INTERSECTION OF RACING LEGACIES自動車文化のインターセクション

20 世紀初頭(1908年)のアメリカで、ベルトコンベアの導入など近代的な製造方法で生産された最初の自動車であるフォードT型の誕生が、世界のモータリゼーション(自家用自動車の普及)の夜明けとも言われているが、それに遅れること 20 年余り、欧州でもドイツやイタリアを中心にモータリゼーションが一気に加速していく。
日本はというと、モータリゼーションが花開いたのは 1964 年の東京五輪直後からというのが一般的な見方とするならば、自動車のあるライフスタイルについては日本はまだ半世紀に留まっており、欧米の自動車文化に学ぶべき点は多い。

ただ、ひとえにモータリゼーションと言っても、そのダイナミックな現象に至るまでには、国家の歴史や国土の特徴、道路敷設計画に根差す社会的・経済的な背景、有する企業など、各国で状況が大きく異なる。しかし、それがその国における民衆のための最初の「クルマ」の定義と走るべき「道」を決定づけ、いま世界にたくさんの魅力的なクルマが存在するに至った理由といっても良いのではないだろうか。

また、自動車競技であるモータースポーツは、そうした世界各国の華麗で多様な自動車文化が交錯する舞台とも言える。独自のルーツと発展の歴史を持つ個性豊かな自動車メーカーが世界中から集い技術的なルールのもとで競い合う。最高峰のスペックを誇るレースカーがしのぎを削る姿は、市販車開発の場にも刺激と知見を与え、卓越した技術の開発がさらに加速する。

2019 年 10 月・11 月に開催された、日本のGTレース最高峰を誇る「SUPER GT」と、その双璧をなす欧州(主としてドイツ)の「DTM(ドイツツーリングカー選手権)」との交流戦は、まさしくこのモータースポーツという競技がもつ存在意義を体現していると言っても過言ではないだろう。

SUPER GT、DTM 両シリーズの主催者は、長年におよぶ議論の末、2019 年を LEXUS・HONDA・NISSAN が参戦する SUPER GT と、BMW・AUDI,・ASTON MARTIN が参戦する DTM の交流戦元年にするとの決定を下した。2019 年の 10 月のホッケンハイムリンク、そして 11 月の富士スピードウェイに、世界を代表する自動車メーカーと超一流のドライバーたちが集結した初めての交流戦は、勝者の栄誉だけではなく LEXUS に何をもたらしたのであろうか。

スピード、伝統、そして“おもてなし”

DTM の 2019 シーズン最終戦が行われるホッケンハイムリンクに一番近い国際空港はフランクフルト空港である。そこからドイツ南西部にあるこのサーキットへ行くには、速度無制限区間のあるドイツの高速道路、アウトバーン 5 を南下していくことになる。実はこのフランクフルト・トーダルムシュタット路線は、1938 年 1 月 28 日にドイツのレーシングドライバー、ルドルフ・カラツィオラが、時速 432.7 キロという速さで公道上の世界最高速度を記録したことでも知られている。アウトバーンとはドイツ語で自動車専用道路を意味する。1900 年代初頭のアメリカのモータリゼーションを目の当たりにした当時の国家が、人と物を迅速かつ効率的に移動させることが、国家や都市の発展を促進するという考えのもとに国策として建設が始まった大規模な舗装路である。

現在でも高性能車両開発への熱き想いはドイツの自動車文化に深く根付いており、「アウトバーンを走るに値する」卓越したクオリティのクルマを作ることへの情熱は特筆するに値する。

しかし、これはドイツに限った話ではない。ドーバー海峡を挟んだ英国も、独自の輝かしい自動車史を誇っている。今も存続している英国発祥の主要自動車メーカー 10 社のうち 4 社が、1915 年以前に創立されているという歴史の深さのみならず、英国には、一風変わったユニークなクルマから最高級品質の名車まで、バラエティ豊かなクルマを開発してきた独立系の小規模自動車メーカーが多いことでも有名である。

