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March 07, 2019 UPDATE
LEXUSのライフスタイルマガジン
「BEYOND BY LEXUS」写真展&トークショー開催
January 24 Thu 19:00 START
2019年1月下旬〜2月上旬、「INTERSECT BY LEXUS – TOKYO」の1Fガレージで、LEXUSのライフスタイルマガジン「BEYOND BY LEXUS」のISSUE12、13の誌面を飾った写真をピックアップした写真展を開催しました。会期に合わせて、5日間に渡って会場を賑わせたのが、豪華メンバーが集ったトークイベント。各誌を手がけた旅人であり編集長らスタッフが、5日間日替わりで登壇し「BEYOND BY LEXUS」の内容や取材時のサイドストーリーを披露。第1回から第5回まで毎回繰り広げられた、濃密なエピソードが詰まった充実の時間を、ダイジェストで紹介していきます。
7つの旅をそれぞれ約20ページの1冊に詰め込み、7冊を合本にした「BEYOND BY LEXUS」は、日本の「唯一無二な時間をクルマで探る、ワン・ディスティネーション・マガジン」。2019年3月には「北海道」「東北」「神奈川(江之浦測候所)」「長野」「瀬戸内」「九州」の旅を収録した最新号ISSUE13を発行しました。2018年7月にリリースしたISSUE12と合わせて14冊全14の旅には、各地に強烈な思いを抱く旅人として、それぞれ異なる人物を編集長に迎えました。各編集長の視点を携えて、クルマでしか巡ることのできない、日本各地の文化や歴史を巡る唯一無二な旅へと出かけています。
第1回 瀬戸内「SETOUCHI TRIP FOR CREATIVE SPIRIT」
ゲスト:大宮エリー
MC:河辺徹也(Lexus International)
個展の告知のため、急遽出演したラジオの生放送を終えて、会場に駆けつけた大宮エリーさん。「BEYOND BY LEXUS」の最新号、ISSUE13では「SETOUCHI TRIP FOR CREATIVE SPIRIT」と題して、瀬戸内の各地を巡りました。まずは、エリーさんと瀬戸内のつながりや、これまでに訪れた場所についての話から始まりました。
大宮:40歳の誕生日のとき、何か特別なことをしようとひとりで瀬戸内に行きました。瀬戸内の海は穏やかで、見ていると心も穏やかになるんですね。その時に初めて行ったのがイサムノグチ美術館でした。「エナジーヴォイド」っていう黒い石でできた作品があるんですが、今回の「BEYOND BY LEXUS」の取材では特別に撮影許可が出て、誌面には私が描いたエナジーヴォイドの絵も掲載しています。このトークイベントだけの内緒話としては、エナジーヴォイドの絵は2枚書いたんですね。1作目は、エナジーヴォイドまんまじゃないかと思われるような黒い枠を描いた作品で、その絵をスマホで撮影して友達2人に送ったら「いいじゃん」という返信と、「エリーらしくないね」という2通りの返事が返ってきました。「いいじゃん」という意見にはどうしても乗れなくて、誌面に掲載したのは、一度休養をとってから改めて描いた2作目。イサム・ノグチさんの思いのバトンを受け取るじゃないけど、私にとっても、次のタームにいくような作品になりました。
その後、話の舞台は香川県の直島に。エリーさんが絵を描くようになったきっかけと直島には、深い関係があるそうです。
大宮:2012年のモンブラン国際賞の授賞式で、なぜか人前で、人生初のライブペインティングをすることになったんです。会場で話した安藤忠雄先生の「飲んだらええんちゃうか」というアドバイスを受けて、赤ワインを飲んで描いた絵を見て、「最近、ピンとくる絵がなくて。でもこの絵はピンときた。楽しい気持ちになった」と言ってくれた方がいました。さらに、「この絵を買いたい」と言ってくださったのが、ベネッセの福武總一郎さん。その後、初の個展にも足を運んでいただきました。初めて行った美術館も直島の「ベネッセミュージアム」で、瀬戸内は私の今につながっている場所です。
