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インテリアとアートの境界線──
ステンドグラスを進化させるアーティスト

2017.11.27 MON
インテリアとアートの境界線──ステンドグラスを進化させるアーティスト

宗教画など西洋の古典的芸術様式とともに隆盛し、教会や古い洋館、アンティーク家具 くらいででしか見ることができなくなっていたステンドグラス。内装デザインやファッションの世界で、今また脚光を浴び始めているその背景には、ひとりのアーティストの存在があった。

(読了時間:約6分)

Text by Junya Hasegawa @ america
Photographs by Tatsunari Kawazu @ S-14

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モダンでアーティスティックなステンドグラス作品を手がける谷和レオ氏

自宅にステンドグラスを使った装飾や調度品があるという人は、決して多くないはずだ。良くも悪くもオールドファッションなイメージが、昨今の住宅にはマッチしにくいからだ。そのイメージを覆すような、モダンでアーティスティックな作品や内装装飾を手掛けるアーティストが、谷和レオ氏。アートスタジオ「St.Heavogon Studio」を主催し、ステンドグラスだけでなくグラフィックデザインやプロップ、インスタレーション作品のデザインなど幅広いクリエーションを行っている。
多彩な色使いが象徴的なステンドグラスだが、現在谷和氏が気に入っているのは意外にも無色のもの
多彩な色使いが象徴的なステンドグラスだが、現在谷和氏が気に入っているのは意外にも無色のもの
谷和氏は東京都出身だが、名古屋芸術大学を卒業。現代芸術家・村上隆氏の誘いで帰京し、東京・恵比寿にあったギャラリー「P-HOUSE」に参画。主にインスタレーションスタイルの発案や村上氏 への"ご意見番”的な役どころを担当していたという。

「村上さんはすでに有名な方でしたが、ストリートやファッション的な観点から、若者代表として意見を言わせてもらっていました(笑)。また新たな作品の見せ方や、せっかくギャラリーに来てくれても作品を購入できるわけではない多くの人のために、Tシャツを販売するといったアイデアを提供していたんです」
後方のHEAVOGONのサインは、アメリカで入手した古い列車の行き先案内用プレートを組み合わせたもの
後方のHEAVOGONのサインは、アメリカで入手した古い列車の行き先案内用プレートを組み合わせたもの
村上氏の代表作の一つとして知られる、大きな耳を持ったキャラクター。アトリエにはその “オリジナル”作品が額装されて飾られており、谷和氏と村上作品との密接な関係性を物語っている。
村上作品の“オリジナル”やマイク・ケリーの自作Tシャツなどの歴史的作品もさりげなく壁面を飾っている
村上作品の“オリジナル”やマイク・ケリーの自作Tシャツなどの歴史的作品もさりげなく壁面を飾っている

ステンドグラスとは“インテリアとアートの境界線”

「ステンドグラスって、一般的にはカルチャーセンターで習う趣味のようなもの。作家さんよりも、趣味の体験教室のほうが圧倒的に多いくらいです。ある時、スケートカルチャーやファッションとステンドグラスをリンクさせようとしていた作家さんとの協業をきっかけに、ステンドグラスの大きな可能性を感じることができました。工法やデザインなどに独特の制約はあるものの、逆にそれを活かした、もっと自由でモダンな表現ができると感じたんです」
SASQUATCHfabrix.のイベントのため制作された記念碑的作品はメキシカンスカルがモチーフ
SASQUATCHfabrix.のイベントのため制作された記念碑的作品はメキシカンスカルがモチーフ
そんな谷和氏によるステンドグラス作品が大きく世間を騒がせたのは、2008年。東京発のファッションブランドとして世界的に評価される、「SASQUATCHfabrix.」のために制作した作品だ。モチーフとして選んだのは、同ブランドのアイコンともなっているメキシカンスカル。伝統的クラフトマンシップと革新的なデザインやファッション性とを融合させることで、既存のステンドグラスのイメージを打ち破る新境地を切り拓くことに成功。谷和氏はたちまちファッション界や内装デザイン界で引く手あまたの存在となった。
カッティング作業中の谷和氏。すべての工程を自らの手作業で行うため、制作期間は自ずと長くなる
カッティング作業中の谷和氏。すべての工程を自らの手作業で行うため、制作期間は自ずと長くなる
「“インテリアとアートの境界線”というのが、ステンドグラスについての僕なりの解釈。「SASQUATCHfabrix.」向けの作品では、そのニュアンスはうまく表現できたと思っています。僕は作家ではなくてデザイナーだから、表現したい欲求前面に出さないようにしています。お客さん一人一人を喜ばせたい。個人のニーズに応えたいという気持ちがとても強いんです。洋服でいうところのオートクチュールですね。今はステンドグラスをメインにしていますが、僕にとってはグラフィックデザインの手段のひとつにすぎません」
「すべては独学」という谷和氏だが、工作機械はステンドグラス専用のものを使用する
「すべては独学」という谷和氏だが、工作機械はステンドグラス専用のものを使用する

