CRAFTED TALK テクノロジー×ユーザー体験が
生み出す「ブランド価値」の
未来像は?

2019年5月22~24日
B Dash Camp 2019 Spring in Sapporo

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──AMAZINGは、テクノロジーと想像力が出会うときに生まれる。

レクサスの動画中に出てくるフレーズだ。この動画には、“EXPERIENCE AMAZING”というコピーが冠ている。ユーザー体験の向上は、顧客との長期的な関係性を構築し、ブランド想起に欠かせない。現在はフィジカルな場だけでなく、デジタル環境においてもエクスペリエンスは重視され、得られるデータの活用が話題に上ることも多い。テクノロジーとエクスペリエンスは、今や合わせて語られる存在と言ってもいいだろう。

では、その掛け合わせから生まれる「ブランド価値」を捉えるために、現在の私たちはどういった視点を持つべきだろうか。今回はスタートアップのキープレイヤーが多数集い、その未来について議論が交わされるビジネスカンファレンス「B Dash Camp 2019 Spring in Sapporo」で行われたセッションに、それを学んでいく。

取り上げるのは『テクノロジー×ユーザー体験が生み出す「ブランド価値」の未来像』と題されたセッションだ。様々に議論が及んだが、中でもユーザー体験に関しての示唆に富む部分をピックアップする。

また、セッションに続いて、会期中にレクサスが主催した「共創ワークショップ」の模様も、文末に併せて取り上げる。ハリウッド俳優のマシ・オカ氏を講師に招き、俳優やパフォーマーが学ぶインプロビゼーション(即興)の手法を用いたワークショップで、参加者はアイデア発想やチームビルディングについて学ぶ時間となった。

MEMBER

  • 明石ガクト氏

    明石ガクト氏

    ワンメディア
    代表取締役

  • 小泉文明氏

    小泉文明氏

    メルカリ
    取締役社長兼COO

  • 沖野和雄氏

    沖野和雄氏

    レクサスインターナショナル
    ゼネラルマネージャー

  • 玉川憲氏

    玉川憲氏

    ソラコム
    代表取締役社長

  • 菅原健一氏

    モデレーター菅原健一氏

    ムーンショット
    代表取締役社長

「ストーリー」がブランドの資産を作る

玉川 Netflixでこんまりさん(近藤麻理恵さん)の人気がすごく出ましたね。あれは日本の会社が海外へ出て行くときのブランディングとして、新たなメディアの使い方の参考になると思うんです。

小泉 アメリカの縮図ともいえる、同性愛者や移民といったそれぞれの人生ストーリーを等身大に表現して、自分事にさせるツールとして「捨てる」という行為が生きていましたね。

明石 こんまりさんは日本でも流行ったけれど、Netflixで明確に違うことがあって、それは絶対に自分で片付けさせることなんです。各々の状況で「片付けなんてできない」と言う人が、その壁を超えていく。その姿は小泉さんが言ったように、ダイバーシティを感じるものになっていますね。それと、こんまりさんがあえて日本語で通しているのもポイントで、「片付け」が日本の禅みたいなものに通じる神秘的な印象を与えるそうです。これまで散々に「英語でしゃべれないと世界では戦えない」と言われてきたのに。

菅原 あえて通訳を介して話したほうが向いていると。

沖野 その点はレクサスにも通じますね。設立して30年ほど経ち、従来は「日本であること」を、グローバルなマーケティングで使うことにローカルから賛成が出なかった。それが4年ほど前から、むしろローカルから「日本であることを表現しよう」と提案がある。ですから今度、世界中のメディアを通じて、「レクサスのブランド思想はジャパンカルチャーをベースにできている」といったジャーナリストトリップを開催することになりました。

玉川 現在だとHuaweiとGoogleの問題で、中国にいる友達が言うには「今、Huaweiは一致団結している」と。OSの独自開発含め、一念発起しているそうです。強い外圧の掛かった時は進化のチャンスですから、突き抜ける可能性があるかもしれません。

菅原 そういった「ストーリー」が、ブランドの資産を作るところもありますものね。

沖野 ええ。トヨタもリコール問題があったとき、アメリカの消費者が「トヨタのことを信じている」と、SNS上などでも強くサポートしてくださいました。アメリカ人のフェアな部分を感じました。

菅原 あそこで豊田章男社長が自分でアメリカへ話に行ったこと、僕はリスキーだと見ていましたが、結果的には成功しましたよね。社内でも葛藤があったのでは?

沖野 反対もたしかに多かったのですが、社長自らの意思で進退をかけて臨んだようです。

菅原 「ブランド価値」や「お客さまへの信頼」が変数として入ってくるケースでは、絶対にトップ自らが話したほうがいいですね。つまり、合理的な判断だけが是ではないと。

小泉 法人にも「法人格」という人格があるじゃないですか。実際にそれが「ブランド価値」にもなるのでしょう。ソーシャルメディアなど現在のメディアの作り方とも相性がいい。ただ、メルカリの場合はC2Cマーケットプレイスなので、僕らは「無味無臭」でいて、お客さまが自分のお店を開く感覚を持てるような立ち位置を築いていこうとしていますが。

「村」にいる人々にマスなメッセージだけでは届かない

菅原 ここからは、さらに「テクノロジーでユーザー体験やブランド価値はいかに変わるか」という点を話せれば。皆さん、どう考えていますか。

小泉 これまで人間は抑圧されていたと思うんです。情報は一歩通行で自ら発信できず、メルカリで物も売れなかったし、移動の自由度も少なかった。それがテクノロジーで変わっていった現代では、「自分の人生に興味があるものとないもの」の断絶が起きるんじゃないでしょうか。だからこそ、受け取る側の余白を残し、それぞれの人に自分事化させる要素を散りばめていきながら、ブランドを作っていかなければいけない。ワンメッセージだけのマスで作るブランドは難しくなってくるのでは、と。

