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空と地上、 想像を超えた2つの世界

SUPER GTは、日本で最も多くの観客を集める華やかなレース。8月初旬に富士スピードウェイで開催された第5戦にも、2日間で計6万人以上が訪れた。
そしてその6万人は、レースだけでなくもうひとつの人間離れした技に固唾を飲んだ。世界的なエアロバティック(曲技飛行)のパイロットである室屋義秀選手が、圧巻のフライトパフォーマンスを披露したのだ。
急上昇と急降下、きりもみ回転、ホバリング……。室屋選手は大空に、自由自在に絵を描いた。そして、富士スピードウェイの1.5kmに及ぶストレートでは、走行する5台のLEXUSのわずか上空を飛ぶという“競演”を果たした。
空と陸とが交わる「CROSSING Special Flight @ FUJI SPEEDWAY」の興奮が冷めやらぬなか、室屋選手を迎えて、知っているようで知らないヒコーキとクルマの共通点や違いを紐解くトークショーが始まった。

クルマのウィングと、飛行機の翼はどこが違うのか


LEXUSとパイロット室屋選手がなぜコラボレーションを行うか、疑問に思われる方もいるかもしれない。もともとは、ほとんど飛行機の経験がなかった室屋青年が単身アメリカに乗り込み、世界チャンピオンを目指すというチャレンジスピリットにLEXUSが刺激を受けたところから始まった関係だった。

それが発展して、技術的な意見交換も行われている。
エアロバティックの技術や経験を取り入れることで、LEXUSはこれまでにないエキサイティングなクルマづくりに挑もうとしているのだ。

トークショーでは、室屋選手と競演した5台のレクサスの走行指揮を執ったドライビングディレクターの坂本雄也氏も登壇した。海外経験が豊富な現役のレーシングドライバーでもある坂本氏を交えて、クルマと飛行機の「走る・曲がる・止まる」を比較するというテーマから、トークショーはスタートした。

走る(飛ぶ)という点において、クルマと飛行機はある意味で対照的だ。SUPER GTを戦うLEXUS LCがリアに大きなウィングを備えている理由を、坂本氏はこう説明する。
「200km/hの速度で曲がるには、空気の力でクルマを地面に押さえつける力が必要です。これをダウンフォースと呼びますが、ダウンフォースを発生させるためにウィングが必要なのです」
SUPER GTの車両のダウンフォースは約1トン以上にも及び、この空気の力で驚異的なコーナリングスピードを実現しているのだ。

一方、飛行機の場合は風の力で機体を浮かせるのだと室屋選手は語った。
「飛行機の翼は風の力を受けて揚力を生み、この力で飛ぶことができます。だから翼の形は重要です。通常の飛行機の翼はレーシングマシンのウィングのように上下(表裏)のどちらかが跳ね上がっていますが、曲技飛行で使う飛行機は逆さになって飛んでも揚力を発生するように設計されています」

地面に押さえつける力と、地面から浮き上がる力。方向は逆であるけれど、風の力を利用して異次元のパフォーマンスを引き出すという点では、クルマと飛行機は共通していると言えよう。

パイロットもドライバーも、一流のアスリート


続いて、「曲がる」という点について、室屋選手はクルマと飛行機の違いを語ってくれた。
「クルマの場合はタイヤが地面とグリップしますが、飛行機の場合はほとんどグリップというものがありません。じゃあどうやって曲がるのかというと、機体を傾けて、翼の力を使って曲がります。オートバイのようなイメージ、あるいはかつて富士スピードウェイにあった超高速バンクを走るのに似ているかもしれません」

そして話は「止まる」という話題に。SUPER GTのGT500マシンは富士スピードウェイの第1コーナーで、時速300㎞/hの速度から、わずか80~90メートルで時速80㎞/hまで強烈なダウンフォースとカーボンブレーキによって減速するという。では室屋選手の乗るエアロバティック機の“ブレーキング”はどうなのか。

室屋選手は、「飛行機の場合はそもそも止まるという行為が非常に難しく、時速200㎞/h以下では飛行するのが困難なんです」と続けた。
「減速は飛行機にとってとても難しいアクションなので、坂本さんが運転するLEXUS LCと僕の飛行機が交差する『CROSSING』(リンク)というムービーを作った時も、(一定の速度でフライトすることを前提で)ここには何分何秒で到達するというフライトプランを綿密に作って、常に計算しながら飛行しました」

ちなみに飛行機を低速で飛ばすことは非常に難しいということだが、富士スピードウェイのホームストレートで5台のLEXUSと編隊を組んだ飛行時も、車の速度に合わせるべく、操縦桿、ペダル、左手のスロットルを絶妙に操作しながら、推力を上に少し向けて風をはらませることで、ぎりぎりまで機体を傾けて180km/h程度の低い速度を維持したとのことだ。いかに室屋選手が複雑な操作をしているかがわかるだろう。

気持ちよさそうに飛んでいた、という声に、室屋選手はこう答える。
「実は10Gくらい、つまり自分の体重の10倍ぐらいの力がかかって苦しいので、ウォーッとか叫んでいます(笑)。シートベルトが身体に食い込んで、アザになるんですよ。6Gを超えると心臓の力で脳に血液を送ることができなくなって、3秒ぐらいで失神してしまう。だから事前に酸素を回しておく必要があります。心拍も相当上がりますね」

この発言を受けた坂本氏は、こう続けた。
「レーシングマシンでも4Gや5Gが最高ですから、10Gは過酷ですね。われわれレーシングドライバーも、レース中の心拍数は平均で180ぐらいだから、スポーツ選手の中でもかなり高いほうなんですよ」

一流のマラソン選手でもレース中の平均心拍数は160程度だとされるから、レーシングドライバーの心拍数は相当高いと言えるだろう。レーシングドライバーとパイロットは、マシンをコントロールする技術を持っているだけでなく、アスリートとしても一流なのだ。

LEXUSと室屋選手のコラボレーションは続く


世界の頂点を極めた室屋選手だが、意外なことに、満足できるフライトはめったにないのだという。
「自分の技術の追求というのは終わりがなくて、この年齢になって研究をさせてもらえるのはありがたいですね」

一番好きな空はどこかを問われると、こんな風に答えた。

「やっぱり日本の空がいいと思います。特にこのあたり、静岡の空は晴天率が高くていつも景色が美しく、富士山も見事です。本当にきれいで飛びやすい場所です」

富士スピードウェイを走るLEXUSと、その少し上を飛ぶ室屋選手。これは見る人に驚きと感動を伝えるのと同時に、互いに協力して高め合い、終わりのない道を歩んで行こうという意思表示でもあったのだ。