新作発表をマイナースポーツのバイクポロで演出
強い日差しが照りつけるトスカーナの暑い朝、14世紀に建設されたサンタ・マリア・ノヴェッラ教会前の広場に、バリケード、セーフティネット、そしてゴールポストを備えた本格的なポロ競技場が設置された。この石畳のハードコートは、伝統的な馬上競技のためではなく、その現代版たるバイクポロのために設えられたものだ。アメリカ・シアトル発祥のこの新しいスポーツは、馬の代わりに自転車を使い、貴族のスポーツと言われるポロを誰でも気軽に楽しめるようにしたもので、現在世界中の都市部を中心に人気が高まっている。
「メッセンジャーたちが、仕事の後にプレイしたのが始まりです」と話すのはジュリアン・アリステオ氏。彼はグラフィックデザイナー出身の自転車整備士で、シアトルを代表する三人編成のチーム「the Gnarcats」のメンバーだ。バイクポロは通常男女混合でゲームをすることが多いのだが、今回のピッティでは全チーム男性のみ。「やっぱりメンズファッションの展示会だからね」とアリステオ氏。
「メッセンジャーたちが、仕事の後にプレイしたのが始まりです」と話すのはジュリアン・アリステオ氏。彼はグラフィックデザイナー出身の自転車整備士で、シアトルを代表する三人編成のチーム「the Gnarcats」のメンバーだ。バイクポロは通常男女混合でゲームをすることが多いのだが、今回のピッティでは全チーム男性のみ。「やっぱりメンズファッションの展示会だからね」とアリステオ氏。
「the Gnarcats」の面々は、フランス、香港、日本、イギリス代表チームと同様にクリスチャン・ルブタンからの招待を受け、はるばるイタリアにやって来た。バイクポロの試合では、選手たちはTシャツとハーフパンツをユニフォームとして着用するのが一般的であるが、今回はルブタンの新作スニーカー「オーレリアン(Aurelien)」をチームごとに揃えた。「オーレリアン」はルブタン氏自身がカスタマイズし、靴づくりの本場・イタリアの伝統を受け継ぐフィレンツェ近郊の小規模な工房で生産されたものだ。
一足995ドルという価格のスニーカーが、バイクポロで一般的に使われるようになることは考えにくいが、今回注目したいのは別のところにある。それは、世界各国に200以上の店舗を展開するルブタンが、記念すべき大規模なイベントに、アメリカ北西部の文化的・経済的なアウトサイダーたちがプレイするマイナーなスポーツを選んだという点だ。
近年、リドヴィッジ・エデルコート氏などトレンド予測の大家たちは「ファッションはもはやアヴァンギャルドの一部ではない」と口を揃えて述べている。もちろん、実際にファッションがアヴァンギャルドの一部であったことなどない。むしろファッションは本質的に多くの人に支持されることを求めるものであり、その意味では体制順応主義的である。
しかし、ピッティ・ウオモの会場で行われた、目が飛び出るほど高価なスニーカーの発表会でさえも、昨今の社会的・政治的な流れに対する強い反発を示す、ラディカルなメッセージを発信する力を持っている。
「伝統的なポロと違って、バイクポロはものすごく民主的な競技だと思います。性別も国籍も問われません。バイクポロにはまるのは、アーティスト、デザイナー、グラフィックデザイナーなど、クリエイティブな分野の人が多い」と、フランスのチーム「Raclette Party」のメンバーであるフエゴ・トゥルーパス氏は言う。
一足995ドルという価格のスニーカーが、バイクポロで一般的に使われるようになることは考えにくいが、今回注目したいのは別のところにある。それは、世界各国に200以上の店舗を展開するルブタンが、記念すべき大規模なイベントに、アメリカ北西部の文化的・経済的なアウトサイダーたちがプレイするマイナーなスポーツを選んだという点だ。
近年、リドヴィッジ・エデルコート氏などトレンド予測の大家たちは「ファッションはもはやアヴァンギャルドの一部ではない」と口を揃えて述べている。もちろん、実際にファッションがアヴァンギャルドの一部であったことなどない。むしろファッションは本質的に多くの人に支持されることを求めるものであり、その意味では体制順応主義的である。