ステンドグラスの魅力は、光をデザインできるということ

そんな谷和氏にとっての、ステンドグラスの魅力とは。改めて聞いてみた。

「僕にとってステンドグラスは、光を使って楽しむグラフィック。その最大の魅力は、光そのものをデザインできることなんです。自然光をふんだんに取り込める場所なら、季節や時間帯によって太陽という光源が変化し、ひとつのデザインで多彩な表情を演出することができる。だから、それらを予想してデザインします。あまり光が入らない場所でも、楽しみ方はたくさんあります。室内や店舗内にある照明を効果的に使えば、光る絵画やポスター、あるいは屋外に向けたサインに。光の屈折を利用したモザイクに仕立てることもできるんです。ステンドグラスは光との関係性で魅せるアートであり、同時にインテリアでもある。そんな不思議な立ち位置というのも、魅力のひとつかもしれませんね」

斬新でモダンな表現が魅力の谷和さんのステンドグラス作品だが、その目線はすでに、ステンドグラスのさらに先を見据えているようだ。
自宅スペースとアトリエを繋ぐガラス戸には、谷和氏自ら手掛けたサインペインティングが
自宅スペースとアトリエを繋ぐガラス戸には、谷和氏自ら手掛けたサインペインティングが
「僕らしい表現ってなんだろうって考えた結果、最近はあまり色のないグラスや、ヴィンテージのガラスを意識して使っています。そのほうが日本的な暮らしにしっくりくる。それと、花に興味がありますね。自分に創り出すことのできない花を、ガラスに閉じ込めてステンドグラスにすることにも挑戦しています。でも究極は、ガラスじゃなくてもいいんじゃないかとすら思っているんです。素材はベニヤ板でも紙でもいい。要は光をデザインしたいんです。僕は現代アートが好きで、建築や内装が好きだった。ステンドグラスという手法自体に魅せられたわけではないのが、僕の個性であり強みなのかもしれません」
東京・渋谷のTRUNK HOTELではラウンジスペースやチャペルのステンドグラスオブジェを制作
東京・渋谷のTRUNK HOTELではラウンジスペースやチャペルのステンドグラスオブジェを制作
かつてはファッション界にも従事していた谷和氏だが、湘南やバリ島で、サーフィンをしながら暮らしたことも。そこでは、“個人商店”が基本の地元のコミュニティが、仕事やプライベートを超えてお互いを助け合うというスタイルがしっくりきたのだという。数年前に訪れたポートランドでも、自宅とアトリエやショップを併設した職住近接のクリエイターたちに感銘を受け、自らの働き方を見直すきっかけとなった。
東京・渋谷にあるTHE REAL McCOY'S TOKYOのファサードデザインやショーウインドー
東京・渋谷にあるTHE REAL McCOY'S TOKYOのファサードデザインやショーウインドー
「以前は自宅とアトリエは別に構えていたんです。でも心地よい住宅地で、居住スペースとワークスペースを融合させたスモールビジネスを営む。そんなポートランド的なスタイルに憧れてしまって……。ようやく今年、世田谷区内で見つけた中古住宅を改装し、実現することができました。今はアトリエ機能のみですが、いつかは店舗としても稼働させたいと思って頑張っています。サーフィンというカルチャーがファッションとなったのは、カッコつけずに本気で取り組む、地元のヒーロー的な存在の人々がいたからこそ。本当にカッコイイものやムーブメントというのは、案外ローカルから生まれるものなんですよ」

自然豊かな住宅街で、オーダーメイドのステンドグラスに真摯に取り組む。あえて小規模にこだわり、大手企業には見えない小さな事象に目を凝らすという“地域密着型スモールビジネス”を実践するクリエイターが、新たなトレンドやライフスタイルの発信源となる日も決して遠くはなさそうだ。
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