そして、「BEYOND BY LEXUSには書いてないし、あまり教えたくない場所」として話してくれたのが、エリーさんが訪れた、瀬戸内にある2つの宿泊施設でした。
大宮:部屋から瀬戸内の海を一望できる香川県の「オーベルジュ・ドゥ・オオイシ」と、もうひとつ対極のような宿で気に入っているのが愛媛県の伯方島にある「料理旅館 せと」。せとのご飯は魚だけで、お肉は出ないんですよ。刺身に煮付け、焼き魚にフライと、あらゆる料理方法で新鮮な魚を楽しめます。
河辺:夕飯のメニューを聞いても、その日獲れる魚次第だから、直前まで教えてもらえないんだよね。宿から見た、潮の満ち引きはすごかったですね。
大宮:窓からの景色が、鏡みたいな、湖みたいな瀬戸内でした。早朝、海の色が刻々と変わるんですよね。真っ暗から群青色。私が最初に宿泊した時には、一瞬、緑になりました。その風景を絵にしたいなと思って、今回改めて行ったら緑にはならなくて、シルバーブルーやピンクみたいな色になりました。3年越しでその風景を描いて、作品にすることができました。これも「LEXUS BY BEYOND」に掲載しています。
続いて話題は瀬戸内海を渡り、中国地方へ。岡山県にある吉備津神社の鳴釜神事、通称「お釜占い」や、「広島風お好み焼き」という呼び方がNGという失敗談。山口県の隠れた銘菓「山口ういろう」のおいしさなど、さまざまなエピソードに触れたあと、「今度は作品づくりじゃなくて、のんびり行きたいですね」とエリーさん。最後は、こんな言葉で締めくくってくれました。
大宮:今回は形になるものを作れたし、とっても楽しかったです。みなさんもどこにも行くところがないなと思ったら、いつかエリーが瀬戸内って言ってたねって思い出して、足を運んでみてください。
河辺:瀬戸内を取り上げた「BEYOND BY LEXUS」は、エリーの言葉、エリーの表現、エリーの絵、エリーの写真でできています。本を読みながら、私がここに行ったらどう感じるんだろうなと思わせてくれる内容になっています。これをきっかけに、日本をもう一回見直してもらって、他のエリアにもぜひ目を向けてみてください。それが「BEYOND BY LEXUS」という雑誌の狙いです。それではみなさん、エリーさんに大きな拍手を。
第2回 九州「IN SEARCH OF LOST FABRICS」
ゲスト:吉田真一郎(美術家、近世麻布研究所所長)、桜井祐(エディター)
MC:河辺徹也(Lexus International)
この日、会場にやってきたのは、江戸時代の布を中心に自然布の研究を続ける、美術家であり近世麻布研究所所長の吉田真一郎さん。美術館ではすべてが展示ケースに収められてしまうほど貴重な古布を、「真の価値は手にとってみないとわからない」との理由から大量に携えて登壇。そんな吉田さんが編集長となり、九州各地の古布を追い求めた旅「IN SEARCH OF LOST FABRICS」について、編集を担当した桜井祐さんと話しました。
桜井:吉田さんが人生をかけて追求してきたのが自然布です。「IN SEARCH OF LOST FABRICS」は、植物の茎の皮や木の皮から採った「靱皮繊維(じんぴせんい)」で作った自然布をテーマに、九州を巡る内容。九州には、福岡県の太宰府に日本最古の自然布「葛布(くずふ)」が残っていたり、今回の取材で行った鹿児島県にある下甑島(しもこしきじま)で4着だけ見つかっている「芙蓉布(ふようふ)」があったりします。今回の取材で、吉田さんが一番印象に残っているのは?
