LC Flats Out at “Green Hell”
LC が挑んだニュル 24 時間レース
“緑の地獄”の異名をもつニュル
日本から約 12 時間のフライトを経て到着するドイツ中部の都市・フランクフルトから、ライン川に沿ってアウトバーンをメインに北西に 200km ほど走ったアイフェルの丘陵に鎮座する伝説のサーキット“ニュルブルクリンク”。少しでもモータースポーツに関心を寄せたことのある人であれば、このサーキットの通称である“ニュル”の名が、多大なる畏敬の念とともに語られる場面に遭遇した経験をおもちだろう。その理由は「世界一過酷」とも称されるサーキットコンディションに尽きるといって過言ではない。
近代的なグランプリコース(全長約 4.5km)と、“オールドコース”とも呼ばれるノルトシュライフェ(=北コース)で構成されるニュル。特に世界最長となる全長約 20km、3 つの街を駆け抜けるノルトシュライフェは、1927年に失業者対策の一環として労働者たちの手作業で建設された。ニュルブルクリンク城から一望できる広大な森のなかに、左右合わせて 170 近いコーナーがレイアウトされ、高低差は約 300m、アンジュレーションも想像を超えるトラックができあがった。ここには最新のサーキットには無い車両の全荷重が抜けてしまうジャンピングポイントや、大きなカント(斜面)のついたすり鉢状のコーナー、ブラインドコーナーを抜けた途端に、一気に下るダウンヒルコーナーなどが次から次へと姿を見せる。これこそがニュルに棲む“魔物”の正体である。
それゆえに、多くの自動車メーカーやタイヤメーカーがインダストリアルプールと呼ばれるメーカー走行専用時間帯を使って、様々なテスト、開発プログラムを行っている。世に出まわる開発車両のスパイショットは、ここで撮影されているものも数多い。
一方でこのサーキットは一般にも走行が開放されており、まるでこのトラックに引き寄せられるかのように、網の目状に張り巡らされた大陸のさまざまな道を経て、イギリス、フランス、イタリア、オランダ、スイス、ルクセンブルク、さらには東欧のチェコやスロバキアからも、多くのエンスージアストたちが愛車で何百キロとドライブしてやってくるのだ。ニュルブルクリンクは自動車に関わるメーカーだけではなく、自動車に愛情を注ぐ人々にとって文字通り“聖地”となっているのである。
しかし、この場所は“聖地”という言葉とは裏腹に、F1 ワールドチャンピオンに 3 度輝いたジャッキー・スチュワートには、“グリーンヘル”(=緑の地獄)と呼ばれていた。1976 年のドイツ F1GP では、映画『RUSH』でもその目を覆いたくなるシーンが再現されたが、ニキ・ラウダがクラッシュし炎上する大事故を招いたことはモータースポーツ史の大きな分岐点として語り継がれている。
そんな伝説の“グリーンヘル”を舞台に行われるのが「ニュルブルクリンク24時間レース」。通算 46 回目となる 2018 年は 5 月 9 日〜 13 日に開催され、LEXUS もニューマシンの LC を投入、土屋武士選手、松井孝允選手、蒲生尚弥選手、中山雄一選手の 4 名で過酷な耐久レースにチャレンジをした。
LCと同様、今大会がニュル 24 時間デビューとなった中山選手が、初体験のノルドシェライフェについて「最初はどのラインをトレースすれば良いのかまったく分からなかった。大変なコースで気を抜くことができる瞬間が全くない」とその印象を語れば、チーフメカニックを務める関谷利之氏も「5 大陸走破プロジェクトの担当者がニュルを走った際に“すべての道がここにあった”と言っていたが、それぐらいノルドシェライフェには多彩なロードコンディションが詰まっている。路面舗装は一般道に近く、スピードレンジが高いから入力値も高い。これほどテストに適したコースは他にはないだろう」と舌を巻くほど、同コースの特殊性はレース経験豊かな関係者の目にも際立った存在感を放っている。
誰にとっても特別なレース
24時間レースといえば、WEC の一戦として開催される「ル・マン 24 時間レース」、IMSA の一戦である「デイトナ 24 時間レース」、そしてブランパン GT シリーズの一戦である「スパ-フランコルシャン 24 時間レース」など世界屈指の耐久レースが居並ぶ。が、それらと比較しても比類ない特筆すべき“個性”を持つニュルは誰にとっても憧れの舞台である。
