VISIONARYMAGAZINE BY LEXUS

TECHNOLOGY

ウェルビーイング×テクノロジーの探究

2017.05.19 FRI
ウェルビーイング×テクノロジーの探究

「あなたは幸せですか?」。突然の質問に多くの人は戸惑うだろう。私たちには幸福についてまだ分かってないことがたくさんある。「ウェルビーイング」という概念とテクノロジーの発展によって、今後どのように人々が生き生きと生きられるか展望を示す。

(読了時間:約4分)

Text by Dominique Chen
Photograph by Kenshu Shintsubo

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「幸福」から「開花」へ

「今、あなたは幸せですか?」

 突然こう聞かれたら、多くの人は戸惑うのではないでしょうか。数時間という単位で考えれば、今朝の通勤時に見た新緑のおかげで、心が晴れやかになっているかもしれません。しかし1年というスパンで考えたら、新しいプロジェクトが難航していて、モヤモヤした状態が続いているかもしれません。でも、1週間前に出会った人の何気ない一言にヒントを得て、新しい局面が開ける希望が見えてきた、ということもあるでしょう。
 
 このように、人が幸福であるかどうか、ということにはさまざまな要因が異なる時間軸において関係しているので、一概には言えないものです。人によって幸福の定義は異なれば、しかもそれが瞬間的な感情なのか、持続的な状態なのかという時間軸の違いも考慮しないと、本質的なことは分かりません。生きることの目標が幸福の追求だとすれば、私たちは幸福についてまだ分かっていないことがたくさんあります。

 幸福については多くの研究や調査が行われてきました。国家が経済成長の指標として国民の幸福度を測ったり、企業が従業員のパフォーマンスを向上させるために福利厚生の充実に腐心したり。そうした実践を裏で支えてきたのは、心理学者たちの多様な研究です。

 なかでも、アメリカの心理学者マーティン・セリグマンは、「幸福」という単一指標は結果だけを指していて、そこに至るプロセスを含んでいないという欠陥に気づき、幸福に代わる「ウェルビーイング」という概念を打ち立てました。そして、それは5つの要素に支えられていると定義しました。この体系はポジティブ心理学という流派として、多くの研究者に参照されながら発展を続けています。
 
 5つの要素とは次のものです。

・ポジティブな感情
・何かに没頭できているかどうか
・良好な人間関係
・生きる意味と目的の充実
・達成感

 これらをセリグマンは独立して計測できるものとみなし、それぞれが充足することでウェルビーイングの度合いが高まるとしています。そして、こうした要素が刹那的ではなく、長時間持続する心の良い状態を「フローリッシュ」と名付けました。

 フローリッシュとは英語で「花が開く」という意味の動詞で、名詞形は「フローリシング」です。これは「才能が開花する」というニュアンスにかなり近いもので、心が充足していて、さまざまな能力を存分に発揮できている状態であるとも言えます。冒頭の、「あなたは幸せですか?」という問いは、ここでは「あなたは花開いていますか?」という問いに置き換えられます。

 大事なのは、これが数ある議論のうちの一つの定義であって、必ずしも普遍的に正しいことが証明されているわけではないということです。あなたはこの定義をどう思いましたか? なかなか的確だと思ったかもしれませんし、もっと違うものが関係していると思ったかもしれません。このテーマは今後とも活発に議論され、発展していくことが見込まれます。

 人が多様であるように、物事の捉え方、感じ方も多様である。それが、ウェルビーイングを巡る議論の難しさであると同時に、面白さでもあります。そしてテクノロジーの活用によって、私たちは自らの心の動きについてもっと深く知ることができるようになります。

ウェルビーイングとテクノロジーの関係

 私はこれまで、人の心に働きかけるWebサービスやスマホアプリを開発・運営してきました。そこで分かったのは、インターネット上の見知らぬ人同士でも、お互いを励まし合うことで、ウェルビーイングを上げるコミュニケーションが可能であるということです。同時に、多くのSNSでは、ネットいじめや炎上、フェイクニュースとヘイトスピーチなど、お互いのウェルビーイングが下がってしまう現象が起こることも分かりました。

 情報技術はこれから、VRやAR、人工知能やディープラーニング、IoTからブロックチェーンまで、さらに発展していき、私たちの生活に深く浸透していきます。テクノロジーによるイノベーションの必要性が多くのメディアで議論されていますが、ただ便利であるということだけが追求されてしまうと、人間が人間であるために大事な心の部分が削ぎ落とされてしまい兼ねません。その大事な部分とは、ウェルビーイングの観点から言えば、それぞれの人が自分の才能を花開かせられることにほかなりません。
 逆にいえば、こうした新しいテクノロジーを、人間の心と調和する形で使いこなすことが真のイノベーションにつながるのではないか。私が監訳を務めた『ウェルビーイングの設計論:人がよりよく生きるための情報技術』(BNN新社)は、この問いについて、過去50年以上の心理学の研究と、ここ10数年の情報技術の発展によって、今後どのように人々がいきいきと生きられるかということを考えるための展望を示しています。

 この探究の道筋には、人間の自律性とは何か、仏教における慈しみや苦しみという概念がどうテクノロジーと関係するのか、といった興味深い問いが含まれています。さらに言えば、ポジティブ心理学は個人主義が発達した欧米社会では有効だけれども、アジア諸国などの個人よりも集団を重んずる文化圏ではさほど有効ではないことも分かっています。その文化差を考えると、自分ひとりだけではなく、家族や友人、同僚や市民同士の関係性からも、間主観的なウェルビーイングを考えることが重要になってきます。
  
 人々が自分らしく、才能を発揮できるようになるための人工知能やゲーム、ソーシャルネットワークといったIT、そして建築や自動車といった物理的なプロダクトはどのようにデザインできるのか。この連載では、これから一層テクノロジー化する社会において、私たちがどのように花開いていけるのかということを、新しい情報技術をデザインする観点から考え、提案していきたいと思います。
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