吉田:奄美大島で見た「芭蕉布(ばしょうふ)」ですね。芭蕉はバナナの繊維で、沖縄は琉球王朝の頃からずっと繊維を扱ってきました。奄美大島の資料館に残っていたのが、絹と芭蕉の交織。普通は外部に見せていない代物のようで、今から200年ほど前、文化2年と書かれた箱に閉まってありました。
桜井:普通の芭蕉布の取材に行ったら、話を聞いているうちに、奥から出してきたくれたものですよね。芭蕉は沖縄や奄美大島で栽培されていることが多いですが、今回はエリアを九州に絞っていたので、LEXUSをフェリーに乗せて12時間、奄美大島に渡りました。
イベント中盤は、今売られている麻のほとんどが明治以降に日本に入ってきた「亜麻(リネン)」であるという話や、日本で古代から作られていた「苧麻(ラミー)」と「大麻(ヘンプ)」、「へそくり」という言葉の由来、江戸時代の「大麻布」の柔らかさといった、布にまつわる様々な逸話を吉田さんが紹介してくれました。吉田さんは話の途中、持参した布を「ぜひ触ってみてください」と来場者に手渡していきました。
桜井:こういう布は、普段は資料館のガラスケースに入っているような、なかなか触れないものですよね?
吉田:これまで10回ほど展覧会をやってきましたが、必ずみなさんに触ってもらえるようにしています。布は見るだけだと、表向きのデザインはわかっても、例えば素肌に着て気持ち良さそうだなとか、そういった風合いまではわかりません。
終盤は、布に興味を持ち始めて30年以上経つという、吉田さんの人生について話してくれました。
吉田:20歳くらいで絵を描き始めて、そのうち「白い絵(白いキャンバスに白い絵の具で描いた絵)」を描き始めたんですね。その後、身体を壊して27歳の時、どうせなら海外の現代美術を巡ってみようと思って、西ドイツに行きました。そこで、帽子をかぶったおっさんを紹介されまして、それが現代美術家のヨーゼフ・ボイス。当時はまだ、日本人が珍しかったんでしょうね。仲良くなってくると、僕が描いた白い絵に対してボイスから、「なんで白で描くんだ?」と質問されました。僕は「白が好きだから」と答えたんですがそうじゃなくて、彼はルーツを知りたいわけですよ。今でこそ勉強して、日本の国や民族についてわかっていますが、当時は答えられるものを何も持っていませんでした。日が経つにつれて、あの一言が気になり出すわけですよね。そして、ボイスはこうも言ってました。「白い絵は日本で売れると思う。でもそれが売れても、お前の人生に何の意味もない」と。「ほかのもんでも売ってりゃいいじゃん」みたいに聞こえて、グサっときたのを覚えています。その時、今まで何をやってたんだろうと思い直してヨーロッパを回るのをやめて、そのまま日本に戻ってきました。帰ってから、白の絵を描こうとしてもぜんぜん描けないので、日本を旅しました。すると、各地に昔の日本人が着ていた衣料があることに気づいて、興味を持ったのが布の研究の始まりです。最初の10年間は遊びのようなものでしたが、それでも、買い集めたいろんな布を顕微鏡を使って調べているうちに、サンフランシスコの美術館で展覧会をやることになりました。その後、日本の美術館や博物館でも展覧会をやってきました。大麻布をもう一度日本の生活に復活させたいと思って、現代の紡績技術で新たに「麻世妙(まよたえ)」という大麻布を開発しました。そして、それまでずっと、リンクするはずがないと思ってた絵を描く活動と布を研究する活動が結びついたのが2017年のYCAMでの展示。すべてのきっかけは、27の時のボイスの言葉ですね。白い絵のルーツを聞かれたことが、今につながっているような気がします。
桜井:「IN SEARCH OF LOST FABRICS」は、九州の自然布を通じて日本の文化を紐解いていくのですが、同時に、なかなか語られることがなかった、吉田真一郎さんの人生の軌跡を辿る内容にもなっています。
