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CULTURE

映画は誰のためのものか。
カンヌとNetflixが繰り広げる攻防戦

2017.07.10 MON
映画は誰のためのものか。カンヌとNetflixが繰り広げる攻防戦

時間や場所を問わず映画を楽しめると、HuluやAmazonプライムといった動画配信サービスが世界的に盛り上がりを見せている。しかしカンヌにとってその動きはあまり好ましいものではなかったようで、最大手のNetflix作品がカンヌから締め出されることになった。

(読了時間:約5分)

Text by Rachel Donadio
Translation by Maki Nishida
© 2017 THE NEW YORK TIMES
© Tomas Sentpetery/500px/amanaimages

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カンヌの舞台から排除されたNetflix

フランスには、映画関係者にとってパラダイスといえるシステムが存在する。国内の映画産業に対して多額の補助金を支給するというものだ。一方、「Netflix」という会社が、「映画館は過去の産物」であるというコンセプトのもとに、動画配信サービス事業を始め、今では最大手としてグローバルに事業展開をするに至った。そして、フランスの映画産業と「Netflix」が今年の「カンヌ・フィルム・フェスティバル」(以下:カンヌ)で衝突した。

「Netflix」の二作品であるノア・バームバック監督の『ザ・マイヤーウィッツ・ストーリーズ(The Meyerowitz Stories)』と、ポン・ジュノ監督の『オクジャ(Okja)』が今年のカンヌのパルム・ドールにノミネートされると、フランスの映画産業から非難が上がり、カンヌの選考委員会は方針を一変させた。来年からフランスで劇場公開されない作品についてはカンヌのコンペティションへの参加を認めないとしたのだ。

このカンヌの対応は、世界各国で「Netflix」の排除と受け取られたが、フランス国内では映画文化を守るための栄誉ある措置だとして歓迎された。

そもそもカンヌと「Netflix」の関係がうまくいかないことは、フランスにおいて国家が自由に文化政策を決定する「文化特例」の存在に起因している。この特例によりフランス映画は保護されているのである。

たとえば、事業者は映画館、DVD、オンデマンド、テレビ、動画配信から得られる利益のうち、一定の割合をフランス映画の制作や外国映画への援助のために収めなければない。さらに劇場公開から36ヵ月を経なければ、動画配信できないという規定もある。「Netflix」はこのシステムに参加することを拒否しているのである。また、そのことで「Netflix」への反発を強めるフランスの映画業界人も少なくない。

映画制作の公的資金補助をとりまとめ、カンヌの運営予算の半分以上を融資し、カンヌの選考委員会のメンバーでもあるフランス国立映画センター(CNC)のディレクター、クリストフ・タルデュー氏は「Netflixのやり方はアメリカの文化帝国主義の最たる例だ、遺憾を表明する。彼らはフランスの文化特例がどのように機能しているのかを理解しようとせず、強硬な姿勢を示している」と語る。

「Netflix」の代表は、この件に関して沈黙を守っている。また、「Netflix」の共同創業者であるリード・ヘイスティングス氏はFacebookにこう投稿した。「僕たちに対してハシゴを外そうとする組織がある。6月28日にNetflixで『オクジャ』を観てください。この素晴らしい作品をフランスの映画館関係者は排除しようとしているのです」。

一方、同じ業界の「Amazon Studios」の考え方は「Netflix」とは対照的で、文化特例を受け入れ、フランスでの劇場公開を目指しているのだという。実際、「Amazon Studios」で制作されたトッド・ヘインズ監督の『ワンダーストラック(Wonderstruck)』はフランスでの劇場公開が予定されており、カンヌのコンペティション部門にも出品された。

映画評論家であり、ル・モンド紙のジャーナリストでもあるトマス・ソティネル氏は、「カンヌの関係者たちは、これほど大きな問題になるとは考えていなかっただろう」と話す。「カンヌの上映作品を決定する選考委員会は判断を誤った。しかし選考委員会は従来の規定を緩めることはないだろうし、『Netflix』も現状の文化特例は受け入れるつもりはないであろう。カンヌの関係者はこの2つの動かしようのない事実にお手上げ状態なのだ」。

フランスの文化特例では、作品の劇場公開から4ヵ月後にオンデマンド配信が可能になり、10ヵ月後にケーブルテレビ放送、22ヵ月後に無料のテレビ放送、そして36ヵ月後に動画配信サービスが解禁、と厳しいルールが定められている。一方、特例として「限定された一部の劇場でのみ公開する場合は適用されない」、とも規定されている。「『Netflix』はこの仕組みを利用して、フランス国内での劇場公開後すぐに動画配信サービスを行ってきた。しかし、カンヌの選考委員会はその手法が気に食わなかったのか、限定公開は劇場公開とは認めない、つまりカンヌの応募条件に満たさないと判断した」と、フランス国立映画センターは話す。

規制は正か悪か

フランス映画業界の多くの会社や機関は、いくらなんでも36ヵ月間は長過ぎると考えている。カンヌが「Netflix」の締め出しを発表するほんの数日前に、改定の議論が行われたそうだが、それも失敗に終わっている。

ルール改定を実現させるには映画館、プロデューサー、ケーブルテレビ局、民法各局、オンデマンド配信、組合など、多数の人々の承認を得なくてはならない。たとえば劇場公開を目的とした映画製作に資金援助をするカナル・プラスのようなケーブルテレビ局は、ほかのどこよりも早く自分たちの番組で放送したいと考えている。

フランスの映画館を取りまとめる国立フランス映画協会(FNCF)の代表代理人、マルクーオリヴィエ・セバーグ氏は「やっかいなのは、この融通のきかないシステムがうまく機能してしまっているということだ」と言う。

今回の「Netflix」に対するルール改定騒動は、フランス映画界内部が一枚岩ではないこと露呈させる形となった。劇作家・作曲家協会は、カンヌの騒動について「硬直的な組織が招いた混乱に過ぎない」という声明文を発表した。また、フランス脚本家協会は先日、「Netflix」を支持する声明を発表し、「こうした問題が議論されるようになったことは業界にとってよいことだろう」と述べた。

「『Netflix』の映画を、36ヵ月間解禁できないというばかばかしい規定があるが、簡単に解決でできない問題であることも理解できる。解決するための方法は一つ。次の文化大臣が保守的なフランス映画界に風穴を開け、公開まで3年も待たなくてよいような、時代に即した制度を作れるかどうかだ」と、作家協会の会長であるパスカル・ロガール氏は言う。

ロガール氏やその他関係者は、エマニュエル・マクロン大統領の新政府が、新しい制度をつくってくれることを願っている。そしてマクロン氏は、今週にも新しい文化大臣を指名する見込みだ。(※5月18日にフランソワーズ・ニッサン氏を文化大臣に任命)

※ この記事は2017年5月16日のTHE NEW YORK TIMESの記事を翻訳したものです。
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