しかし、ピッティ・ウオモの会場で行われた、目が飛び出るほど高価なスニーカーの発表会でさえも、昨今の社会的・政治的な流れに対する強い反発を示す、ラディカルなメッセージを発信する力を持っている。
「伝統的なポロと違って、バイクポロはものすごく民主的な競技だと思います。性別も国籍も問われません。バイクポロにはまるのは、アーティスト、デザイナー、グラフィックデザイナーなど、クリエイティブな分野の人が多い」と、フランスのチーム「Raclette Party」のメンバーであるフエゴ・トゥルーパス氏は言う。
パルクールやヒップホップ、そしてグラフィティのタギングと同様、バイクポロもまたメインストリームな文化の外側で広まっていった。「バイクポロを初めて見たのは2006年でした。ニューヨークのローワーイーストサイドにある店の人たちが、ブルームストリートとクリスティストリートの角でプレイしていたんです。その瞬間から完全にはまってしまいました」と話すトゥルーパス氏。
そんなバイクポロだが、ある点ではまったく庶民的ではない。まだ発展中のこの競技で使われるボールは、手軽なプラスチック製だ。また、ボールを操るためのマレットと呼ばれるスティックも、既製品ではないがプラスチックとアルミのチューブを組み合わせたごく簡単なもので、いずれも低コストで揃えられる。しかしシングルギアの自転車は高価であることも多く、高いものでは1500ドルもすると、フランスのチーム「Call Me Daddy」のウィリアム・ジャンヌレ氏は教えてくれた。
そんなバイクポロだが、ある点ではまったく庶民的ではない。まだ発展中のこの競技で使われるボールは、手軽なプラスチック製だ。また、ボールを操るためのマレットと呼ばれるスティックも、既製品ではないがプラスチックとアルミのチューブを組み合わせたごく簡単なもので、いずれも低コストで揃えられる。しかしシングルギアの自転車は高価であることも多く、高いものでは1500ドルもすると、フランスのチーム「Call Me Daddy」のウィリアム・ジャンヌレ氏は教えてくれた。
クリスチャン・ルブタン氏を虜にしたバイクポロ
シアトルのアスファルトに覆われた駐車場で、顔ぶれもさまざまなメッセンジャーたちが集まって始めたバイクポロ。このスポーツの持つ普遍性にルブタン氏は強く魅かれたという。日本代表「Ninja Five」、フランス代表の「Call Me Daddy」と「Raclette Party」、イタリア代表「Treee」、アメリカ代表「the Gnarcats」、ドイツ代表「the Mohawks」、そしてイギリス代表「Sky High」と、世界各国の選手たちが自転車にまたがって雄叫びを上げながらサンタ・マリア・ノヴェッラ広場を駆け抜けていくのを見ていると、ルブタン氏の感じた普遍性がはっきりと感じられた。
フランス生まれのデザイナー、ルブタン氏は日ごろから水泳、空中ブランコ、ヨガなどを楽しんでいるという。「運動はかなりしているほうです。どんなスポーツであれ、スポーツはコミュニティや友情の形成を助けるものだと感じています」。
パリ12区の自宅でルブタン氏は、広い心や思いやりを持つことの大切さを母親から学んだと語った。「母はいつも『人から批判されたくなければ、他人を批判することを止めなさい』と言っていました。当たり前すぎる言葉ですが、今の世の中に欠けているのはこういうことではないでしょうか」。
フランス生まれのデザイナー、ルブタン氏は日ごろから水泳、空中ブランコ、ヨガなどを楽しんでいるという。「運動はかなりしているほうです。どんなスポーツであれ、スポーツはコミュニティや友情の形成を助けるものだと感じています」。
パリ12区の自宅でルブタン氏は、広い心や思いやりを持つことの大切さを母親から学んだと語った。「母はいつも『人から批判されたくなければ、他人を批判することを止めなさい』と言っていました。当たり前すぎる言葉ですが、今の世の中に欠けているのはこういうことではないでしょうか」。