河辺:今回の取材で印象的だったのが、話の最初に出てきた奄美大島の芭蕉布を見たときの吉田さんの少年のような目の輝き。そして、吉田さんが日本が持つ技術や歴史を紐解いて、未来につなげてくれたことですね。伝統工芸という未来へのテクノロジーが吉田さんによって再び解凍されて、日本の素敵さを未来に向けて発信しているのが、素直にかっこいいと思いました。今日は、ありがとうございました。
第3回 北海道「THE JOURNEY INTO REFLECTION」
ゲスト:山口周
MC:河辺徹也(Lexus International)
「世界のエリートはなぜ『美意識』を鍛えるのか?」など、新鮮かつ現代に求められる切り口からビジネス領域に切り込む著作で知られる山口周さん。トークイベントでは、「BEYOND BY LEXUS」ISSUE13で北海道を訪れてまとめた「THE JOURNEY INTO REFLECTION」を中心に、旅先で触れたものや、旅から戻って考えたことについて語ってくれました。
河辺:なぜ今回の旅を引き受けていただけたかあたりから、話していただきましょうか。
山口:旅はもともと勉強の総仕上げ。かつてヨーロッパの貴族が卒業試験として、家庭教師とともにヨーロッパ中を巡るグラウンドツアーというものがありました。旅の経験が一番の学びになるということは、歴史の中でも言われてきたこと。でも今はなぜか、机に向かってとか、ビジネススクールに通うことが勉強ということになっています。それを僕自身もわかっていたはずなのに、最近はなかなか旅に行けてなかった。そこで二つ返事で引き受けて、北海道に出かけました。
河辺:頭でっかちでも意味がないし、五感だけでも意味がないですよね。今回の旅で、何か気づいたことはありますか?
山口:旅で何より大きいのは、帰ってくると日常がストレンジに見えることです。旅先で五感が開いてそこで学ぶこともあるんですが、そのままの五感で帰ってくると、いつも周囲にあるものも全然違って見える。慣れ親しんだものを、どれだけ突き放して見ることができるかを美術用語で「異化」と呼びます。ストレンジなものをストレンジと感じるには、ファミリアなものに慣れ親しんでいる人のほうがそのインパクトが大きい。ファミリアなものが固着しているのは歳をとっている人が多くて、ストレンジなものに気づくには「なんだこれは」という視点や好奇心も必要です。今回、旅することで異化が起きると改めて思いました。
話題は取材で訪れた「赤平炭鉱跡」に。北海道旭川市の西にある赤平市に1938年に開鉱し、1994年に閉山した赤平炭鉱には、最盛期、約5000人が働いていたそうです。
山口:煤だらけになった何千人が入ったであろう25mプール3つ分くらいの巨大な風呂があったり、小さなトロッコがあったり、炭鉱では効率化の極みのような痕跡がいくつも見受けられました。それは、人が山に入った瞬間から人件費が発生するから。資本主義の熾烈そのものを感じた瞬間です。一方で、案内してくれた男性は実際に山で働いていた方で、当時の話を伺うと、非常に過酷なんだけど、この国の未来を支えているのは俺たちだと働いて、仕事を終えたらビールを飲んで寝る。それが、充実した人生だったというんです。教科書にもこうした炭鉱のことは書いてありますが、あくまでも抽象度が高い情報として。現地に行くと解像度が全然違います。ある種のタイムマシーンのようで、50年前にあったことをライブで見るような実感が伴いました。あの場所に充実した生があったことに驚いて、「幸福なキャリアとは?」という問いをもらって、帰ってきてからも考えさせられています。
河辺:旅に出るとその地域を語る人と、旅によって自分が変わったことを語る人の2パターンがあります。山口さんはどう考えますか?
