JOURNEY

Licaxxxにみるメディアミックス思考 後編

2017.11.13 MON
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Licaxxxにみるメディアミックス思考 後編

2017.11.13 MON
Licaxxxにみるメディアミックス思考 後編
Licaxxxにみるメディアミックス思考 後編

ミレニアル世代と呼ばれる若者たちとムラカミカイエ氏との対談録。ゲストにLicaxxx(リカックス)を迎えた第2回の後編は、多彩な肩書きを持つ彼女の軸を明らかにし、ジャンルを横断する醍醐味に迫る。

(読了時間:約6分)

Text by Kaie Murakami
Photographs by Makoto Tanaka

言語を介さずに音楽を紹介できるのがDJ

既存の枠にとらわれないミレニアル世代との対談を通じて、新しい価値観を浮き彫りにしていくこの連載。第2回目のゲストにDJでありながら、編集者・ライター・ラジオパーソナリティなど多彩な肩書きを持つLicaxxxを迎え、前編では若きマルチクリエイターのルーツや原動力を明らかにしてきた。
後編のキーワードは「横断」。ジャンルを自在に行き来する彼女の軸は何にあり、これからどこに向かおうとしているのか。そこにはLicaxxxという存在自体が肩書きになる可能性を感じた。

──Licaxxxさんは社会的に、世代もジャンルも横断できてしまうマニアックなDJができ、かつ容姿端麗なオシャレな女の子で、しかも気の利いたトークもできる才女でもある。って、ある種代理店が好みそうなポップアイコン化していることは間違いないじゃない? そんな思惑を仕事の依頼から感じることも多いと思うんだけれど、話をよくよく聞いていると裏方思考が結構強いですよね。

ありますね。裏方的な視点から、Licaxxxは今は人前に出ていてもいいと思っていて。でも本質は女子、見た目、年齢とかのオプション的な枠組みを超えていけるようなことをやっていかないと意味がない。そういった反骨心は常に抱えていますね。

──今でも女性だから仕事のオファーが届いていると感じることはある?

大学生の時は女子のDJがいないから一人くらい入れておこうという感じに呼ばれることもありましたし、女子だから呼ばれているんでしょっていう周りの冷ややかな目もあったと思います。26歳になった今でも、駆け出しの若手という括りでメディアに呼ばれているところもあると思います。それでも、いただいたお仕事を2倍くらいの気持ちで返すようにしていて、そのなかでスキルアップしていくしかないなと。こういうテーマ、雰囲気だからLicaxxxの選曲がほしいと言われるようになりたいですね。
──もしも、いろいろな職種のなかで一つを選べと言われたら何をする?

迷いなくDJですね。大好きな音楽を紹介したいという気持ちの延長でいろいろなことをやっているので、そこがないと崩壊すると思います。話す・書く・インタビューする。アプローチはさまざまだけど、その究極として言語を介さずに音楽を紹介することができるのが、DJだと思うので。

──DJの楽しさをやったことのない人たちに伝えるとしたら、どんな言葉に?

私特有かもしれませんが、クラブに来ないような人たちに対して、絶対聴いたことのないような音楽を聴いてもらっているのが楽しい、ですかね。その曲はその人たちに聴かれることがなかったかもしれないと考えると、私がDJをやる意味を感じます。

あとプレイでいうと、私はテクノをミックスすることが多いので曲が重なっている部分が長いんですけど、そこで別の曲みたいに聴こえたり、まったく違うグルーヴが出たりとか、そういう音楽の再構築ががっちりハマった瞬間は超楽しいですね。曲を作っている本人も聴いたことないような表情になる瞬間があります。

DJはアーティストとデザイナーの中間者

──発信する側の人間には、アーティストタイプとデザイナータイプがいると思うんです。前者は自分のあるがままに創作し、それで良し悪しを評価されるタイプだけど、後者は常にオーディエンスと対話し呼応しながら進めるタイプ。どちらだと思う?

