CROSSING TALK SESSION 室屋義秀 × 野村忠宏 Powered by Number Web

好きなこと、だから続けられる

世界の頂点から見える風景とは、いったいどんなものだろうか?
普通の人が決してたどり着けない頂で、そんな稀有な景色を眺めることができた日本人は、決して多くはない。
エアロバティック・パイロットとして、いくつものショーやレースで活躍してきた室屋義秀と、五輪3連覇をはじめ、国内外で輝かしい実績を残してきた柔道家・野村忠宏。
この2人はそんな数少ない“頂点を知る”男たちだ。
両人の話を聞いていると、空の上と畳の上という戦うフィールドこそ違えど、王者として、ひとりのスポーツマンとして、紡ぐ想いにはどこか重なる要素が見えてくる。
対談の後編では、2人の世界王者だけが知る大舞台での重圧の大きさと、それぞれの後進育成論も語ります。

室屋 五輪で金メダルを獲ってからは、競技への取り組み方や精神面など、やはり変わりましたか?

野村 やっぱり変わりました。キャリアや実績を重ねていくことで考え方も変わってきましたし。でも、何度も五輪や世界大会を経験したので「大きな大会は慣れてるでしょ」と思われることも多いんですけど、あれは慣れるものじゃないですね。やっぱりどの大会も「負けたらどうしよう」という気持ちがあって。もちろん勝つために最高の準備はします。でも、やっぱり試合直前になると「もし負けたら……」という不安しかなくて。
試合の前日はいつも2時間、3時間、寝たか寝てないかわからないくらいで、常に恐怖を感じていました。

室屋 僕は高校の授業でやったことがある程度なんですけど、柔道ってすごく厳しい印象があるんです。トレーニングも含めて、肉体だけを使った格闘技なので、本当に厳しい世界で生きてらっしゃるんだろうなと思っていました。特に柔道の場合は世界大会での重圧というのも半端じゃないでしょう。

野村 そうですね。日本代表として柔道で戦うというプレッシャーは確かにものすごいものがあります。優勝、金メダル以外は認められない空気が未だにありますし、なによりも選手自身が金メダル以外を求めていない。外部から受けるプレッシャーもあれば、自分で発するプレッシャーもあるんですけど、ただ、プレッシャーを感じられる幸せというのもあるんですよね。重圧というのは、期待の裏返しなので、自分自身に期待があるから重圧がかかる。だからこそ、競技者として生きてきた中で「プレッシャーを感じなくなったらおしまいだな」とは思っていました。室屋さんは大事なレースの前とか、集中するためになにかやりますか? それともそういうルーティーンはなく、自然体で入られますか?

室屋 試合に向けてはしっかり集中しますね。朝からしっかり座って、心の整理をする。レース中に意識をどう保つかとか、集中状態をどうやって作り出すかとか、いろんなシュミレーションをしますね。「集中した」という感覚も含めて、必ず朝にリハーサルをしてから試合会場に向かいます。野村さんはそういうのあります?

野村 私の場合は試合の畳に上がる直前にトイレに行って、自分の表情を見ます。やっぱりアスリートというのは、勝つときって周りから見てもいい顔しているんですよ。「なんかこの人勝ちそうだな、今日はすごく良い表情しているな」と思われる。だから本当に自分が戦える顔をしているか、勝負する目をしているのかというのを確かめにいきます。それを見て、顔をバシーンとたたいて勝負にいきます(笑)。さっきもいったように恐怖心やプレッシャーって絶対にあるんですよね。でも試合当日、畳に上がる時にその気持ちを引きずっていたら絶対に勝てない。なのでやっぱりどこかでそれを断ち切る作業というのはします。好きな柔道をやる以上、絶対に勝ちたい気持ちはありますから。

やっぱり好きなことだから頑張れる。


室屋 やっぱり好きなことだから頑張れる部分はありますよね。自分にとっても飛行機というのは「好きなこと」なんです。この年まで楽しみを続けられているだけという感じで、とても幸せだなと思います。もちろん訓練とか、日々の積み重ねというのは辛いことの方が多いです。でも、一歩自分の限界を超えた瞬間だとか、世界の舞台で勝負に勝った瞬間とか、そういった時の嬉しさというのは、積み重ねて来たぶんに比例した大きさがあると思うので、それを味わっているから未だに競技を続けていられるんだと思います。