難攻不落なニュルブルクリンクを舞台としているだけに、24 時間レースでは常に脱落者が続出するサバイバルレースが展開されてきた。それゆえに、同イベントはエントラントにとっても価値ある一戦で、ポルシェのワークスドライバーとして活躍する大会のレジェンドドライバー、ヨルグ・ベルグマイスターも「初めて参戦したのは 1994 年だったかな。それ以来、何度も出場してきたけれど、ル・マンやスパよりもビッグなチャレンジだと思う。コース幅が狭いうえに、スピードレンジの違うクルマが数多く走行しているから、接触も当たり前でマシンは傷だらけ。だからこそ勝つことに何よりも大きな意味がある」とニュル 24 時間の印象を語る。
またレース運営をサポートするオフィシャルやコースマーシャルたちにとっても特別なレースである。ニュル 24 時間でのマーシャル歴10年を誇るベルギー出身のセルゲ・ノエルさんは「スパ 24 時間レースのオフィシャルもやっているけれど、ニュルのほうが車種は多彩だし、お客さんの雰囲気もいいから魅力的だね」と語る。
レース運営をサポートするコースマーシャルたち
もちろん、レースファンにとっても特別な一戦で、2018 年は 21 万人の集客を記録。観戦スタイルはまさにキャンプそのもので、多くのファンがノルトシェライフェのコースサイドにキャンプカーやテントを持ち込み、バーベキューを楽しみながらレースを満喫している。「ニュル24時間は年に一度のフェスティバル。20 回以上は観戦に来ているけど飽きることはないね。毎年、同じ場所でキャンプをしながら古くからの仲間とレースを楽しむことは最高の贅沢だよ」と語るのはミュンヘン在住のダニエルさん。レースはもちろんのこと、キャンプを通じて仲間との交流を満喫している様子だった。またサーキット周辺にはモーターレースのレジェンドや現役のスタードライバーたちも足しげく通うレストランで、ところ狭しと飾られたサインやレース写真の数々を眺めるだけで、この地が選ばれし特別な場所だと実感できるだろう。
LC が戦った 97 周
このようにニュル 24 時間はメーカーやドライバーはもちろんのこと、オフィシャルやファンにとっても特別な一戦として愛されている。そんな聖地での大舞台に LC が果敢にもチャレンジしたのだ。
ステアリングを握るドライバーのひとり、中山選手は「SUPER GTの時に乗っているLEXUS RC F GT3 は純粋なレーシングカーだが、この LC はあくまでも市販車の延長なのでドライビングのフィーリングはまったく異なる。とはいえ、エンジンはパワーがあるし、テストを重ねるたびに速くなっているので楽しみなマシン」とレース前にインプレッションを語っていた。
とはいえ、LEXUS LC は国内テストで 6,000km の走り込みを行っているだけに初挑戦のニュル 24 時間でも順調な立ち上がりを見せて、ライバルメーカーからの注目を集めた。
10 日(木)にスタートしたフリープラクティスで LEXUS LC は総合 17 位につけると、同日の予選 1 回目でも市販車両の改造モデルながら、最高峰クラスの「SP9 クラス」に参戦する地元ドイツ勢のポルシェ911GT3 R、メルセデス AMG GT3、英国のアストンマーチン・V12 バンテージ GT3 など、各メーカーの GT3 マシンに匹敵するタイムをマークして、総合 34 位でフィニッシュ。さらに 11 日(金)の予選 2 回目で LC は総合 31 位までポジションアップ。惜しくもトップ30予選に進出を果たすことはできなかったが、その高いパフォーマンスを証明した。
それだけに好天の空の下で幕を開けた 12 日(土)の決勝でもLCの躍進が期待されていたのだが、グリーンヘルがニューマシンに試練を課すかのように予想外のハプニングが発生する。
混戦を極めたスタート直後に他車と接触したことでエキゾーストを破損、そしてスタートから約 1 時間後にはブレーキトラブルが発生した。その後もナイトセッションを前にミッショントラブル、翌 13 日(日)を迎えると天候が急変、激しい雨に打たれると初のヘビーウェットを前に電気系トラブルに見舞われた。
その後も、厳しいコンディションと対峙しながら力強い走りを披露し、最終的に 97 周を重ねた LC はチェッカーフラッグを受ける。様々なトラブルに祟られながらも、LC は初挑戦のニュル 24 時間を走り抜き、総合96 位、SP-PRO クラス 1 位で完走を果たしたのだった。
「トラブルもあったけれど、エンジニアやメカニックが頑張ってくれたおかげで無事に完走することができたし、最後はノートラブルで走ることができた。大変だったけど貴重な経験になった。この経験を今後のレースに役立てたい」。
そう感想を語ったのは LC とともに初のニュル 24 時間を戦い抜いた中山選手だ。この言葉どおり、LC にとってもこのニュル 24 時間は今後の開発に繋がる一戦で、リザルト以上に多くのものを掴んだに違いない。
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