ART / DESIGN

ラオスの織物で仕立てた角帯

2017.10.06 FRI
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ラオスの織物で仕立てた角帯

2017.10.06 FRI
ラオスの織物で仕立てた角帯
ラオスの織物で仕立てた角帯

日頃から着物に親しんでいるという中村孝則氏。帯の色柄でお洒落を楽しむべく、旅先では帯になりそうな織り地へも目を凝らしている。本記事では、世界的な織物の産地、ラオスで出会った、パービアンという伝統的な浮き織りの女性用肩掛け布について紹介する。

(読了時間:約4分)

Text by Takanori Nakamura
Photograph by Masahiro Okamura

ラオスの女性に伝わるパービアンという伝統的な肩掛け布を角帯に

これは、ラオスの織物で仕立てた、着物用の角帯である。織物だけ現地で購入して、日本の呉服店に頼んで帯に仕立て直してもらったものである。

私は、お茶をやっていることもあり、着物には親しんでいるのだが、最近はお茶以外でも、会食とか海外のパーティとかにも着物で出かけたりする。男物の着物は総じて色目が地味なので、お洒落着として使うシーンでは、ベルトのように帯で遊ぶに限ると常々思っている。ところが、困ったことに男性用の帯は女性物に比べて、色柄のバリエーションが極端に少ない。なので、最近は自分の気に入った織物を、角帯に仕立てて遊んでいる。そういったわけで旅先では、茶の湯に見立てられそうな古物を物色しながら、帯になりそうな織地へも目を凝らしている。

世界各国には、伝統的な織物が色々とあるが、角帯に仕立てるには条件があって、適度な腰と張り、そして長さが必要になる。そこで私が目をつけたのが、ラオスの女性に伝わるパービアンという、伝統的な浮き織りの肩掛け布である。これは、ラオスの女性の伝統装束の一つで、肩に掛けたり複雑な方法で体に巻きつけて使われる。生活様式が近代化しつつあるラオスだが、今でも祭事ではこうした伝統的な織物の装束を身につける。この2本の帯も、本来はそれぞれの長さが1メートル半ほどもあるパービアンだった。

格式や用途、宗教的意味合いなどを示す織り柄

ラオスは世界的に知られる織物の産地で、戦前まではどの地方の家庭にも織り機があり、織物ができて初めて一人前の女性とみなされたという。綿や桑を植え、蚕を育て、糸を紡いで天然染料で染め上げて織り上げる。ラオスでは昔からつい近年まで、分業せず、また機械化もせずに人の手だけで作り上げてきた。

ラオスの織物は、地域や民族ごとに独自の伝統があり、織り柄もただの洒落やデザインを超えて、格式や用途、未婚・既婚のシンボルだったり、宗教的意味合いがあったりするそうだ。

かつて、ラオスの山間部をバイクで旅行中、私がとある小さな村で買った織物のスカーフを見て、全く別の土地の人が「◯◯村に行ったね。織り柄を見れば分かるよ、僕もその村の出身だから」なんてことがあった。残念ながら、この柄の由来はよく分からないが、見る人が見れば、どの地域の民族のものか分かるのだろう。

幾何学的な文様が立体的に浮き上がり、まるで刺繍のようにも見えるが、伝統的な手織り物で仕立てられている。こうやって帯になると、まるで西陣織のような豪華な色彩と質感ではないか。なんでも織り上げるだけで、3ヵ月以上もかかったそうである。大きな声では言えないが、当時この織地を買った値段は一枚1万円くらいだった。あまりに安くて逆に心配になったが、織り手の住む地域の月収の3ヵ月分と同じくらいと言っていたので、ホッとした。こんな私でも近頃はフェアトレードに、少しばかりナイーブなのである。

インドシナで最も美しい町に変貌しつつあるルアンパバーン

この織物を買ったのは、ラオス北部の山稜の奥地にある、ルアンパバーンという小さな古都である。ルアンパバーンは、メコン川沿いにひっそりと佇む秘境で、その起源は14世紀にまで遡る。1353年にラーオ族のファーグム王が、ラーサン王国を建国したのがはじまりとされている。1707年にはルアンパバーン王国が建国され、戦前のフランス統治時代を経て、傀儡とはいえ1975年までは王制が続いていた。

近代こそ歴史に翻弄された王都であるが、今はすっかり落ち着きを取り戻し、インドシナで最も美しい町に変貌しつつある。1995年には世界遺産に登録されて、つい最近はアマンなどラグジュアリーホテルも次々と誕生して、バカンス先としても行きやすくなった。ちなみに、ルアンパバーンはナイトマーケットも有名で、伝統的な織物の屋台が数多く出店するから、生地探しにはもってこいである。

私も次に行くときは、紬の着流しなんかで買い物に出かけてみようかと思っている。もちろん、この帯を締めて。もしかしたら、掘り出し物とともに、織物をめぐる新しい旅の物語が、生まれるかも知れない。

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ご回答いただきありがとうございました。

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