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古き良き友のような大切な存在 ハリスツイードのジャケット

2017.05.22 MON
古き良き友のような大切な存在 ハリスツイードのジャケット

古き良き友のような大切な存在「ハリスツイード」のスポーツジャケット。今から20年ほど前にスコットランドのスカイ島で出会った思い出を中村氏が語る。

(読了時間:約3分)

Text by Takanori Nakamura
Photographs by Masahiro Okamura

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スコットランドで入手したツイードジャケットはモルト同様に、無骨で硬派でクセがある

このハリスツイードのジャケットは、今から20年ほど前に、スコットランドのスカイ島で買ったものである。スカイ島は、スコットランド北西部のヘブリディーズ諸島にある島で、シングルモルト・ウイスキーの聖地として知られるアイラ島も、この諸島に属している。

スカイ島にも一つだけ「タリスカー」というシングルモルトの蒸留所があり、そこの取材のためにこの島を訪れた。スコットランドには全域に100くらいの蒸留所があるのだが、アイラ島やスカイ島などで作られるものは、いわゆる「島物」と呼ばれて、愛好家たちに別格扱いされている。一つは味わいに特徴があって、大雑把にいって香りも舌触りもクセがとても強い。正直いって門外漢の方は、どこが旨いのか全くわからないかもしれない。今でこそ私も好んで飲むけれど、最初は先輩方の“有り難がり方の作法”すら理解できなかった──。

スカイ島をはじめヘブリディーズ諸島のガイドブックには、枕言葉のように「一日に四季がある」と書かれているのだけれど、行ってみてその理由がよくわかった。ともかく山頂のように天気がめまぐるしく変わるのだ。晴れ間だと油断していると一時間後には暴風雨なんてざら。その風が強いのなんの。「島では風の音で気がおかしくなる人がいる」、と地元の人はまことしやかに囁くのだが、たぶんそれは本当なのだと思ってしまうほど。

プロのあいだでは島のモルトの酒精を「潮風の香り」などと表現するけれど、あの環境の中で何年も樽熟成されれば、潮風も引きうつされてしまうのだろう。それが、都会の空調の効いたバーで旨いかどうかは別として。だから個人的には、島のモルトは室内で気取って飲むのではなく、むしろ天気の悪いアウトドアでこそ、その魅力が発揮される酒だと思っている。

英国紳士のようにツイードのジャケットを着こなす

同じようにハリスツイードのジャケットも、荒天でその威力を発揮するアイテムだろう。ハリスツイードもまた、島モルトと同じでスコットランドの島で作られるからである。

アイラ島やスカイ島の外側に、アウター・ヘブリディーズ諸島という島々があり、その島内で染色から紡績、手織りされた毛織り物だけがハリスツイードと認められる。島モルトならぬ「島織物」なのだ。

そして島モルト同様に、無骨で硬派でクセがある。重くて硬くて肌触りも粗いから、お世辞にも着心地がいいとはいえない。私も、あの旅先でなければ購入することはなかっただろう。島のあまりの風の強さと寒さで、東京から持参した華奢なブルゾンが全く役に立たないので、やむなく地元の小さな衣料品店で、すがるようにこのジャケットを手に入れたのであった。

袖を通すと、最初はダンボールのようにゴワゴワして馴染みも悪かった。それでも仕方なく、島ではずっとこのジャケットを着用したのだが、その無骨さゆえ冷たい風雨によく耐えてくれた。耐久性はもちろんだが、着てみてわかったことは想像以上に温かいことだ。何より頼もしかったのは、ハリスツイードが醸し出す表情が、スコットランドの風景によく馴染むことだった。英国のカントリー・ジェントルマンたちは、乗馬やゴルフやハンティングの際に、ツイードのジャケットを着す伝統があるが、彼の地でこれを着ていると、極東の異邦人にも一目置いてくれたのが嬉しかった。

あれから20年。都会で袖を通すことは滅多になくなったが、それでも自分の体に馴染んだこのジャケットは、古き良き相棒のような大切な存在になっている。今でも袖を通せば、スコットランドのあの潮風が薫ってくるような気がするのである。
アウター・ヘブリディーズ諸島の島内で染色から紡績、手織りされたものだけがハリスツイードと認められる
アウター・ヘブリディーズ諸島の島内で染色から紡績、手織りされたものだけがハリスツイードと認められる

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