野村 たしかにそれはそうかもしれません。よく「モチベーションを維持する方法」を聞かれるんですけど、現役時代はそういう方法自体が必要ないと思っていました。柔道を選んだのも自分だし、世界を目指すチャレンジをしたのも自分。40歳まで現役を続けたのも、全て自分で決めたことなんですよね。人に言われてやったことじゃないし、人に決められた道でもない。やっぱり「柔道が好き」という気持ちがあって、挑戦したい気持ちがあった。その中で地獄みたいな苦しさも味わったけれど、おかげで誰も経験出来ないような感動や喜びにも出会えた。だから、モチベーションをあげなきゃ行けないと思うようであれば、もう引退したほうが良いというくらいの気持ちで柔道をやっていました。

室屋 それは全く同じですね。だから「なんでそんな大変なことを続けられるんですか?」と言われても自分の中では「遊んでいるようなものだしなぁ……」というところもあって(笑)。みんながテレビゲームや携帯ゲームをやっているのとそんなに変わらないと思います。なんか、楽しいからやっているだけなんですよね。

野村氏は自身が大切にするコトバ“執念”のメッセージを室屋選手の応援カーに残した

「道」を極めるというのは、すごくいい。


野村 もちろん五輪で優勝した時の満足感や達成感でちょっと気持ちが落ちる瞬間もありますけどね。でも、やっぱり柔道が好きだから、チャレンジしたいと思う。夢があるから、また自然とモチベーションや気持ちは上がっていく。それが自分にとっての柔道だから、やっぱりそれは特別なものだったんですよね。

室屋 もちろん目標達成までの過程としては、苦しい場面もありますけど、まぁ面白いからやっているということに尽きますよね。意外と多くの人が「あなたの好きなことは何ですか?」と聞くと、ハッキリと答えられない。自分の心の中を覗いてみて何が好きなのかさえ分かってしまえば、その道を追い求めていくと、好きなことから近い場所で生きていくことは意外とできるんじゃないかな、という風には感じています。

野村 だから本当に自分らは幸せものですよね。

室屋 いや、本当にそう思います。好きなことがパッと見つかって、その道だけで生きていられるというのは、本当にラッキーだなと自分も思います。これからの世代の選手や子どもたちにも、ぜひそういう好きなものを見つけてほしいですね。野村さんも今は現役を引退されて、後進の育成にも携わっていらっしゃると思いますが……。

野村 そうですね。柔道というのは競技でもありますけど、「道」という字がつきます。「道」というのは自分が競技を引退したからといって、柔道家としてのチャレンジが終わりというわけではない。これからは自分の経験を伝える。技術もそうだし、これまでの選手生活で見えた心の部分であったり、礼節の部分、感謝の部分、教育的なところも子どもたちには伝えていきたいですね。そして、そういう中に自分も新しい発見があって成長があると思います。常に学び続け、自分自身を高め、磨き続けることが「道」だと思っているので、そういうことを考えながら、色んなことを伝えていきたいです。

室屋 柔道を見ていて思っていたのは、競技として強くなるだけじゃなくて「道」を極めるというのがすごくいいなと。操縦技術もそういうことなのかなと思っています。僕は現役でまだやっていますけど、あまり現役かどうかは関係なく、「道」という部分では、柔道でいう段位がどんどん上がっていく。勝負だけではなく、後進を指導することで学ぶことがたくさんあるんだと思います。スカイスポーツというのは、まだ非常にマイナーなものなのでもっと広めていきたい。特に若い子どもたちに飛行機について知ってもらって、そこから選手たちが出て来てくれれば良いし、とにかく広く知ってもらうという活動をしていくのが、今後の自分にとって使命なのかなと思っています。



今回対談の会場となった「LEXUS MEETS...」は、東京ミッドタウン日比谷にあるブティック、カフェ、車両展示・試乗が一体となった、体験型施設です。LEXUSのあらたなライフスタイルを体感できます。