CROSSING TALK SESSION 室屋義秀×小山宙哉 Powered by Number Web

人はいつだって、「そら」に憧れる。

自分たちの力だけでは手の届かない、遠い場所だからこそ、その美しさや不思議さに多くの人が思いを馳せるのだ。
エアロバティック・パイロットとして、いくつものショーやレースで活躍してきた室屋義秀と、現在「モーニング」で宇宙飛行士たちの生き様を描いた『宇宙兄弟』を連載中の漫画家・小山宙哉。彼らもそんな「そら」に魅せられた人間のひとりだ。
ジャンルは違えど、地上から遠く離れた世界を舞台にして活躍する彼らが目指すものとは、一体何なのだろうか。
対談の後編は、2人が続ける新しいものへの「挑戦」と、これからの未来について語ります。

『新しさ』への挑戦は続く


小山 漫画の場合は常に、過去の作品で描いていないものを描かないといけないというのが大変ですね。セリフにしても他の作品で言われていることを言ってもしょうがないので、毎回新しい「気付き」をできるだけ作りたい。でも、それが難しい。

室屋 新しいものへの挑戦はなかなか大変ですよね。我々も過去にある技へのちょっとした上乗せなんですけど、テクノロジーの進化やテクニックの向上も含めて、何か新しいことができないかと考えていて。「もう進化なんかできないんじゃないか」と言われることもあるんですけど、世界中でそういうことを考えている人が大会とかで集まると「うわ、こんなことがまだできたのか」という技が出たりする。そうするととても面白いですよね。無理と思われているところを超えて、ブレイクスルーがあると、面白味がありますね。

小山 飛行中に「こんなことあるんだ」みたいな新しい気付きを感じる経験も有りますか?

室屋 やっぱり技を見せるときでも「こうはできないだろう」という部分を、いろいろ計算して考えていくと「あれ、できるかもしれない」という風になって試せることもある。もちろん、なかなかうまくいかないですよ。スピードとか、タイミングとかいろんなものが合わないと上手くいかないんですけど、でもそういうものがスパッと入った瞬間というのは、面白いですよね。

小山 ちなみに飛行中に回転している時は上下や左右は分かるものなんですか。

室屋 最初は分らなかったんですけど訓練を重ねて段々慣れてきて、いまはわかりますね。新しい技とかをやると、ポーンと思わぬ方向に回ったりして、一瞬「アレッ」という時は有りますけど。どこかで地面を目が探しています。ショーの演出でぐるぐる急回転とかもありますからね。

小山 そこはトレーニングの賜物なんですね。

ロケットの打ち上げを見た時の感動。


室屋 そういえば実はウチのおじいさん、種子島出身なんですよ。それもあって小さいころは夏休みに種子島に毎年行っていて。だから本物のロケットの打ち上げを何回か見たことがあるんですよね。島には宇宙の博物館とかもあって、毎日10kmくらい自転車漕いで見に行っていました。ロケットの打ち上げを見た時の感動はいまでも覚えていますね。火の玉が飛んでいって、すごく迫力があった。

小山 まぶしいですよね、打ち上げの瞬間。

室屋 だんだんロケットが見えなくなって、火の玉だけが見える。小学生だったけど夜中に1人で見に行っていましたよ。打ち上げの失敗も何回か見ましたね。ポッと光っただけで終わっちゃったこともあったなぁ。

小山 そういう経験もあったんですね。本当に漫画的な体験だなぁ。失敗といえば、室屋さんは事故がない、という話を聞いています。『宇宙兄弟』では月面で失敗が起こりまくっているんですが(笑)、どうしたら事故なく競技ができるのですか?