私は周りの環境に影響されながら自分のやりたいことを形にするのが得意なタイプですけど、それはDJとして必要な能力だと思っているんですよ。だから、DJはアーティストとデザイナーの中間者のような気がします。

──そういうなかで、『シグマファット』(Licaxxxが編集長を務めるウェブメディア)をやってみようと思った理由というのは?

私が取材を受けているなかで、自分の掲載用ビジュアルをスタイリストさんが担当してくれるとテンションがアガるじゃないですか。駆け出しやアンダーグラウンドのアーティストにも優秀なスタイリストやカメラマンが関わって、良い企画を形にしていく。それを自分でやってみようと思って『シグマファット』を始めたんです。専門的な話も多いメディアですけど、そこは誰にでも読んでもらいたいとは思っていなくて。読者の目線に下げるのではなく、取材をする・受ける側の人たちのテンションが高まって喋りたいことを出し尽くす。いわゆる作品リリース時のインタビューとは違う、生っぽいものを作りたいんです。それが一番の大義名分ですね。
──例えば、ファッション連載にポスト・トゥルース(世論形成において、客観的な事実より、虚偽であっても個人の感情に訴えるもののほうが強い影響力を持つという状況)をキーワードにした回があって興味を持ったんだけど。どんな意図があったのかな。

自分の考えや主張を具体的に提示したいわけではないけど、ファッションフォトのテーマを決めるうえで、個人的に興味のある思想や時事ネタを盛り込んでみようかなと。ちょうどポスト・トゥルースが流行語になったタイミングだったので、これはポスト・トゥルースでウェブ検索すると意味の分からないところでヒットするだろうなというのもあります。

──(笑)それを言われると、おじさんたちは「あざとい」って言いそうだけど、そもそも切り口として考えていないだけでしょう? って思ってしまうね。

はい、正直なところ(笑)。これもDJと同じで、記事に関わっているクリエイターやファッションブランドを知ってもらうきっかけになりますから。

私を突き動かしているのは好奇心

──自分の軸であるDJに限定すると、これからのキャリアをどう考えている?

今、日本でやっていることを海外でもやれたらなって。日本をベースにするならば、まずはアジアから攻めないとダメなんですかね。

──アジア各都市にはクラブも増えているし、女性DJの活躍の場も広がっているけれど、Licaxxxさんのハイコンテクストな選曲はヨーロッパのほうが受け入れられやすい印象がありますけど。

好きなアーティストも多いし、ヨーロッパで挑戦したい気持ちはやっぱりあります。あとは店舗の音楽プロデュースも興味がありますし、ファッションショーの音楽も選曲してみたい。いろいろと曲のリミックスはやってきましたけど、そこは音楽を作るのではなくて再構築しているので、特定の何かのために音楽を選曲してみたいという気持ちも強いです。
──表や裏にこだわらず、両方を横断できるようになるかもしれないし。そういえば、今日いろいろな話に横断っていう言葉が多く出てきましたね。

私を突き動かしているのは、ピンポイントなヲタク心をどうやって人に伝えるか、ということなので、手段がたまたま横断的になっているということですね。でも、自分がもし男性だったら、横断型の人間にはなっていないでしょうね。もっと頑固なプライドがあって専門性を突き詰めていくタイプになっていくんだろうなって思います。音楽を直接紹介するラジオはやりたいと思っていても、「BAZOOKA!!!」(BSスカパー!)の出演は断っていたかもしれない。いろいろと嫌なことを言われても、男子にも劣らないブレないヲタク心があるので開き直って飛び込んでいけます。それが私の最大の武器だと思います。

<対談を終えて>

Licaxxxさんの言葉や行動は、なにかに媚びることも、抗うこともなく、ジャンルや世代、ジェンダーをも軽快に飛び超えていく。いま大きく価値観が変わりつつあるなかで、技術や慣習に縛られることのない彼女の自由な発想や強い好奇心が、私を含めた多くの人たちを惹きつけてやまないのだ。そして、この週末も彼女の発する自由な声や音楽は、日本中のオーディエンスの身体と心を踊らせ続けている。飽くなき好奇心こそ彼女の原動力。「好きこそものの上手なれ」とはよく言ったものだ。

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