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ドイツ最大級のベンチャー企業が
「パクリ」で得たもの、失ったもの

2017.05.17 WED
ドイツ最大級のベンチャー企業が「パクリ」で得たもの、失ったもの

他社のビジネスモデルのパクリで驚異的な成長を遂げたロケット・インターネット社が得たものと失ったものとは。名実ともに欧州を代表するネットビジネス企業についての事例から見えてくる、ベンチャー企業がとるべき戦略とは?

(読了時間:約5分)

Text by Yuya Oyamada 
Photograph by Bloomberg / gettyimages
Image Credit※1

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ロケットのような猛スピードで名実ともに欧州を代表するネットビジネス企業に

ベルリンに「ロケット・インターネット」という会社がある。2007年に設立されたネットビジネス関連の企業だ。グローバルで事業を展開し、同社に関連する企業は世界で3万6000人を雇用している。

創業から10年も経たないうちに驚異的な成長を遂げたロケット社だが、同社は常に、さまざまな毀誉褒貶にさらされてきた。その理由は、ロケット社のビジネスモデルのほとんどが、他社のコピーで成り立っているからだ。具体的には、アメリカのIT企業のビジネスモデルがネタ元だ。

例えば、ヨーロッパ最大のファッション通販サイト「zalando」は、アメリカのザッポスのコピーだし、東南アジアの「LAZADA」はアマゾンが元ネタだ。zalandoは時価総額50億ユーロにも上り、ラザダは中国のアリババが東南アジアへの事業進出に際して10億ドルで買収した。

このほかにも、アマゾンのアフリカ版コピーである「JUMIA」、Airbnbのコピーであり日本でも事業を展開する「WIMDU」、グルーポンのコピーである「CITY DEAL」、イーベイのドイツ版である「Alando」など、こうしたクローン企業は何十社にも及ぶ。

ロケット社の社是はシンプルだ。「アメリカと中国以外の地域で」世界最大のネット企業になること。こうした競争の激しい地域で人気となったサービスを誰よりも早くコピーし、それ以外の地域で展開させる。特にアジア、アフリカ、ラテンアメリカなどのネットサービス後進国を重視し、本家が進出する前に市場を制圧してしまう。

創業者はドイツ人のマルク、オリバー、アレクサンダーのザンバー3兄弟。次男であり現CEOのオリバー・ザンバーは、ビジネススクール在学時にアメリカのベンチャー企業のビジネスモデルを徹底的に研究し、『もっとも成功しているアメリカのスタートアップ企業から学べること』という論文を発表している。

ロケット社のビジネスモデルは、日本でいう「タイムマシン経営」に近い。アメリカでブームになったITベンチャーのビジネスモデルは、数年後の日本でも必ず流行る。だから、その知見をアメリカから持ち帰り、まだ誰も注目していないうちに立ち上げる。実際、日本のネット企業の多くが、こうした起源を持つ。

つまり、海外のビジネスモデルのコピーという戦略に特段の目新しさはない。ただ、ロケット社は「他社の研究→コピー→リリース」というスピードが、他社の追随を許さないほど圧倒的なのだ。

フランスの「ロプス」誌によると、コピー企業の設立にかかる時間はたった100日。わずか3ヵ月半でサービスをローンチするだけでなく、宣伝戦略まで立案する。ローンチから9ヵ月が経っても成長の目処が立たない場合は即撤退という徹底ぶりだ。「同じプロジェクトに半年以上取り組む人間は、ロケット社にはいない」と同誌はリポートしている。

いわば、グローバルな規模で起業のPDCAサイクルを高速で回し続けているというわけだ。

その結果、ロケット社は2014年にフランクフルト証券取引所に上場。「過去10年のドイツ市場で最大の上場案件」と呼ばれ、時価総額は最高で60億ユーロにも達した。まさしくロケットのような猛スピードで、名実ともにヨーロッパを代表するネットビジネス企業となったのである。

3年足らずで時価総額が半分以下へと落ち込んだ理由

……と、以上で話が終わればコラムとしてきれいなのだが、現実は複雑だ。

というのも、現在のロケット社は上場からわずか3年足らずで時価総額が半分以下へと落ち込んでしまっている。いくつかの有望とされたコピー企業が成功に至らなかったことが原因とされるが、同社の本質は、ざっくりいえば「数撃ちゃ当たる」。失敗する時期があるのも投資家たちには折り込み済みのはずである。

思うに、成長が鈍化した理由として大きいのは、元社員や元幹部らが、こぞってメディアでロケット社に批判的な発言をしているからだ。

ネットで検索してみてほしい。「給料が不当に安い」「人材を使い捨てている」「コピーには限界がある」……。ロケット社を紹介するほとんどの記事には、関係者たちによるネガティブなコメントがそえられている。どうしてこんなことになったのか?

すでに流行ったものをコピーし、まだ展開されていない市場に投下する。それを幅広いラインナップで行い、会社全体として高速でヒットのPDCAサイクルを回していく。こうしたビジネスモデルは本来、製品単位で行われる。「コピーキャット」と揶揄されるロケット社だが、彼らに天才的な発見があるとすれば、この方程式が企業単位でも通用すると証明したことだろう。

ただ、製品は失敗しても簡単に撤収できるが、会社で働くのは人である。「成功が見込めないので素早く撤収」という決定は、ロケット社にとっては「避けられない失敗のひとつ」かもしれないが、実際に各地で働く人々にとっては、端的に失業にほかならない。

そんなにあっさりと切り捨てられたんじゃ、とてもやってられない――。そんな声が出ても不思議ではない。結果、ロケット社に協力しようという人が減っていき、社員の忠誠心も薄くなる。「起業の高速PDCAサイクル」という成功の方程式が、そのままリスク要因にもなってしまったのだ。時価総額の大幅な減少は、その点が見抜かれた影響が大きいと思う。

これからロケット社はどうなるのか? 良い予測としては、コピー企業で働く人々も自社に誇りが持てるよう、人への投資を重視するように変わっていくことが考えられる。攻勢から治世へ。最初はイケイケだったベンチャー企業も、成長するに従って、こうした現実的な道筋をたどることは珍しくない。

一方の悪い予測としては、往々にして利益優先型の企業は、苦境に陥るとPDCAサイクルのスピードをもっと上げようとする。どんどんどんどん事業を立ち上げては潰し、また立ち上げ……というように、「数撃ちゃ当たる」の発想をマシンガンで行うようになる。

もちろん、それでも数々の失敗を覆すような成功が出れば問題ない。しかし、もし運悪く、当たらない時期が何年か続けば……。そこから先は言うまでもないだろう。

ロケット社は今、その真価が問われている。

※1:画像はロケット・インターネット創業者兄弟の次男であり現CEOのオリバー・ザンバー氏
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