ART / DESIGN

パリのエルメス本店の蝶ネクタイ

2017.11.17 FRI
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パリのエルメス本店の蝶ネクタイ

2017.11.17 FRI
パリのエルメス本店の蝶ネクタイ
パリのエルメス本店の蝶ネクタイ

茶道の宗匠が、パリ旅行の際に、中村孝則氏へのプレゼントとしてエルメス本店で見つけてくれたというエルメスの蝶ネクタイ。コンパクトでロングタイのように剣先の位置を気にする必要がなく、改まった雰囲気も出せることから、茶席や旅にもお勧めだという。

(読了時間:約3分)

Text by Takanori Nakamura
Photographs by Masahiro Okamura

茶席に洋装で参加する場合にお勧めなのが蝶ネクタイ

このエルメスの蝶ネクタイは、いまから20年ほど前に、パリのエルメス本店で購入した。いや、正しく記せば私の茶道の宗匠が、パリ旅行の際に、プレゼントとして見つけてくださったものである。

その宗匠は、男子が茶席に洋装で参加する場合は、稽古であろうと正式な茶事であろうと、ロングタイではなく蝶ネクタイを着用するように、私たち弟子に義務付けていた。ロングタイの剣先を茶碗の中に落としたりする粗相を避ける、というのがその理由である。タイピンも、万が一茶道具を傷つける心配があるから、厳禁とおっしゃっていた。蝶ネクタイはその心配がないうえ、改まった雰囲気も醸し出せるので、茶席ではお勧めしておきたい。

そもそも蝶ネクタイの起源は、ローマ時代まで遡る。ローマ皇帝トラヤスの記念柱に描かれた「フォカーレ」が、最古の証拠とするのが定説になっている。

19世紀までは、紳士のネクタイは四角の布を三角に折ったものを蝶結びにしていた。それが徐々に小さくなり、1870年代にほぼ現在の蝶ネクタイの姿になった。むしろ、18世紀のアメリカを発祥とするロングタイのほうが歴史は浅いが、現在は蝶ネクタイのほうが少数派になってしまったのは、そのメリットを考えると残念なことである。

蝶ネクタイは旅において威力を発揮する

蝶ネクタイは、茶席のような特別のシーンだけではなく、むしろ旅においてその威力を発揮すると思っている。普通のネクタイ一本の重さの平均が、35g〜40gに対して、蝶ネクタイは10g以下で、軽量でかさ張らず場所を取らない。カバンに一つ忍ばせておけば不意の会食やパーティなどでも心強い味方になるはずだ。

もっとも最近は、クラシックなテーラード・スタイルへの回帰ブームもあり、蝶ネクタイがリバイバルの兆しもある。つい先日も「2017年ヒット人」(日経トレンディ)に選ばれた俳優の竹内涼真さんが、記者会見で個性的な蝶ネクタイ姿で登場していたのが印象的であったが、素材やデザインのバリエーションも豊富に出回っているうえ、ほとんどが、あらかじめ蝶結びになっているから、機会にとらわれず気軽に楽しんでほしいと思う。

ただ、個人的には蝶ネクタイはご自身で結んでほしいと願う。自分で結んだものか、そうでないか、見る人が見れば簡単に喝破されるからというネガティブな理由ではなく、蝶ネクタイには「蝶結び」のほかに「叶結び」、「ねじり結び」など10種類以上の結び方があるからだ。結び方で自在の表現力を持つのも、蝶ネクタイ本来の魅力だからである。

そもそも日本において「結び」は、古来より神道の「むすひ」に通じ、魂や契りを意味している。『新・包結図説』山口信博著(折型デザイン研究所)によると、民俗学者の折口信夫の研究を紹介し、むすびは「魂むすび」に通じるという。

べつに不揃いだって、それはそれで着こなしの味わいになるはずだ。その日に出会う人たちへの想いを込めて自身で結んでみる。きっと、思いもかけない縁までも、結ばれるのではないだろうか。

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