが採用した大胆な戦略

そこでクリストファー・ベイリーは、当時CEOだったアンジェラ・アーレンツとタッグを組み、かなり大胆な戦略を採用した。

①店舗よりネット注文が早く届く体制を確立

ファッションショーでのお披露目と同時に、自社サイトでの購入を可能とすることで、最短で7週間後にはバーバリーの新商品を手に入れることが可能になった。

一般的にファッションショーは、商品が店頭に並ぶ半年前に行われるため、ネット注文なら7週間後に手元に届くという対応は、かなり特別感を与えられる試みだった。

②SNSでの積極的な情報発信

バーバリーは2009年からファッションショーのライブ配信を行っている。今では当たり前のサービスだが、当時はかなり珍しかった。なぜなら、ファッションショーとは「ブランドに招待された人だけが観賞できる特権的な空間」であり、だからこそ各地のコレクションは世界中のファッショニスタのあこがれであり続けていたのだ。

バーバリーは、そんなクローズドな空間をオンラインに開放し、SNSで自ら積極的に拡散した。それは結果的にブランドイメージを毀損するどころか、SNSを使いこなす若い世代を中心に、バーバリーの知名度を大きく向上させることにつながった。

③ターゲットを「デジタル好きの若者」に変更

すでに述べたように、ベイリーが就任した頃のバーバリーは、若者をターゲットにしたブランドではなかった。かといって、中高年の富裕層は、他のブランドがすでにガッチリつかんでしまっていた。どんな層に向けて商品を作っていいのかわからなくなってしまっていたところに、バーバリー苦境の原因があった。

そこでベイリーは、「1990年以降に生まれた世代に向けたブランド」とバーバリーを再定義した。この世代は別名「デジタルネイティブ」とも呼ばれている。思春期からデジタルデバイスに慣れ親しみ、アップルやグーグルにあこがれる世代である。ここが高級品市場の「空き地」だった。

しかし、デジタルネイティブ世代は「シェア」や「フリーミアム」といったネット発の価値観に親近感を覚える世代でもあり、高級ブランドに付きものだった「近寄りがたさ」を何よりも嫌う。そこでバーバリーは、②のようなSNSでの情報発信を積極的に行うことにしたのだ。

ファッション業界以外の企業からも参考にされているクリストファー・ベイリーの成功譚

バーバリーのこうした方針転換は当初、驚きを持って受け止められた。単に目新しさで話題になっているだけで、長期的にはブランド価値を損なうと言う者。高級品市場における革命だと言う者。その反応はさまざまだった。

しかし、今のファッション業界を見れば、クリストファー・ベイリーはその賭けに勝ったといえるのではないだろうか。今やどのブランドもSNSで情報発信をしているし、自社サイトでのネット通販もしている。

ファッションショー終了と同時に購入できる仕組みも後に多くのブランドが採用し、2016年末には「SEE NOW, BUY NOW(すぐ見て、すぐ買う)」というトレンドを生み出した。

現時点から振り返ると、ベイリーが実現したことは、あまりにも当たり前のように感じられるかもしれない。しかし忘れてはならないのは、バーバリー以前には、SNSでの情報発信さえも、高級ブランドの価値を損なうのではないかと真剣に議論されていたのである。

ベイリーは長らく高級ブランドに欠かせないといわれていた「クローズド」なイメージ戦略に疑問符を突きつけ、「オープン」な戦略を採用することで、自身のブランドを大きく成長させた。

そして、今やその成功譚はファッション業界以外の企業からも参考にされている。

代表的なのはアップルだろう。同社はアップルウォッチでウェアラブル端末の市場を切り拓き、高級腕時計のブランドに真っ向から勝負を挑んでいるが、そのプロジェクトを統括しているのは、ベイリーとともにバーバリーの改革を推進したアンジェラ・アーレンツだ。

彼女は2014年に、なんと100億円近い年俸でバーバリーからアップルに引き抜かれ、現在はリテール部門の統括責任者を務めている。世界的なIT企業からも、バーバリーのCEOといえば、ファッションとテクノロジーの両方に精通した人物であり、その知見は今後ますます重要になってくると評価されているのだ。

今やアマゾンすらも自社でファッションブランドを展開しており、「オンライン空間でのブランドイメージの構築」というテーマは、さまざまな企業の関心を集めている。だからこそバーバリーの改革に関するストーリーは、他業種でも活用できる事例だと思い、クリストファー・ベイリーの退任を機に今回紹介した。

では具体的にベイリーたちのバーバリーが、どんな工夫のもとに新たなブランドイメージを確立していったのか。文字数が長くなってしまったので、その要点は次回あらためて紹介したい。
記事一覧へ

SHARE

この記事をシェアする

FOLLOW US

公式アカウントはこちら

BACKNUMBER 教科書に載っていないビジネス論

    RELATED

    この記事を読んでいる人におすすめ

    POPULAR

    RECOMMENDED