室屋 月面だとまた地球上とは違って状況が難しいですよね(笑)。でも、たしかに作品を読んでいて飛行機と「似ているな」と思う部分もあります。例えば作中では、確かに事故は起こっていますけど、完全にミッションが失敗してしまう「破局」には至っていないじゃないですか。あれって、セーフティネットを何段階も張っているからこそ、助かっているというふうに僕は読んでいるんです。アクシデントは環境の変化とかで、どうしても多少は起きる。あとはそれが「破局」にいたるかどうかなんだと思うんです。

危険回避のために策を講じておくことが重要。


小山 アクシデントを大きな事故につなげないようにすることが重要なんですね。

室屋 飛行機では事故には3段階あると言われていて、1段目の枠、2段目の枠を超えて、3つの要因が一気に来ると「破局」になるとよく言われています。破局の前の「インシデント」といわれる状態というのは、我々ももちろんあります。でも、その状態でいかに破局させないかが大切。飛行機というのは必ずそういう風に設計がされているわけです。

 例えば急に天候が悪くなれば、これは1個の大きな要因に成り得ます。でも、それを大事にしないために計器があったりいろんな補助システムがあったりする。ところがそこでパイロットの技量がないと状況がさらに悪くなって、最後にさらにもう1つ、エンジンが止まるとか、そういうことがあると破局にいたる。

 だからこそ、常にある意味でネガティブ人間というか「これが壊れたら」「あれが壊れたら」という風に悪い想定をいっぱいしておくんです。宇宙開発とか月に行くとか、そういうものも同じ感じだと思います。あれこれ壊れるし、太陽フレアが出たり、いろんなことが起こります。でも結構な防御網が何段階もあるから、何とかなっている。そういうことだと思います。

緊急時は自力でパラシュートを開く。


小山 ちなみに飛行機だと最終脱出手段はよく映画で見るような、操縦席からバシュッと飛び出すパラシュートなんですか?

室屋 僕らはああいう装置はないんです。戦闘機とかにはついているんですけど、競技用の飛行機は軽量化しなければいけないので。パラシュートは背負っているんですが、飛行機からは自力で脱出ですね。だから僕らはスカイダイビングのトレーニングもしています。

小山 イスで飛び出すんじゃなくて……。

室屋 僕らの飛行機のキャノピーは開けると吹き飛ぶようになっているので、キャノピーを吹き飛ばした後にシートベルトを外して自分で飛び出してパラシュートを開くんです。だから高度が低ければ、パラシュートを開くまで1秒、2秒しかないときもあります。

小山 本当にギリギリの状況なんですね。1度、スペースシャトルのコクピットに見学で座らせてもらったことがあるんですけど、その時にも周囲に操縦パネルや、計器がたくさんあって。音速の世界の中で、そういうものを操作しながら頭を使うというのは本当にすごいと思います。

進路決定のヒントにしてもらいたい。


室屋 そういった色んな機器も活用しながら危機を回避する策を講じておくのが大切だと思います。『宇宙兄弟』でのアクシデントも、そういった策は機能しているのかなと。まぁ一読者としては、そんな難しい状況の中で作品がこの先どうなっていくのか、次を気にしながら待っているだけなんですけど(笑)。

小山 物語自体は終わりに向かってはいる段階なので、読者のみなさんには頑張ってついて来てもらえると嬉しいですね。とはいえ毎回延びるので、すぐに作品が終わってしまうわけではないですが……。室屋さんは今後のご自身のビジョンはどうお考えなんですか?

室屋 自分は「操縦技術世界一を目指す」ということでずっとやってきました。その結果として2017年にはエアレースでワールドチャンピオンを獲れ、競技者としては幸せなところでやらせてもらえていると思います。自分自身はどうやって戦って、どうやって準備をすればいいのかということがわかってきているつもりなので、これからは次の世代にどうやって繋ぐかというのが課題だと思っています。ちょうど今年から小3から中2の子たちを対象に子ども向けの教室も始めていて。

小山 その子たちも飛行機に乗るんですか?

室屋 まだ乗らないですけど、考え方とか準備の仕方とか、そういう部分を勉強してもらいたいと思っています。その後の自分たちの進路決定のヒントにしてもらいたいと思っていて。そういう活動を通して、徐々に飛行機に関わる人が増えてくれるといいなと思っています。