また英国車といえば、馬具メーカーの仕事を参考にレザーをあしらった上質な車内インテリアが特徴とされる事実からも分かるように、どこの国にも増して乗馬の伝統に大きな影響を受けていると言えよう。またモータースポーツに関していえば、史上初の F1 世界選手権(シルバーストーン)が開催されたのが英国であり、今日に至るまで世界のモータースポーツシーンの中心地として、様々なシリーズで活躍するレーシングチームが拠点を構えている。英国中心部のミッドランズ地方には、世界のどこよりも数多くのチーム、サプライヤーらが群雄割拠しているのだ。

ドイツ、英国から世界を半周したところにある日本は、1930 年代から自動車生産に力を入れてきた。この国の自動車メーカーは、当初こそ小柄で実用的なクルマの製造で知られていたが、東京五輪が開催された1960年代には高性能車両の開発でも頭角を表すようになる。もちろん高級自動車開発への足掛かりを得るまでも、さほどの時間を要さなかった。

日本の自動車開発を象徴する言葉の一つが「おもてなし」だ。英語では歓待などを意味する「ホスピタリティ=hospitality」とも訳されるこの言葉は、周囲や他人の潜在的なニーズに細やかな注意を払い、先んじて応えようとする姿勢のことをいう。実用性重視であれ、性能重視であれ、求められるクルマの特性に関わらず、この精神は日本の自動車文化に特徴的なものと言えるだろう。LEXUS のクルマにはこの「おもてなし」の精神をさらに突き詰めた CRAFTED という考えが息づいている。

また、日本の地理的特徴もクルマづくりに大きな影響を与えてきた。山脈に覆われ平野が少ない日本列島の道路は、バラエティに富んだプロフィールが特徴で、そこからバランスの良い、オールラウンダーなクルマを作るという文化が生まれた。これらの特性に、最高水準の品質管理とそれを実現するものづくりの伝統という要素が組み合わさった結果、日本の自動車メーカーは世界で確固たる存在感を放つようになったのだ。

そしてドイツ、英国、日本といった SUPER GT・DTM の参戦メーカーと比して見劣りしない高い貢献度を果たしてきたのが、イタリアだ。かつて DTM にも参戦していたアルファロメオの母国イタリアは、1920年代に欧州各国に先駆け自動車専用道路(アウトストラーダ)を建設した。世界最古の公道自動車レース「タルガ・フローリオ」をはじめとする様々な自動車競技もモータリゼーション黎明期より盛んで、競い合うことに根付いたクルマづくりで、その情熱的なクルマ文化を育んできた。

つまり端的に表するのであれば、ホッケンハイムリンクと富士スピードウェイに、ドイツ、イギリス、そして日本のレースカーが集結したということはすなわち、世界を代表する自動車文化の豊かな遺産が交流を果たしたということに他ならない。

欧州と日本の哲学の違い

自動車レースには様々なカテゴリーがあるが、その一つがレースカーに対して、セダンやクーペなどの乗用車をベースとしたハイパフォーマンスモデルで競う「ツーリングカー」がある。

日本の SUPER GTと欧州の DTM はどちらも今日行われている中で最も速く、最も高性能なツーリングカーのチャンピオンシップで、SUPER GT には LEXUS・HONDA・NISSAN、DTM には BMW・AUDI・ASTON MARTIN がエントリーする。つまり今回の交流戦では、3 大自動車大国に出自を持つ 6 つの自動車メーカーが 2 つの大陸でしのぎを削ることになったのである。

SUPER GT と DTM では、共通のレギュレーションも多いが同時に、特筆すべき相違点もある。その際たるものが、SUPER GT ではブリヂストン、ミシュラン、ヨコハマとタイヤメーカー間の激しい開発競争を特徴とするが、DTM では全チームが全く同じスペックのハンコック製タイヤで勝負に挑む点だ。