山口:当たり前の話ですが、同じ意見や同じ感性の人と話してもこだまが返ってくるだけで、自分が変わるような学びはありませんよね。旅によって得られる「他者性」は、自分を変える契機として存在しています。僕は、昭和30年とか40年くらいのドキュメンタリー映像が好きで、例えば大阪万博の映像を観ると、とても他者性があります。日本は、昔とあまり変わっていないという意識がありますが、これが本当に同じ国かと思うようなストレンジな感覚。移動すると、情報量の多さが違うということも感じました。都会は情報量が多くて、田舎は情報量が少ないというじゃないですか。あれは嘘で、よっぽど都会のほうが情報量が少ないですよ。赤平炭鉱も人工物だけど、情念の入り方が違いました。
話は、北海道から遠く離れた、長崎県五島列島へ。山口さんは2018年に2回、天の川を見たそうで、1回が「BEYOND BY LEXUS」で訪れた北海道。もう1回が、プライベートで訪れた五島列島だったそうです。
山口:五島列島に関しては、ものすごい綺麗さと隠れキリシタンの悲惨な歴史が表裏一体だと思いました。4万人が全滅したと言われる原城は、今でも人骨がいくらでも出てくるような場所です。テストでは、島原の乱で何人死んだという回答をすることで正解になりますが、海が綺麗で魚を獲って暮らしていけそうな場所で、あんな出来事が起きる。教科書で読むのではわからない手触りを感じることができます。リベラルアーツとは、「人間とは何か?」の理解を深めることに尽きると思います。
イベントの最後には、来場者からの質問を受け付けました。「次はどこを旅したいですか」との問いかけに対して、山口さんはこう答えました。
山口:北欧ですね。これまで日本は、数字を伸ばすことがいいという考えでやってきました。でも今、最後の人生の終わり方など、日本の歴史上初めて縮めることの議論が起こり始めています。経済成長においては、定常という議論もありますが、いずれにしろ、経済で世の中を規定できるというのは浅はかですよね。日本は、いくつかのものさしで世の中を見るデュアルスタンダードが得意だったはずで、縮めることでどこを伸ばすかが問われています。そのヒントは、北欧やアメリカのポートランドなどにあると思います。
河辺:山口さんありがとうございました。
旅先では同じことが全く異なるように見えたり考えたりすることがあります。
旅は人間の感覚を開かせ、もう1人の自分に気づくことを今回の山口さんのお話で改めて感じました。「BEYOND BY LEXUS」はそれぞれの旅が20ページほど。1冊ごとに紙質が違って、それもまた五感を刺激します。手にとって読みながら、次の休みはどこに行こうかと考えるのはおもしろいと思いますので、ぜひお時間があればディーラーに行ってご覧ください。ありがとうございました。
第4回 長野「HAKKO ROAD TRIP」
ゲスト:小倉ヒラク(発酵デザイナー)、高橋恭司(写真家)、宮原沙紀(ライター、エディター)、松尾仁(エディター)
「発酵デザイナー」として国内外で活動する小倉ヒラクさんを編集長に、長野に向かったのは高橋恭司さんと宮原沙紀さん、松尾仁さん。4人で作った「BEYOND BY LEXUS」が、ISSUE13に収録されている「HAKKO ROAD TRIP」です。木曽と諏訪という2つのエリアをLEXUSで移動ながら、この地に根付いた発酵文化や信仰を巡る旅。トークイベントは、「小倉ヒラクです。最近ずっと田舎を回っているので、青山に来るとそわそわしますね」という挨拶からスタートしました。
小倉:今回は、木曽と諏訪という、非常に歴史の蓄積が深い場所に行きました。旅や文化についていつも思うのは、明るい部分だけではなく、闇の部分にも人は惹きつけられるということ。諏訪や木曽は観光地としても知られていますが、その裏側にある怖さみたいなものを感じてもらえたら。人類の叡智としての発酵を巡るとともに、神話世界にも触れた、「心細い旅」というテーマでお楽しみください。
