JOURNEY

ピーターの法則からみると、
社会人の能力をコミュ力だけで測るのは間違い?

2017.09.27 WED
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ピーターの法則からみると、
社会人の能力をコミュ力だけで測るのは間違い?

2017.09.27 WED
ピーターの法則からみると、社会人の能力をコミュ力だけで測るのは間違い?
ピーターの法則からみると、社会人の能力をコミュ力だけで測るのは間違い?

近年、日本発のイノベーションが生まれにくくなったといわれるが、それはなぜか。カナダ人教育学者である、ローレンス・J・ピーター氏がかつて提唱した「ピーターの法則」という社会学の法則をもとに、コミュ力を重視する日本企業における組織のありかたを考える。

(読了時間:約4分)

Text by Yuya Oyamada
Photograph by amana images

学力よりもコミュ力が大事?

近年、日本発のイノベーションが生まれにくくなったとよくいわれる。日本市場ばかり見ている、教育が悪い、ベンチャーが育ちにくい……など、さまざまな点が原因として指摘されるが、ここではちょっと視点を変えて、企業の仕組みに目を向けてみたいと思う。

というのも、多くの企業を取材するなかで、そもそも日本の、特に大企業の仕組みが、イノベーションを生み出す可能性がある人を、正しく評価できるようになっていないのではないかと感じるからだ。

例えば、現在の日本企業の多くは、人材に求めるスキルとして、「コミュニケーション能力」を真っ先に挙げるようになっていきている。

帝国データバンクが今年4月に発表した「企業が求める人材像に関する調査」によると、対象となった1万82社のうち38.6%が「コミュニケーション能力が高い」人材を求めていると回答。なかでも特に大企業にその傾向が強いことを報告している。

さらに、数年前からは就活の現場でも、「学力よりコミュ力が大事」という声が聞こえるようになった。世界がグローバル化し、日本社会の常識が通用しなくなっているなかで、臨機応変に自分を変えていき、どんな人とも仕事ができる人物を求めるようになってきたのだ。

でも、本当に「コミュ力が第一」でいいのだろうか?

コミュ力重視の風潮は万能ではない

もちろん業種にもよると思うが、「日本発のイノベーションをいかに起こすか?」という問題意識で考えれば、「コミュ力重視」の風潮は、決して万能ではない。

イノベーションを生み出した著名人たちのことを思い浮かべてみてほしい。ビジネスパーソンだろうが研究者だろうが、いずれも「コミュ力が高い」というよりも、世の中の基準からは“変人”といわれそうな人ばかりではないだろうか。

その代表例がスティーブ・ジョブズで、エレベーターの中で自分の仕事についてうまく説明できなかった社員をクビにした話や、自宅にどんな家具を置くべきか悩みすぎて結局ほとんどモノを置けなかった話など、とかくエキセントリックなエピソードには事欠かない。明らかに「空気を読むことに長けた人物」ではないだろう。

ここまで極端でなくとも、「何かに集中したらほかのことが手につかなくなる人」「人付き合いは苦手だけど、ひとつの作業には突出した能力を発揮する人」というのは、大企業の中にはけっこういるはずだ。そういう人たちの中に、イノベーションの“芽”はある。

反対に人付き合いに長けた人(=コミュ力が高い人)は、彼らをサポートする営業やマネジメントの仕事に向いている。会社組織はこのどちらに偏ってもダメで、マネジメントが得意な人ばかりでは肝心の新しい価値を生み出せないし、創造的な能力に特化した人ばかりでは、そもそも会社がまわらない。作家と編集者の関係のように、「創造的な才能がある人×コミュ力が高い人」がチームを組むことが、組織の理想形だと個人的には思う。

しかし、日本企業は、これがうまく実現できない仕組みになってしまっているケースが多い。具体的には、役職と給与が結びついてしまっているのだ。

「ピーターの法則」からみた能力主義の階層型組織の限界

伝統的な日本企業というのは、「仕事ができる人」を上の役職、つまり管理職に引き上げることで「出世」とする。「君、優秀だね! そろそろ課長にならないか」という発想だ。現場にいたまま、管理職よりも給与が高いなんて人は珍しい。

しかし、「仕事ができる人」を上の役職に抜擢していく発想を続けていたら、やがて企業は行き詰まってしまう。それを指摘したのが、「ピーターの法則」だ。

これは教育学者のローレンス・J・ピーターが提唱した社会学の法則で、能力主義の階層型組織の限界について指摘したもの。その要点は、以下の3つにまとめられる。

(1) 能力主義の組織では、人は能力の限界まで出世する。それは有能な人も、いつかは組織の中で能力の限界に達するということを意味している。
(2) 従って、有能な平社員も順調に出世を続けると、やがて無能 な管理職となる。その結果、組織のどの階層も無能な人で埋め尽くされる。
(3) 組織は「まだ無能になっていない人」が仕事をすることでまわっている。

自分の得意分野が発揮できるポジションでは生き生きしていたが、出世した途端に元気がない……。そんな人が会社にあふれているとしたら、それは当人の資質の問題ではなく、組織の仕組みに原因があると指摘した。つまり、本人の得意分野と役職のミスマッチが起こっているわけだ。

ものすごく売り上げの高い店員が店長に向いていないからといって、その人物を「能力が低い」と評価するのは間違いだろう。しかし、役職と給与が結びついている企業は、それをやってしまっている。

「仕事ができる人を出世させる」という発想をしている限り、「組織は無能な人で埋め尽くされる」とピーターは言う。では、どうすべきなのか?

ひとついえるのは、企業の評価制度そのものを変えることだろう。すでに海外のIT企業を中心に、スペシャリスト職とマネジメント職で評価の仕方を変えることが主流になりつつある。実際、スーパーエンジニアになると、管理職よりもはるかに給与が高くなる。

そこには「新しい価値を作る人」と「組織をうまく回す人」を同一の物差しで測っていたら、イノベーションなんて生まれないという発想が背景にある。

日本発のイノベーションを生み出したいと思うのであれば、評価の仕組みを、「どんな立場にいるのか」ではなく、「何ができるのか」に変えていかなくてはならない。極端にいえば、社長より給料が高い平社員がいたっていい。そのくらいの大胆な変身を遂げた企業から、新しい価値というのは生まれるのではないだろうか。

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ご回答いただきありがとうございました。

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