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アドビイベントに垣間見た
AI時代のクリエイティブ作業

2017.12.08 FRI
アドビイベントに垣間見たAI時代のクリエイティブ作業

自動車や家電製品をはじめ、さまざまな分野でAI(人工知能)のテクノロジーが重要な役割を果たすようになった昨今。クリエイティブの分野でも同様である。今回は、アドビ社によるAIを用いた最新サービスから、クリエイティブの世界におけるAIの可能性を考える。

(読了時間:約6分)

Text by Nobuyuki Hayashi
Photograph by Takayuki Fukatsu

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AIテクノロジーを取り入れた画像加工プログラム「Adobe Sensei」

1990年、アドビ社がPhotoshopというソフトを発売して以降、写真の世界は変わっていった。それまでには考えられなかった魔法のような加工写真を次々とつくれるようになったのだ。その後、同様の革命は映像の世界でも起こった。

こうした画像制作/映像制作クリエイター向けのツールを出し続けているアドビ社だが、昨年、これまで蓄積した画像加工/映像加工の技術に、AI技術の「Adobe Sensei」という名前をつけてブランディングを始めた。AIと言ってもSFに出てくるような人格を持ったものではなく、クリエイターの意図を読み取ってその通りに画像加工をしてくれるプログラムの集合というのが実態だが、広義ではAIに含んでもいいだろう。

今年10月、ラスベガスで開催されたクリエイティビティに関する世界最大規模のカンファレンス「Adobe MAX」で、このAdobe Senseiがこれからどんなことを可能にするのかが披露された。

度肝を抜かれたのはProject Puppetronという技術だ。自分の顔写真をプログラムに取り込み、もう1枚、油絵を開くと瞬時に自分の顔写真が油絵風に。水彩画だと水彩画風に、ピカソならピカソ風、漫画絵を取り込むとその漫画のタッチで顔が描き直される。アフリカのお面を取り込めば自分の顔がお面になってしまうし、銅像を取り込めば銅像の顔が自分の顔になる。ただ自分の顔の色やテクスチャーを変えているだけではなく本当にそのタッチで描き直してくれるのだ。

もはや、この程度の作業であればわざわざ人間がやらないでも、AIに任せられる時代が、すぐそこまで来ているのだ。

AIがクリエイターと協業してポスターを制作

さらにすごかったのは、基調講演で紹介されたAdobe Senseiで遠からず現実となる未来の作業手順だ。

雑に手描きされたラフスケッチが10分足らずで本格的なSF映画のポスターに生まれ変わる様子が紹介された。

最初の制作者が手描きしたラフスケッチは線画の星などの手前に女性っぽい人物像、その下にロケットということがかろうじて分かる雑な絵だったが、Adobe Senseiがこれら3要素をすぐに特定し絵の特徴として列挙。音声入力で「この絵に使える写真素材を用意して」と命令すると既に4000万以上の写真が登録されているアドビ社のストック写真サービスにある宇宙の写真が表示された。

明るい写真や色使いの多い写真が多かったが、色味などを左右に動かせるスライダー(またはスライダーバー)を使って指定すると、その通りの写真だけが絞り込まれ表示される(これは、写真登録時にその特徴をAIが数値化しているからこそ実現可能な画像の“印象検索”)。

続いて、あらかじめスタジオで撮影した数十枚の女優の写真をその上に仮置きする。左向きの写真を置いたが、顔の向きが気に入らない。だが、心配はいらない。Adobe Senseiが撮りためた女優の写真をすべて、顔の向きを左から右になるように整理してくれるからだ。他にも「上下」「笑顔」「目」などの基準に沿って画像を整理してくれる。

画面のスライダーを左右に動かすと、背景はそのままに仮置きされた女優の写真が顔の大きさや中心を揃えた状態で切り替わるので、スライダーを何度か左右に動かしていい感じの1枚を選ぶことができる。使う写真が確定したら、ボタン一発で髪の毛などを丁寧に残しながらスタジオ撮影の背景だけをきれいに消して宇宙の写真と合成してくれる。

こうやってみるみるうちに本格的なポスターが完成するのだが、その先がさらに驚いた。実はAdobe Senseiはクリエイターがどんな手順で作業をしたかをすべて記録していて、後から戻りたい手順まで作業を巻き戻して簡単に代案がつくれるのだ。

基調講演のデモでは、作業履歴を女優の写真の選定のところまで巻き戻し「もし、女優の写真の代わりに男優の写真を使ったら」と、出演俳優の写真を挿入。すると先ほどきれいに仕上がった映画ポスターの人物の部分だけが男優の写真に入れ替わった。

AI全盛時代において必要とされる人材とは

上記のように、例えばこれまでスタジオ撮影した女優の写真を顔の向きなど何らかの条件に沿って整理するといった、機械にはできない手間がかかる単純作業は人間のアシスタントにさせていたことだろう。だが、Adobe Senseiによってアシスタントの単純作業が一つ減り、その分、クリエイター的には表現の試行錯誤のしやすさや自由度が向上している。

これを「アシスタントの仕事が奪われた」と見ることもできるだろうが、私はそうは思わない。AI全盛時代の最初のうちはアシスタントを含め人間の仕事は意思決定など、もっと責任が伴う内容中心にシフトアップしていくと期待したい。例えばAIを活用して試行錯誤を重ねることで、まったく別の案を実験してみるといった具合に、次世代のクリエイターは過去の成功例を活用した表現はどんどんAIに任せて、常に新しい表現の領域を開拓し続けなければならなくなるのかもしれない。

それで言えば最初に紹介した写真を他のタッチで描き直す作業も、クリエイターによっては楽しい作業という一面もあるかもしれないが、一方で時間のかかる労働としての側面も大きい。こうしたものはどんどんAIに任せて、その分、どんなタッチにするとより人の目を引くようになるかなどを検討することがクリエイターの仕事になっていくだろう。

そういう意味ではAI全盛時代においては、自ら意思決定を行う、いわば自発的な発想が重要になるのかもしれない。願わくは教育制度が、そうした方向にシフトしていってほしいものだ。
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