松尾:発酵は、日本の神話とも深いつながりがありましたね。発酵の写真は、なかなか目に見えるものではないので、目に見えない世界をどう撮ってもらうかと考えて、写真家の高橋恭司さんに、感じたところを自由に切り取ってくださいとお願いしました。表紙の写真も龍が住むという場所で、昼間に行くと水がエメラルドグリーン色をしているんですが、真っ暗で何も見えなくて。恭司さんにストロボで撮影してもらったものです。
高橋:当てずっぽうで撮影しましたね。写真はだんだん、スマホとか液晶で見る機会が多くなっています。目で触れるという言い方もありますが、触覚がとっても大事。ヒラクさんは旅先で、味覚や、五感を解放させたいという話もしていました。
宮原:私は長野県出身で、実家は代々、材木を扱ってきました。誌面にも登場する「木曽節」は、学校で踊っていた記憶があります。その木曽節にも、ヒラクさんや恭司さんからすると、こんな視点もあるんだと感動的な気持ちになりました。地元なので知っているつもりでしたが、今回の旅は知らないことだらけ。驚きの連続でした。
松尾:ヒラクさんが、日本各地の発酵にまつわる人と関係を築いているので、普段は入れない場所に入ることができましたよね。お米に麹をつける作業をしたり、楽しかったです。日本酒を作るタンクがたくさん並んで、中から発酵して泡が出ているような音が聞こえたり、1日ごとにローテーションして行くんですよね。
宮原:麹を混ぜる作業を見たのも初めてでした。普段からあの味噌を食べていたのに、味噌玉という特殊な作り方をしているとは知りませんでした。
小倉:誌面にも登場しますが、味噌玉は茶色い円筒形をしています。僕は各地の味噌コレクターでもありますが、トップクラスに衝撃を受けたのがこの味噌玉。大豆を蒸したものを一度マッシュして、それをこの形にして野生のカビをつけて行きます。山裾にあって冷たい風が吹き下ろす、木曽だからこその作り方。高橋さん、木曽で印象的な場面はありましたか?
高橋:木曽はクルマで通過したことはあったんですが、写真を撮るために旅したのは、今回が初めてでした。寒いし、上がったり降りたり、厳しいところだと思いました。だからこそ、信仰が近いというのも根付いたんでしょうね。
小倉:木曽節にも出てくる「なかのりさん」には2つの意味があって、ひとつは木曽の木材をイカダに乗せて木曽川を下っていく船頭。もうひとつ、「のる」っていうのは神様が乗ることで、シャーマンだったという説です。
さらにヒラクさんは、「木曽の人にとって、お酒を飲むことが自分たちのアイデンティティの拠り所だった」と分析します。
小倉:木曽節の最後は悲しくて、「木曽で生まれた なかのりさんは みやこまで」と終わります。木を切り出してイカダにして運ぶ「なかのりさん」は、ずっと同じ土地に生きていけるかわからなかった。森林の伐採制限のおふれがでると、食っていけないわけです。だから、酒を酌み交わして木曽節を歌うことで、離れていても木曽に生まれたルーツを共にしているという絆を育んだようにと思います。
話の舞台は木曽から諏訪に移り、諏訪大社の御柱へ。諏訪大社の前宮で撮影した、誌面に掲載しなかった写真を紹介し「女性のお腹のラインのように見えた」と高橋さん。ヒラクさんは、この地に根付いた信仰について解説しました。
小倉:四方を囲った御柱は結界であると同時に、エネルギーとしての神様を下ろすアンテナ。だから、氏神様を祀る必要がないんです。御嶽信仰は山そのものですが、諏訪はエネルギーそのものを信じている。仏教や神道が入ってくる前の信仰が保存されています。御柱際はフェスで、本当の神事は正月にカエルを捕まえて神様に捧げるというもの。御柱が白蛇で、白蛇様が一番好きなものがカエルというわけです。
最期にヒラクさんは、自ら運転し、木曽と諏訪を巡ったLEXUSの印象についてこう語りました。
小倉:今回、LEXUSのクーペを2時間ほど運転したんですが、おもしろさも安心感もあって、バランスが練られていると思いました。僕は今、山梨に住んでいますが、引っ越して地元の人に聞いたら、みんな口を揃えて「峠道には軽の四駆がいい」と言うので買ったんですね。確かに軽の四駆は安心できるけど、運転中に眠くなっちゃいます。僕はヨーロッパにも住んでいましたが、日本の道はくねくねして、時には塗面凍結もしているので、おもしろさと安心感のバランスが必要だと感じていました。木曽からだと、飛騨に抜けていく道もおもしろいし、木曽から八ヶ岳に抜ける道も昔の日本人の地理感覚を追体験できます。今回の「BEYOND BY LEXUS」を読んで、旅に出る人が一人でも二人でもいてくれたらうれしいです。
