VISIONARYMAGAZINE BY LEXUS

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ゲームは“遊び“から抜け出したのか。
劇的なスピードで成長するeスポーツの今

2017.11.08 WED
ゲームは“遊び“から抜け出したのか。劇的なスピードで成長するeスポーツの今

盛り上がりのスピードと、もたらされる経済効果から、北米においては無視できない存在になってきたeスポーツ(エレクトロニック・スポーツ)の世界。かつての「たかがゲーム」と言われた時代は終わりつつあり、新たな局面を迎えるeスポーツの今に迫る。

(読了時間:約8分)

Text by Kevin Draper
Photographs by Monica Almeida
Translation by Yuka Taniguchi
© 2017 THE NEW YORK TIMES

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テレビ局がeスポーツの大会を主催する時代に

カリフォルニア州サンタアナのダウンタウンにある95年の歴史を持つ3階建てのレンガ造りの建物。ここがeスポーツの未来を担っていると言われても、多くの読者は理解できないだろう。周囲には立体駐車場やパーキングスペースがあるだけの殺風景な地域の一角にあり、外から光が入らないように窓は内側から覆われている。

ただ、建物の前に停まっているNBCスポーツの巨大な中継車を見れば、ここで何かが起きていることは容易に想像できる。「Esports Arena」の名称で知られるこの建物の中では、選手2名からなる16組のチームが、クルマとサッカーが融合したスポーツゲーム『ロケットリーグ』でしのぎを削っている。ユニバーサルオープン・ロケットリーグ・グランドファイナルズと呼ばれるこのトーナメントの優勝者には、山分けされる賞金総額10万ドルの中から高額の賞金が与えられるのだ。

選手たちは数百人のファンで埋め尽くされた客席に囲まれ、チームメイトとコミュニケーションをとるためのヘッドセットを装着してモニターの前に座っている。プレイヤーの背後のステージには3名の解説者がいて、彼らがスタジオアナウンサーの代わりを務める。その頭上の中二階には、キャスターと呼ばれる実況中継するコメンテーターと、下位ランクで戦いを繰り広げている大勢のプレイヤーたちがいるのだ。
eスポーツの大会に特化した会場Esports Arena。今後はこうした会場が続々とオープンする予定
eスポーツの大会に特化した会場Esports Arena。今後はこうした会場が続々とオープンする予定
アメリカの三大商業テレビ局の一つNBCは、このトーナメントをきっかけに初めて「eスポーツ」を主催するメディアとなった。スポーツ専門チャンネルNBCSNでは、トーナメントを2時間分放映し、オンラインではさらに長時間のストリーミング配信が行われた。NBCは会場のセットとして、スポットライトやスモークマシンを使い、ロケットリーグのテーマカラーであるネオンオレンジやネオンブルーを多用して、未来的でダークな世界観を打ち出している。

この会場を運営するポール・ワード氏とタイラー・エンドレス氏は共に29歳。中学校時代にバスケットボールを通じて知り合い、後に地元のアズサ・パシフィック大学に一緒に進学した二人は、今も心はゲーマーだ。「大学時代、我々のキッチンのTVはXboxに占領されていました」というのはエンドレス氏。ゲームができるときにはいつでもその場でゲームのトーナメントを開催していたという。

ビデオゲームを使った対戦をスポーツ競技として捉えるeスポーツは、既に大きなビジネスとなっており、その急成長は今も続いている。NFLのチーム、ニューイングランド・ペイトリオッツのオーナー、ロバート・K・クラフト氏と、MLBのチーム、メッツのCOO、ジェフ・ウィルポン氏は、アクションシューティングゲーム『オーバーウォッチ』で戦うチームを、それぞれ2000万ドル以上で購入したと報じられている。『オーバーウォッチ』の大会は、マディソン・スクエア・ガーデンやロサンゼルスのステイプルズ・センターにある会場で開催され、チケットは常に売り切れとなるほどの人気だ。

しかし、このような大規模なイベント以外にも、小さな会場を必要としている小規模なトーナメントやリーグはいくつもある。そこでEsports Arenaを筆頭とする競技場が出番となるわけだ。
ロケットリーグ・ファイナルズで戦う選手たち。2人1組のチームが10万ドルの賞金をかけて技を競う
ロケットリーグ・ファイナルズで戦う選手たち。2人1組のチームが10万ドルの賞金をかけて技を競う

拡大し続けるeスポーツ会場の数

2015年にオープンしたEsports Arenaは、アメリカで初めてeスポーツの大会に特化した会場だ。しかしオープンまでの道のりは簡単ではなかった。ワード氏とエンドレス氏は2012年から出資を募っていたが、物件のオーナーから貸し出すのを渋られ、計画が難航していた。eスポーツという訳の分からない事業が、十分な収益を上げられるとは理解されなかったのである。しかし、南カリフォルニア一帯を対象に、可能性のある物件にあたっていく中で、ようやく築95年の建物のオーナーと巡り合うことができた。eスポーツの可能性を認めたオーナーは、物件を貸し出すことに同意してくれたのだ。