菅原 社会が滑らかになり、世界はつながったはずなのに、自分の居心地が良い「村」のルールがそれぞれで出来上がっていったみたいな状況ですよね。全員へ一斉に届くみたいなことが、逆に難しくなった気がします。

沖野 レクサスも広告主として手を尽くしていますが、たしかに難しい。一人ひとりの関心領域に刺していかないと、気が付いてもくれないですから。テレビとスマホを併用していたとしても、自分の興味のない映像だと、視聴者はスマホを見るでしょう。さらに、自動車業界はこれまで完全なオフラインカンパニーとして対面販売を主軸にしてきましたが、例えばメルカリさんのようにオンラインでの快適な経験を作ると、今までのオフラインのやり取りに消費者がストレスを覚えるようにもなる。どうにかオンライン的な素晴らしい体験を、いかにオフラインで提供できるのかが鍵になってくるとも思います。

明石 オンラインで物を買うのに慣れると、それこそデパートなんかでもイライラしてしまいますね(笑)。たとえば、クレジットカードを預け、わざわざバックヤードで処理したりするのは、今の時代には恐怖心を与える。Amazonやメルカリが購買体験を変えるまでは、その感情はなかったはずです。一方で、個人が「村」化している話では、先日にメルカリの代行出品サービスを使ってみたら、「ある村ならば8万円で売れるはずのものを3千円で出品していた」という事件があって。つまり、物の価値までもが細分化しているんですね。

菅原 なるほど、村ごとに価値も違うと。

明石 響く人には響くけど、響かない人には響かない。ことインターネットにおいては、コンテンツとメッセージが個々へ届くように整理する有能な広告代理店……僕らのワンメディアも一部を担っていると思いますが、その存在が分断を促進しているのかもしれません。

沖野 ターゲティングを深めて情報を刺していくと、実は「ラグジュアリーブランド」は悩ましい面もあって。というのも、みんなが知ってくれていないと、本人の買った喜びが薄いわけです。

菅原 なるほど。「村」ごとの住人で会話ができるような、共通の言語になっていないからですね。たとえば、雑誌広告なら、読んでいる全員がハイブランドのファッションを買えるわけではないが、「買えることが羨ましい」と思えるように、周囲もそのブランドを知っている状況を作ることが大事だった。その点もテクノロジーとブランド価値の論点ですね。

沖野 ええ。とても大事です。

私たちはネットワークの中で常時生きるようになる

明石 最近のAppleは「世界で一番、あなたの情報を守るデバイスです」といった広告の打ち出し方をしていますね。Googleがデータを取得することへのカウンターなわけですが、画面のきれいさやデザインといった勝負のポイントにされていたところを広告では描かれていません。つまり、モノの本質ではなく、「思想の世界」にまで入ってきた。

菅原 思想がブランド価値を上げる役割を担う時代ですよね。

小泉 だからこそ明石さんたちが作るような動画も効くのでしょう。情報量が多いし、概念も伝えやすいですから。「概念との付き合い方」は企業の新しい課題になりそうです。

明石 テクノロジーが進化して、ARやVRもあり、「動画の時代」はこれからどうなるかとよく聞かれるのですが、映画の『ブレードランナー』では広告が常に立体なんですね。今は、映像や動画、3Dモデルを作っている人が集った総合格闘技みたいな感じなんです。

玉川 僕は飛行機に乗ることが多いのですが、その時の過ごし方で自分の体調が如実に分かります。映画や漫画は受動的だから、しんどくても見られる。でも、テキストを読むのは体力も要るし、能動的に考えながら読まないと入ってこない。気力のバロメーターというか。

小泉 基本的に人間って、ほとんど無意識な時間が多いわけですが、それを前提にした情報設計でブランドを作らないといけないのだろうと考えますね。今までのインターネットは「ユビキタス社会」といって能動的な情報取得の面を見られていましたが、AIや5Gの時代はネットワークの中で僕らが生きるので、情報が勝手にレコメンデーションされてくるようになりますから。

菅原 僕はテクノロジー、ユーザー、マーケティングという3者を移動するサイクルで物事をよく考えます。そして、テクノロジーとユーザーの間には「メディア」があり、ユーザーとマーケティングの間には「ターゲット/インサイト」があります。このサイクルの過程で概念の変化も起きたりするかもしれません。いずれにせよ、過程を踏まえて時代の変化を捉えていただけると、現在の事象が分かりやすくなるんじゃないかと思っています。

沖野 レクサスで今、一番売れているのはRXシリーズというSUVなんです。実は、最初にアメリカ市場へ出す際に、現地の販売担当者からは「売れないだろう」と言われたんです。ただ、私たち企画サイドは、アメリカの方々から求められると分析した上で発売に踏み切りました。人間の変化を分析していたわけですね。テクノロジーが進化しても、「人の気持ち」はそれほど変わらないところもありますから。トヨタという会社はIT企業がブランド力を伸ばす2000年代でも、きちんとしたユーザーベースを築き、それが膨らむことで企業価値を上げていきました。さらに「お客さまへいかに最高の体験をしていただくか」を考え抜いているのが、レクサスという会社であり、ブランドだと思っています。

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