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人の能力を超越した「超人スポーツ」に
秘められる、いくつもの可能性

2017.09.06 WED
人の能力を超越した「超人スポーツ」に秘められる、いくつもの可能性

人間の身体能力を超える力を身につけ、年齢や障害などの身体差をなくすことを目的に誕生した、新たなスポーツのカタチ「超人スポーツ」。テクノロジーとスポーツの融合により生まれるいくつもの可能性を、東京大学教授の稲見昌彦氏が語る。

(読了時間:約5分)

Text by Ryo Inao (lefthands) 
Photographs by Yusuke Hayashi
Edit by Keisuke Tajiri

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不可能を可能にする、ひみつ道具というアイデア

フリーアクセスの開放的な空間で、活発なコミュニケーションが交わされる東京大学内のとある研究室。そこで研究されているのは「身体情報学」という何やら聞き慣れない言葉。これは、人間は手をどうやって動かしているのかというような、身体の動きを認識する仕組みを解明するためのものだ。で、東京大学教授の稲見昌彦氏が普及を目指す超人スポーツは、その身体情報学のうちの「人間拡張工学」と呼ばれる研究領域を応用した新しいスポーツのカタチである。何やら小難しい話であるが、つまるところテクノロジーによって人間の身体能力を拡張することで、スポーツの可能性、果ては人間の進化の可能性を探求している、というわけである。

稲見氏が現在の道を進むことになったきっかけはドラえもんにあった。「できないことができるようになったり、それによってみんなが喜んだりと、ドラえもんのひみつ道具がかなえる新しい可能性に魅力を感じたことが、現在までの研究や活動につながっています。待っていてもドラえもんは現れなかったので、自分でひみつ道具のようなものをつくろうと考えたのです」。
超人スポーツを思いつくまではスポーツが大の苦手で、ようやく最近好きになってきたという稲見氏
超人スポーツを思いつくまではスポーツが大の苦手で、ようやく最近好きになってきたという稲見氏

「障害」という概念さえもなくしていく

稲見氏のなかで、テクノロジーによる人間の能力の拡張とスポーツが結びついたのは、2013年に発表された2020年東京オリンピック招致決定のニュースだ。報道に触れた稲見氏の頭に浮かんだのは、「人間拡張工学で研究しているテクノロジーとスポーツの融合」だった。

「私の研究がスポーツと結びつくことで、スポーツと人間のより良い未来をつくれるのではないかと思いました。そこで仲間を集め、超人スポーツアカデミーを立ち上げ、のちに協会化したのです」

稲見氏は2020年に超人スポーツ国際大会の開催を目指し、さらにその先には人間の進化を見据えている。「超人スポーツが、今進んでいる情報革命が達成された後の、人間の身体感のアップデートの一助になればいいと思っています。過去の社会革命を振り返ってみても、必ず身体の使い方がアップデートされてきました。そしてその影で障害が生み出されてきた。社会革命後の主要な産業に従事することができない身体感を障害と呼ぶようになったのです。農業革命では農作業ができない身体障害、産業革命では機械の操作ができない知的障害、情報革命の只中の現代では、コミュニケーション障害もその類いかもしれません」。

稲見氏は、そうした「障害」という概念自体を考えなくてもいいような社会を夢見ている。「今後、AIが普及することで、人間の身体の使い道も変化するでしょう。現存する仕事の消失など、不安も呼び起こしているAIの台頭ですが、産業革命後に広まったテニスやボクシングなどの近代スポーツのように、人間に新たな可能性を示すきっかけになるのではないでしょうか。つまり、我々の仕事は減るかもしれませんが、そうして生まれる余暇を楽しみ、新しい人生の生きがいを見つけることができるようになる可能性もあるのです」。

超人スポーツを教育課程に

こうして今とは様相が変わった遠くない未来に、我々人間が順応していくことにおいて、超人スポーツが大きな助けにもなると稲見氏は語る。「人間がコンピューターやAIを使いこなすことを、超人スポーツで促進すればいいのです。かつてフェンシングや射撃などのスポーツを通して、人々が道具を使いこなしてきたように」。

現在、近代五種と呼ばれる陸上、水泳、フェンシング、馬術、射撃は、その当時人間が身につける必要があった軍事教練をスポーツ化したものだ。スポーツを通して、人間がその時代に必要な道具を使いこなすことを促した例である。つまり、超人スポーツを体育科目として教育の場に落とし込むことで、情報化社会に順応する人間の育成が可能となるのだ。

超人スポーツ協会と岩手県が、「2016希望郷いわて国体・希望郷いわて大会」を機に行った「ご当地超人スポーツ」づくりが、超人スポーツの教育面での可能性を示す好例であろう。
ドローンを活用することで空をフィールドとしたスポーツを楽しめる
ドローンを活用することで空をフィールドとしたスポーツを楽しめる
例えば、岩手大学と慶応義塾大学の学生がともにつくった「トリトリ」。岩手出身の作家、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に登場する鳥捕りから着想を得たもので、網をぶらさげたドローンでターゲットドローンを捕らえるというものだ。

ほかには、岩手大学の学生の「なぜ岩手という地名なのか?」といった、素朴な疑問から生まれた「ロックハンド」という競技もある。盛岡市内の三ツ石神社に古くからまつわる、悪さをした鬼が反省の証として大きな岩に手形を残したという、県名の由来ともなった鬼の手の伝説をモチーフにしたものなど、いくつもの競技が学生から生まれている。

「スポーツを媒介にしてあらゆることを学び、あらゆる人々が交流する。しかも、すべて当事者たちが積極的に始めたのですから、これぞ理想の学習ですよね」。情報革命以後のこれからの社会では、「テクノロジー vs. 人間」ではなく、「テクノロジーを操る人間 vs. テクノロジーを操ることができない人間」という構図が一般的になることが予想される。それでは、AIなどのテクノロジーがますます人間の営みを補うようになる未来において、モビリティの分野ではどうなるのだろうか。
全方向への移動を可能にした電動アシスト車椅子のドリフトテクニックで競い合う「スライドリフト」
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稲見氏は言う。「VRやAIなどのテクノロジーが発達した未来では、移動が現在のように必然ではなくなっているでしょう。今、船旅などを楽しんでいるような富裕層や余暇を楽しみたい層が、リアルな体験や冒険として実際の移動を楽しむようになり、ビジネス層ではテレイグジスタンス、つまりVRやロボットを通じた会議など、擬似的な移動がより一般的になるでしょう」。

自動車を運転するドライバーの在り方も大きく変わる可能性があると稲見氏は予想する。「自動車そのものもこれまで進化してきましたが、ドライバーも進化できるようになると面白いですよね。それこそ超人スポーツのようなウェアラブルギアの誕生です。ギアが人間の知覚を超えた運転技術をサポートしてくれると、これまでにないダイナミックなドライビング体験ができるようになるでしょう。運転の未来はパワードスーツを着たセレブリティたちが余暇を楽しむ。そんな光景が日常となっているかもしれませんね」。
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