河辺:「BEYOND BY LEXUS」はガイドブックではなく、写真も予定調和じゃないし、文章も一人称。この1冊を読んだら一晩おいて、翌日にも読んでみてください。するとまた、違うものが見えてくるはずです。ぜひ、ヒラクさんが書いたことを読んで、今まで気づかなかった、2人目、3人目の自分と一緒に旅に出てみてください。今日は、ありがとうございました。
第5回 静岡「TO MOUNT FUJI」、奈良「SACRED DESTINATION FOR ANCIENT PRAYER」、神奈川「ENOURA OBSERVATORY,THE FUTURE REMAINS TO COME」
ゲスト:ホンマタカシ(写真家)、橋本麻里(ライター、エディター)、石田潤(エディター)
全5回にわたって開催されたトークイベントも、ついに最終回。今回は、3冊の「BEYOND BY LEXUS」に収録した3つの旅をクロスオーバー。ISSUE12の静岡「TO MOUNT FUJI」の編集長、石田潤さんと写真家のホンマタカシさん、ISSUE12の奈良「SACRED DESTINATION FOR ANCIENT PRAYER」と、ISSUE13の神奈川「ENOURA OBSERVATORY, THE FUTURE REMAINS TO COME」の2冊を、編集長、ライターとして担当した橋本麻里さんの3名が登壇しました。まずは、葛飾北斎の富嶽三十六景にインスパイアされ、富士山をカメラオブスキュラという手法で撮影した静岡の旅について、ホンマさんと石田さんが話し始めました。
ホンマ:カメラオブスキュラは、カメラを使わず、暗くした部屋に小さな穴を開けることで、外の像を写す技法であり現象です。像が上下反転して写るのも特徴ですね。フェルメールがこの技法を使って絵を描いたんじゃないかと言われていますし、葛飾北斎は「さい穴の不二」という作品で雨戸の穴を通した上下逆さまの富士山を描きました。その後作られた移動式の機械が正確にはカメラオブスキュラと言われていて、鏡によって上下の反転をなくしたり、これが今のカメラの原型になっています。写真は、紀元前から見えていた像を定着させたもの。感光材料の発明が、写真の発明とイコールになっています。
石田:なぜ、現代の富嶽三十六景みたいなものをカメラオブスキュラで撮ろうと思ったんですか?
ホンマ:5年くらい前から、カメラオブスキュラで都市を撮影してきました。その流れで富士山を撮ったら、新たな富士山像なるものを捉えられるんじゃないかという気持ちが湧いたんです。富士山の写真は多くの人に死ぬほどたくさん撮られているし、普通のカメラで撮ってもおもしろみがない。富士山は、角度によって、季節によっても違って見えるし、そもそも富士山ってそうそうよく見えないんですよ。今撮りたいものはたいてい撮影できる僕からすると、なかなか撮れないこともおもしろいと思いました。
続いて、奈良「SACRED DESTINATION FOR ANCIENT PRAYER」、神奈川「ENOURA OBSERVATORY, THE FUTURE REMAINS TO COME」について、橋本さんが話しました。
橋本:この1冊には、奈良のアイコンである鹿でも大仏でもなく、室生寺をはじめとする寺社が出てきます。日本の始まりの地でもある奈良は、公共交通があまり発達していないのでLEXUSで巡りました。もう1冊が、杉本博司さんが神奈川県の小田原に作った「江之浦測候所」をテーマにしたものです。測候所と名付けられていますが、アートサイト。作品も建築も、全体が天体の動きと呼応しています。江之浦測候所を作るにあたって、杉本さんが石を積極的に集めていることがだんだんと知れ渡って、当初は想定していなかったような貴重なものも集まってきました。誌面にも多くの石が登場します。骨董の世界では、仏像や茶道具を経て、最後に行き着くのが石。若い娘の尻を撫でているようではまだまだ。石を撫でて恍惚となるのが究極の姿と言われています。
石田:ホンマさんは、石はどうですか?