両シリーズが持つ"エンターテイメント性"に対するアプローチの違いが、タイヤ・レギュレーションに顕著に表れている点は示唆に富んでいる。SUPER GT は競争の中心に技術革新があると考える一方、DTM は全車両が平等な条件になるように多様な共通パーツの導入を行い、さらにはタイヤを同じとすることで、ドライバーの優劣が結果に直接反映されやすいレースこそが何よりもエキサイティングであるというセオリーに従っているのである。

「学び」と「成長」を繰り返すためのレース活動

DTMの最終戦は、例外なく毎年大きな注目を集めるが、LEXUS をはじめとする日本勢が参戦する 2019 年もまた例外ではなかった。あいにくの雨に見舞われた週末だったが、会場は大きな期待と興奮に満ちていて、サーキット内にあるキャンプサイトで寝泊まりするファンの熱狂に水を差すことはなかった。

そのような熱気のなかサーキット上に目を移すと、SUPER GT のチームが“アウェー”ならではの難しい課題に挑んでいた。
「日本と欧州のレギュレーションには共通するものが沢山ありますが、同時に現場で即座に適応していかなければならない違いも多くあります」と LEXUS TEAM の監督を務める山田淳氏。「特にタイヤです。日本では、様々な素材や構造からそれぞれのサーキットに適したものを選びます。ここドイツでは、私たちが慣れ親しんだものとは全く違う特性を持つ、しかも一種類のタイヤしか使うことができないのです」

しかし、ピットでの試行錯誤が続くなか、ファンは何よりも観て楽しめるレースを求めているということを熟知する BMW が、LEXUS TEAM がより良いパフォーマンスを発揮できるようレース前にハンコックタイヤについての知見を共有するなど、メーカーの垣根を超えてサポートしあう様子は印象的だった。

レース本番は結局のところ、ハンコックタイヤに関する経験不足とサーキットでの経験値が最後まで日本勢の課題として残った。またレースウィークエンドを通じて雨が続き、滑りやすい路面コンディションを強いられるという悪条件も重なった。このような状況のもとで日本勢は、DTM レギュラーチームの後塵を拝するのがやっとだった。

しかしながら、ホッケンハイムでのレースは 11 月に開催された富士での「ドリームレース」へ向けた準備の一環として位置づけられていたので、日本勢の骨折りも無意味ではなかった。つまるところモータースポーツとは、「学び」「改善」「レース本番」を何度も繰り返すプロセスであり、LEXUS TEAM もまたこれまで数多くの経験と知見を積んでいる領域でもある。

そうして迎えた 11 月。富士スピードウェイでの「ドリームレース」では、世界中のクルマファンやモータースポーツファン、メディアたちの熱い視線が注がれるなか、ホッケンハイムの経験を存分に生かした LEXUS TEAM が、ライバルたちとの大接戦を制して見事優勝を飾った。

モータースポーツとは、独自の歴史、地理、文化的背景を持った自動車メーカーが最高性能を誇るパフォーマンスモデルをベースにしたレースカーで参戦し、勝利を巡ってしのぎを削る“交流の場”である。そこでの次元の高い競争を通じて、互いに刺激を与え合い、多くの経験を積み、自分たちのクルマをさらなる高みへと押し上げていく。だからこそ、LEXUS は世界各国のバラエティに富んだサーキットで開催される最高峰のレース、レースシリーズに積極的に参戦し、ライバルたちの“文化”に直接触れることで自己を再認識して、さらなる走りの技術に磨きをかけているのだ。

今回の DTM との交流戦は、LEXUS にとって各メーカーの性能の頂きを体現するモデルである ASTON MARTIN 「VANTAGE」やBMWの「M」、AUDIの「RS」といった超一流のパフォーマンスモデルと同じ土俵で「LC」を戦わせることで、LCを”もっと良いクルマにしたい”という強い意志が導いたドリームレースでもあったのだ。

LEXUS はモータースポーツというフィールドで、さらなる切磋琢磨を通して独自の世界観に磨きをかけ、私たちが乗る自動車の開発へと還元し続けていく ― 進化を止めないために過酷なレースを戦い続けるのである。

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