自分たちでカーペットを敷き、強力なインターネットのインフラを構築するなど、建物の改装の大部分は彼ら自身が手掛けている。内装はどちらかというと使いやすさ重視で、コンクリートの床にいくつかの固定の設備があるだけだ。「この会場では、ニーズが異なるイベントを常時行っているので、モジュール設計にする必要がありました」とワード氏は語る。

大きなイベントを開催するときには、1,400㎡の空間に900人のファンを収容することができるが、今回のユニバーサル・オープンでは凝ったセットを使ったため、収容人数は500人に限定。また今後の計画として、ワード氏とエンドレス氏は、3つの会場の運営を手がけることになっている。カリフォルニア州オークランドには1,500㎡の会場、ラスベガスのルクソール・ホテル・アンド・カジノ内には2,800㎡の会場が来年早々にオープンすることが決まっている。

この拡大を後押ししているのは、中国のスポーツやエンターテインメント系企業5社で始めた共同組織Allied Esportsの存在だ。Esports Arenaは、北京のeスポーツアリーナをはじめとする多数の物件を所有しているこの中国の共同組織Allied Esportsから数百万ドルの資金提供を受け、これから数年のあいだにオークランドやラスベガスの外にどんどんと進出していく計画だという。
NBCスポーツがロケットリーグ・ファイナルズの模様をストリーミング配信
NBCスポーツがロケットリーグ・ファイナルズの模様をストリーミング配信
今回、このユニバーサル・オープンの準備のために、会場は一週間閉めきられた。もともと一般にも会場として開放されていたEsports Arenaにとって、これほど長い休みをとることは大きな決断だった。Esports Arenaでは、平日にはさまざまなアマチュア対象の大会を開催し、ときには有料会員にマシンを開放しているのだ。有料会員が払うのは月10ドル。ビデオゲームカフェで1時間あたりの料金を払うよりもずっと安い。また、ロサンゼルス周辺の大渋滞を少しでも回避できるように、平日の夜のイベントは開始時間を遅く設定するなどの工夫もしている。

現在Esports Arenaでは、会場で長時間を過ごす顧客たちにとって、より一層魅力的なスペースにするためのさまざまな改善が進められている。その一つにアルコールの提供が予定されているが、「21歳を過ぎてもゲームをしている人がいるなんて信じられない」という市の役人の声もあり、実はアルコールの販売許可を得るまでには非常に苦労したという。フードメニューも拡大し、単なる軽食だけでなくきちんとした食事も提供する予定だ。

eスポーツ大会が熱狂の渦を巻き起こす

「eスポーツの人気が急速に拡大しているのを目の当たりにすれば、こうした会場へのニーズが高まっていることが理解できると思います」と言うのはNBCスポーツの幹部で、トーナメントと放送の監修を行っているロブ・シメルケア氏だ。

一旦試合が始まると、会場のあちこちに設置されたスクリーンに映し出されるアクションに観客の目は釘付けになる。こうしたゲーム大会は、ライブイベントとテレビスタジオの二つの側面を持っている。試合の合間には、リプレイが放映されて解説者たちが観客には見えないところで起こったことを分析する。その一方で、プロデューサーが立ち上がって声援を送るようにファンたちを鼓舞している。
繰り広げられる激戦に子どもから大人まで熱狂する
繰り広げられる激戦に子どもから大人まで熱狂する
大会の参加者と同様に、eスポーツでは観客もその大半を若い男性が占めているが、女性や家族連れもそれなりに多い。華麗なゴールが炸裂したり、それを上回る見事なセーブでゴールを死守したりすると、観衆は一斉に立ち上がって大声で歓声を上げる。

どうしてeスポーツの大会を見に来たのか彼らに尋ねると、多くの人はこのゲームがどんなに刺激的か語ってくれるが、同時に別の理由も教えてくれる。ビデオゲームというものは、オンラインや対面で誰かと一緒にプレイすることはできても、今も昔も基本的には一人でやる趣味である。また、一般的に受け入れられてきてはいても、ゲームオタクという烙印はいまだについて回る。しかし、eスポーツの大会は、自分と同じ心を持ったファンたちとゲームに対する熱い思いを共有することができる場所だというのだ。

17歳のビリー・ウィックステイン君は、今回初めてeスポーツのイベントに参加した。ビリー君は、ユニバーサル・オープンを観戦しようと家族を説得し、ニュージャージー州から飛行機に乗って一家総出でやってきた。ウィックステイン一家はこのイベントのために小旅行をすることになったのである。

「地元の夏は退屈だし、今年の夏は家族みんなで何かワクワクすることをしたいと思ったんだ。大勢の観客と一体になるのは最高に気持ちいいよ。プレイヤーたちを大声で応援してゲームを盛り上げるなんて、たまらなくクールだと思う」と彼は言う。

ビリーの両親や双子の妹のケリーもビリー自身と同じくらいゲーマーたちのプレイに興奮しているのを見ると、eスポーツの大会やEsports Arenaのような競技会場の未来は明るいと感じる。ワード氏とエンドレス氏の事業が上手くいけば、彼らはアメリカ全土に会場のネットワークを所有することになり、ウィックステイン一家も、飛行機で旅をしなくても『ロケットリーグ』を観に行けるようになるだろう。

「どんなときでも需要があれば供給されるもの。それが資本主義ですから」とNBCのシメルケア氏は語った。
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