ホンマ:スペースが難しいですよね。
そこから話題は、MOA美術館で日本初公開となった、天正少年使節をテーマにした杉本博司さんの展覧会を経て、ここ最近、ホンマさんが関心を持っているというお茶の話へ。
ホンマ:もう1年以上連載しているので、都内近郊だけですが14ほどの茶室を撮影しています。僕はお茶の世界は、精神的なものよりもカメラオブスキュラから入ったんですね。仕事として依頼されて撮影を引き受けたのですが、カメラオブスキュラはラテン語で「薄暗い小部屋」を意味していて、それは茶室にも通じる。偶然の必然と思ったんです。現代のお茶は、変に恐れ多くなっていますが、僕はアートの文脈でお茶を解釈できると思いました。
橋本:今、多くの人がお茶として体験しているのはあくまでもお稽古で、利休のお茶は茶会であり茶事。一夜限り、その人限りのパフォーマンスで、茶人の本番はそこにあります。「たぎりたる茶」という表現が桃山時代の書簡に時々出てくるんですが、沸騰するようなその瞬間だけのパフォーマンスに価値があったということですね。
ホンマ:コンセプチュアルアートですよね。そう捉えると僕にとってのお茶はおもしろいんですが、周りの人に「お茶に興味がある」と言うとたいてい、「え、ホンマさんお稽古始めたんですか?」って返ってきます。
トークイベントの最後には、石田さんが、「これからクルマで旅してみたい場所は?」と尋ねました。
橋本:私は助手席専門ではありますが、仕事で行く奈良、京都は正直飽きたので、これから行くなら金沢ですね。能登半島もあって、自然豊かなエリアにつながった金沢周辺に行きたいと思います。
ホンマ:僕は佐渡とか。
石田:ヴァンナチュールですか?
ホンマ:いいえ。佐渡島にもお茶文化があるんですよ。千利休以来の大茶人と言われた益田鈍翁(ますだどんおう)という人がいました。
橋本:益田鈍翁の茶器は価格の幅が広くて、ものすごい高いものがあるかと思えば、突然アルマイトを使って驚かせるような、ちょっと歌舞いた人ですね。今では、かなり美術館に入っちゃっていると思います。
ホンマ:僕の父親が佐渡島出身だったり、益田鈍翁の本名が僕と同じ「タカシ」だったり、茶人の中でもちょっと興味があります。
河辺:どの方もお話が尽きないので、締め方が難しいですね。五感すべてが震えるような日本の美しさを改めて、写真や文字で、このお三方にも見せてもらいました。「BEYOND BY LEXUS」は、LEXUSのディーラーに行くと置いてあるので、ぜひ足を運んでみてください。ありがとうございました。
トークイベントを終えて、この日が初対面だった二人の間に生まれた、さらにおもしろいエピソードについて、MCの河辺はこう話します。
ホンマさんの富士山への思いは相当なもの。イベント後の控え室で橋本さんが「自宅の窓から見える富士山が絶景」と話したところ、すぐさまカメラを担いで橋本さん宅を訪ねたとか。それを素直に受け入れた橋本さんの度量にも脱帽するばかりです。(河辺)